- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784535562653
感想・レビュー・書評
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この本は2008年の出版で、新しい。著者は精神科医で、「日本うつ病学会」の理事長。まずはその道の権威といったところだろう。さてこうした現役医師は、昨今の「うつ」乱立についてどう考えているか。
著者野村総一郎さんは、「なんでもかんでもうつ」で、とにかくSSRIを投与、という風潮には真っ向から批判的である。そこで、「うつとは何か?」という問いに立ち返る。
いきなり古代ギリシャにまでさかのぼり、西欧の「うつ」概念の変遷をたどり始める。
しかし、このへんはちょっと調べれば誰でも容易に知りうるような内容で、おもしろみはなかった。
この人の文章は、一般読者を意識したのか非常にわかりやすいが、その分、くどくて浅い。中井久夫さんや木村敏さんなら3行で書き終えているところを、この人は5ページも6ページも費やす。それでいて内容は希薄なのだから、ちょっと読んでいてやるせなかった。
おまけに、しょっちゅう「身近なたとえ話」を繰り出してくるのだが、これがセンスが無く、意味が微妙にずれていて見当違いな比喩とかもあって、お医者さんにこんなこと言うのもなんだが、この人、あんまり頭よくないな、と感じる。
要するにアメリカ式の「DSM-Ⅳ」のような診断基準=マニュアルによって機械的に診断されるという、あまりにもお手軽な状況が、現在の「なんでもうつ」な現象を招いている。しかも精神科医はとにかく抗うつ薬を処方しておしまい、という安易さがまかりとおっている。
著者はこれに対し、「うつ病」なるものをさらに幾つかのサブカテゴリーに分け、患者に応じたさまざまな治療を行うべきだ、と主張する。これはおおむね正しいと思う。
ただ、歴史までたどってきた割には、結局「うつとは何か?」という思索がちっとも深まらずに終わっているのが残念すぎる。
なお、この本を読み、「セロトニン仮説」がやはりどうも怪しい(たとえばフランスでは全く反対にセロトニンを減らす薬をうつ病患者に処方し、広い範囲で成功しているという)点、中井久夫さんも指摘していたが、テレンバッハなどの「メランコリー親和型性格」(うつ病の病前性格としてよく見られるタイプ)は当時はよく当てはまったが、最近の患者にはそうでもなく、発病者のタイプに関しては時代・社会の変化とともに移り変わってゆくのだという点について、改めて考えさせられた。
ということで、けなしながらではあるが、参考になる本ではあった。ハードカバーのわりに、1,700円と安いので興味がある人にはよいかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示