もう一度カウンセリング入門 ◇心理臨床の「あたりまえ」を再考する

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  • 日本評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535564060

作品紹介・あらすじ

カウンセリングは単なる問題解決の場なのだろうか。主訴とは、傾聴とは、共感とは何か。ナラティヴ・セラピーの視点から捉えなおす。

感想・レビュー・書評

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  • “聴くこと”を生業としようとしている身として,
    これからも何度もここに立ち戻って,
    再考し続けたいと感じた。

    ―――

    タイトルからして,カウンセリングの入門書のようなものかと思っていたのだが。

    著者はナラティヴ・セラピーの専門家であり,ナラティヴの理論をツールとして,“聴くこと”が再考されている。

    正直,ナラティヴの観点から…というのは想定しておらず,偏った理解になるのは嫌だな…と警戒しつつ,さらっと目を通すつもりでいたのだが。

    全く心配の余地はなかった。

    技法以前の臨床感覚について言及されていて,教科書的な事柄を臨床感覚から(ときに懐疑的に)見直す内容であった。

    ―――

    P178
     カールソンらによれば,心理療法における理論とは,「心理療法家が実践の大海に乗り出す際に舵取りをする羅針盤となるもの」である。

    P184
     …理論を学ぶことの大切さ…そのやり方がどこからきたかを理解するとき,肝心な点は,理論が目指すところにどのようにたどりつくかということになる。つまり、一人ひとりに工夫の余地があるのだ…やり方とは到達のための一つの手段であることが理解できる。ほかの到達手段があってもいい,ということを感じられるようになるのだ。

     私が信頼できると感じる実践家や理論家には,著書のなかで自身のやり方がすべてであると述べるような傲慢さはない。

    P192
     ものごとを解釈するとき,さまざまな視点や理解の枠組みがある…どの解釈が正解で,その解釈が間違っているということではない。それでもここで,対人支援を生業とする私たちにとって大切な問いがある。それは,どの理解の枠組みが,困難に陥っている人々に,そして私たち自身に,回復は可能であるという期待を抱かせてくれるのだろうか,ということである。
     ある理解の枠組みはもっともらしい解釈を与えてくれはするものの,可能性ではなく希望のなさを痛感させてしまう場合もある。私たちは,希望や可能性を抱かせてくれる理論を頼りに,臨床に取り組む必要があるのである。

  • k

  • 11月新着
    東京大学医学図書館の所蔵情報
    http://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2003567822

  • 著者のワークショップで、すこし「理論」から離れて、ときおり個人的な「思い」として、話されていたことがまとまったような感じ。

    ナラティヴ・セラピーの難しい理論やハードルの高そうな実践についての話しのなかで、こうした「思い」は、ちょっとしたオアシスのようで、好きな時間であった。

    そういう素敵な時間がぎゅっと集まった「ベスト・ヒッツ」みたいな本かな?

    だが、こうして、「カウンセリング入門」というタイトルのもとに、まとまってみると、それらの「思い」をあつめたエッセイ集以上の一つの言説の流れが浮かび上がってくる。

    内容は、言うまでもなく「ナラティヴ・セラピー」という視点からみた「カウンセリング入門」なのだが、著者は、「ナラティヴセラピーのほうが優れているんだ」とか、「ナラティヴ・セラピーを学ぶべき」という立ち位置にはいない。

    あらためて「カウンセリング」というものを考えてみると、こういう視点はどんな支援のあり方であれ大事なんじゃない?という投げかけ。

    ナラティヴ・セラピーの背景には、ポスト構造主義をはじめ難解な思想があり、私たちが当たり前と考えているものと全く違う現実解釈があるわけだが、この本で述べられていることは、たしかに私たちの日常的な考えとは違うのだが、説明を読むと、まったく当たり前と思えるものになっている。

    ナラティブ・セラピーに惹かれつつも、あまりにも高度なスキルにたじろいでしまいがちなのだけど、この本は、それぞれの自分なりの実践のなかにおいて、取り入れられることをとりいれるというか、無自覚に標準化されたスキルを使うのではなく、それがほんとに相手に役に立っているのか、ということを考える視点を持つことが大切ということを伝えているように思う。

    「入門書」だと思って、すらっと読めるだろうと読み始め、実際、文章もとても平易なのだけど、内容はかなり根本的(radical)なもので、しっかりと読む必要があり、読了に数日を要した。

    これは、わかりやすいのだけど、決して「入門書」ではないな。なんらかのメソッドを学んだことのある人むけの「再入門書」ですね。

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著者プロフィール

ニュージーランド,ワイカト大学カウンセリング大学院修了。鹿児島県スクールカウンセラー,東日本大震災時の宮城県緊急派遣カウンセラーなどを経て,2013年からニュージーランドに在住。
ナラティヴ実践協働研究センター所属,ダイバーシティ・カウンセリング・ニュージーランド所属,NPACC NZ Limited ディレクター。臨床心理士,ニュージーランド・カウンセラー協会員。

「2020年 『ライフデザイン・カウンセリングの入門から実践へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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