絵本の魔法

著者 :
  • 白水社
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本棚登録 : 52
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560083178

感想・レビュー・書評

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  • 「本の魔法」が入手できなかったため、同じ著者のこちらを読んでみた。
    司修さんは1936年生まれ。小説家、画家、装丁家、エッセイストと様々な肩書を持つ。
    さて、絵本の魔法とはどんな魔法か。
    魔法にかけられたのは著者自身か、読み手の私たちか、それとも作品そのものが魔法のような力を持っているのか。

    •「幼年の鍵」みにくいあひるのこ
    •「妹の鍵」宮沢賢治童話集
    •「地の鍵」100万羽のハト
    •「風景の鍵】クリスチーナの世界
    •「島の鍵」おばあのものがたり
    •「夢の鍵」マグリット
    •「迷宮の鍵」エンデ
    •「魂の鍵】」センダック

    という8つの鍵が章になっている。
    それぞれの章の扉に、登場する絵本の表紙が描かれており、これが本書の表紙と同じ。
    右上が「みにくいあひるのこ」。その下が宮沢賢治作品3作。その下が「100万羽のハト」の順。
    すべて司さんの装丁だ。どこかで見たことがあるでしょ?

    とりわけ20作も装丁を手掛けている宮沢賢治の部分が、本書のかなめと言えるだろう。
    「妹(いも)の鍵」とあるが、柳田國男の著書からとったもの。
    ここでいう「妹」とは、自分に近しい女性全般のこと。母や妻、姉妹や恋人など。
    古代においては身近な女性たちが霊力によって男性を守り力を与える存在だったという。
    宮沢賢治の「妹の力」とは、良く知られている妹の「とし子」の存在。
    賢治と妹の深い関係。共に語り、共にみた世界が彼の童話であるという。
    読みながら、ああそうそう、その通りと、何度もうなづいてしまった。
    小ブルジョアで気弱で迷いの多かった賢治に比較すると、「とし子」には迷いがない。兄は妹に守られていたのだ。

    奄美のおばあの話、エンデもセンダックも考察が奥深い。
    特に惹かれたのは向田邦子さんとの思い出に繋がる「100万羽のハト」の話。
    思わずにっこりしてしまうエピソードだ。
    「わたしはアフリカに土地を持っているの。キリマンジャロの麓なのよ」
    と言ってアフリカの地図を広げ、草原らしきあたりに指を置いたという。
    「誰にも断ってないのよ。少女時代に決めたまま」
    …一気に少年に戻ってしまった司さんは、この時魔法にかかったに違いない。

    中卒で絵は独学と言う。
    完成へと向かうインスピレーションはどこから生まれるのか。
    作家さんと作品に真摯に対峙して、ひとの弱さや移ろいやすさ、純粋さをその眼でとらえ、深い理解に基づいて想像力を広げてきたのだろう。
    著者の思考過程をトレースしていくと、私もまた魔法にかかる。
    今夜はMAPSを広げて自分の土地を持ってみよう。
    絵本好きの方、司さんのファンの方には特にお勧め。
    各章ごとにブックリストが掲載される親切さ。
    分類では[7]の芸術に入る。美しい装丁はすでに芸術の域なのだ。

    • nejidonさん
      goya626さん。
      それは素敵な思い出ですね!
      お嬢さんたちもきっと覚えておられるかも。
      絵画は(演劇もスポーツもそうですが)実物を...
      goya626さん。
      それは素敵な思い出ですね!
      お嬢さんたちもきっと覚えておられるかも。
      絵画は(演劇もスポーツもそうですが)実物を見るべきです。まるで違いますものね。
      展覧会ではマグリットしか見たことはないのですが、それでも強い印象を抱きました。
      絵画というモノに対する見方を変えてくれた絵でもあります。
      2020/12/18
    • goya626さん
      今、毎日少しずつハマスホイの画集を見ているのですが、本当の良さは肌合いとか、色の微妙な変化とか、実物を見ないと分からないだろうなと思います。...
      今、毎日少しずつハマスホイの画集を見ているのですが、本当の良さは肌合いとか、色の微妙な変化とか、実物を見ないと分からないだろうなと思います。モランディやユトリロの展覧会に行ったとき実感しました。マグリットは変な絵と言えば変な絵ですが、なんか惹かれますね。
      2020/12/19
    • nejidonさん
      goya626さん。
      そうそう!まさに言われる通りだと思います。
      展覧会でユトリロの絵を見て一気にファンになったことがあります。
      画家...
      goya626さん。
      そうそう!まさに言われる通りだと思います。
      展覧会でユトリロの絵を見て一気にファンになったことがあります。
      画家の情報などは抜きにして、絵そのものをじっくり見る良い機会ですよね。
      画像ではどうしても平面になりますから。
      マグリットは??から始まります・(笑)
      そしてどうにも気になってくる。不思議な画家さんです。
      2020/12/19
  • 「本の魔法」に続くエッセイ。司修が手掛けた絵本や挿絵の入った物語を再読したくなりますね。。。

    白水社のPR
    「『みにくいあひるのこ』『宮澤賢治童話集』『サーカス物語』など、独自の絵本の世界を切り開いた芸術家が探る、生と死の根源。」

  • 司修さんのことは名前を聞いただけではピンと来なかった。恥ずかしながら、作品を見で、初めてやっとわかった。よく絵本で見ているものの、氏の名前までははっきりとは覚えていなかった。しかし、これだと分かれば、はっきりとわかる個性的な絵である。
    この本はその司さんの手がけた本をめぐってのエッセイ。こんなに読み込んで作っている、ここまで深く考えて作っているのかと、驚くとともに、もう一度、または今まで読んだことのない本でも読んでみたくなる。

  • 絵本

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著者プロフィール

司 修(つかさ・おさむ)
1936年生まれ。画家、小説家。法政大学名誉教授。
中学卒業後、独学で絵を学び、絵画や版画をはじめ、絵本、書籍の装丁、挿絵など多岐にわたる作品を発表。また小説やエッセイ、脚本など文筆分野での活躍でも知られる。
1978年『はなのゆびわ』で小学館絵画賞受賞。 1993年 「犬」で 川端康成文学賞、 2006年 『ブロンズの地中海』で毎日芸術賞、2011年『本の魔法』で大佛次郎賞受賞。 2016年イーハトーブ賞受賞。

展覧会
1986 年『司修の世界』(池田20 世紀美術館)
2011 年『司修のえものがたり──絵本原画の世界』(群馬県立近代美術館)

著書
絵本:『河原にできた中世の町』(文・網野善彦、岩波書店)
   『まちんと』(文・松谷みよ子、偕成社)
   『ぼくはひとりぼっちじゃない』(作・絵 司修、理論社)
小説:『幽霊さん』(ぷねうま舎)
   『戦争と美術』(岩波新書)
   『空白の絵本 ─語り部の少年たち─』(鳥影社)
などがある。

「2024年 『さようなら大江健三郎こんにちは』 で使われていた紹介文から引用しています。」

司修の作品

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