「組織の共同体化」「共同体の組織化」に基づく「ダイナミック組織」の実現がイノベーションを巻き起こす条件であると述べられている書籍。組織とは特定の目的を達成するための手段であり主従関係のある機能的な集団である。また共同体とは目的達成が主眼に置かれているのではなく、仲間意識から形成される集団である。そんな中で「組織の共同体化」において、使命・理念はゼロエネルギーコストで人を動かすものであり、使命への共感及び使命の浸透が「組織の共同体化」の鍵であるとされている。『である』(すなわち、仕組み、制度)は使命を実現する手段にすぎず、定期的な見直しが必要である。見直しの際には、『する』(すなわち、行動)と仕組みとの間に乖離が生じていないかをモニタリングすることが有効に働くという。「共同体の組織化」において、トップからの権限による介入はドメインに対して行うべきであり、ドメインにおける内容や手段は現場に任せることを求めている。一方で、ドメインの判断については現場では楽なほうに逃げてしまうことが想定されるため、トップダウンで行い権限委譲しないことが鍵である。さらに、財務状況などの遅行指標でなく、たとえば従業員が笑顔で働き活気に溢れた職場である等の先行指標をトップが把握することも重要視されている。「組織の共同体化」とは「共同体の組織化」の否定であり、逆に後者は前者の否定である。この否定関係が互いに補完的しあい相乗効果を生み出すことがダイナミック組織の実現につながり、イノベーションを巻き起こしていくと筆者は主張する。会社全体としてアントレプレナー型(リスクを恐れない組織)をとる、または、官僚型(リスクを恐れる組織)をとるといった極端なことはせず、特定の部門ごとに型を可変とするということも有効であるという。その場合、評価の仕組みも組織ごとに変更する必要があるかもしれないが、それなりに大きな企業においては有効に働くのではないか。ある程度当たり前のことが文章化されただけの書籍とも捉えられるかもしれないが、なかなか多くの示唆があった。