別れを告げない (エクス・リブリス)

  • 白水社
4.20
  • (5)
  • (3)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 238
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560090916

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • <韓国・KBS>「別れを告げない」がアジア文学賞受賞 BS1【ワールドニュース】|JCCテレビすべて(2024/03/01)
    https://jcc.jp/news/20610696/

    作家の韓江(ハン・ガン)さん、 仏メディシス賞の「外国文学賞」受賞 韓国人初 > 韓国生活 | tt-shop(23-11-15)
    https://tt-shop.jp/tour_life/87

    [북리뷰] 한강, "작별하지 않는다"
    https://brunch.co.kr/@pdahnchul/4

    別れを告げない - 白水社
    https://www.hakusuisha.co.jp/book/b641804.html

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【オンライン】『別れを告げない』刊行記念 ハン・ガンさんトークイベント| Peatix(開催日2024年5月14日)
      https://pea...
      【オンライン】『別れを告げない』刊行記念 ハン・ガンさんトークイベント| Peatix(開催日2024年5月14日)
      https://peatix.com/event/3933327
      2024/05/08
  • 作家のキョンハは、虐殺に関する小説を執筆中に、何かを暗示するような悪夢を見るようになる。ドキュメンタリー映画作家だった友人のインソンに相談し、短編映画の制作を約束した。
    済州島出身のインソンは認知症が進む母の介護のため島に戻り、看病の末に看取った。キョンハと映画制作の約束をしたのは葬儀の時だ。それから4年が過ぎても制作は進まず、私生活では家族や職を失い、遺書も書いていたキョンハのもとへ、インソンから「すぐ来て」とメールが届く…



    研ぎ澄まされた静謐な世界。生と死のあわいで語られる事実。済州島4・3事件を生き延びた母親の知られざる情熱、粘り強さ。
    もう何と言ったらいいかわからないけれど、最後の3行からは光を感じられた。痛みを通過して回復へと至る人間に備わった力への信頼。たしかに「究極の愛の小説」だった。

    斎藤真理子さんの訳者あとがきは、いつもわかりやすく丁寧で、本当にありがたい。済州島4・3事件について知らないことばかりだった。


    “そのうちいつからか、母さんが嫌になってきたの。この世が嫌で耐えられないのと同じくらい、ただもう母さんが気持ち悪かった。自分自身を嫌っていたのと同じくらい、母さんが嫌だったんだね。母さんが作ってくれた料理が気持ち悪くて、傷だらけの食卓を几帳面に布巾で拭いてる後ろ姿にぞっとして、昔ふうに結い上げた白髪が嫌で、何かで罰を与えられた人みたいに少し背中をかがめた歩き方にいらいらした。だんだん憎しみが大きくなって、そのうち息もできないくらいになったの。何か火の玉みたいなものがひっきりなしに、みぞおちから湧き上がってくるみたいで。家出したのは要するに、生きたかったからだよね。そうしないとあの火の玉が私を殺してしまいそうだったから。”

    “資料が集まって、その輪郭がはっきりしてきたある時点から、自分が変形していくのを感じたよ。人間が人間に何をしようが、もう驚きそうにない状態…心臓の奥で何かがもう毀損されていて、げっそりとえぐり取られたそこから滲んで出てくる血はもう赤くもないし、ほとばしることもなくて、ぼろぼろになったその切断面で、ただ諦念によってだけ止められる痛みが点滅する…これが母さんの通ってきた場所だと、わかったの。悪夢から目覚めて顔を洗って鏡を見ると、あの顔にしつこく刻み込まれていたものが私の顔からも滲み出ていたから。信じられなかったのは、毎日太陽の光が戻ってくるということだった。…
    怖くなかった。いいえ、息もできないくらい幸せだった。苦痛なのか恍惚なのかわからない不思議な激情の中で、その冷たい風を、風をまとった人たちをかき分けながら歩いていったんだ。何千本もの透明な針が全身に刺さったみたいに、それを通って輸血のように生命が流れ込んでくるのを感じたの。私は狂ったように見えたか、実際に狂ってたのでしょうね。心臓が割れるほどの激烈な、奇妙な喜びの中で思った。これでやっと、あなたとやることにしたあの仕事を始められるって”


  • ハン・ガンの最新長編。邦訳は詩集を入れて7作ほど。

    相変わらず流れるように美しい文章。風景や場面の描写が良いが、「すべての、白いものたちの」と同じく、特に雪の描写が洗練されすぎていて怖いくらい。海外の作家で、ここまでスッと情景が浮かぶ作家は他にいないと思う。

    家族も仕事もなくし、虐殺に関する小説を書いた後から繰り返し見る悪夢に苛まれ、遺書まで用意したキョンハの元に、友人のインソンから連絡がある。すぐ来てと。急いでインソンの元へ駆けつけると、仕事中に指を切断してしまったらしいことがわかる。入院したインソンから、小鳥の世話を代わりにしてほしく、すぐに済州島へ行ってくれないかと言われ。。。

    恥ずかしながら済州島4・3事件を知らなかったが、さながら地獄のように思えた。なまじ描写が美しいため、凄惨さがより際立つ。
    ストーリーは中盤から、生と死が曖昧な、誰が生きていて死んでいるのかわからないまま進むが、事件のことはノンフィクションかのように語られる。メッセージ性の強さが、好き嫌いが分かれるかもしれないが、タイトルの「別れを告げない」=風化させないという強い意志を感じた。

    雪の描写はまた別格だが、蝋燭に照らされ伸びる影といった、光と影の場面描写も非常に良い。ずっと読んでいたい、そんな酩酊感に包まれるような作品。

  • 「少年が来る」で知った光州事件。
    そして今作「別れを告げない」で知る済州島4.3事件。

    訳者あとがきにハンガンの言葉が引用されている。
    「光がなければ光を作り出してでも進んでいくのが、書くという行為だと思う」

    残酷さ、悲劇さと美しさが同居する様は
    パトリシア・グスマンのドキュメンタリーのよう。

    さあ蠟燭を灯そう。


  • 感性の高み。無音の世界観。尊き人々の御霊の行方に追い焦がれ、闇にもがき触れあうなか、史実が雪の淡いの如く顕れては別の処へと漂う哀切。どの次元に連れていかれるかと惑う心理に迫られる。拙い私には訳者あとがきなくしては辿れなかった。

  • 出版社(白水社)ページ
    https://www.hakusuisha.co.jp/book/b641804.html

    文学賞受賞ニュース
    ● メディシス賞外国小説部門受賞(「東亜日報」2023.11.11)
    https://www.donga.com/jp/article/all/20231111/4546759/1
    ● エミール・ギメ アジア文学賞(「聯合ニュース」2024.03.01)
    https://jp.yna.co.kr/view/AJP20240301000300882

  • 「雪のように軽いと人々はいう。けれども雪にも重さがある。・・・鳥のように軽いととも言う。だが彼らにも重さがある。」触れてはたちまち溶け消えてしまうような小さな雪の結晶の、「これまで触れてきたどんな生命よりも軽い」小鳥の、あるいは、洞窟の奥に埋もれた何千もの遺骨のひとつに成り果てた命の存在の軽さの、それらひとつひとつが固有にもつどこまでもずっしりとした重さを、どれだけ感覚することができるだろうか。キョンハの掌の上で、鳥の羽毛のように軽い雪の結晶が世界で一番柔らかい氷になったとき、彼女は「忘れないだろうと私は思った。この柔らかさを忘れずにいよう」と言う。過ぎ去ったもの、決して戻らないもの、存在しないものに、別れを告げることなく、それらと共に生きること。失われたときに別れがやってくるのではなく、失われたものを忘れてしまったとき、本当の別れがやってくる。だから、「本当の別れじゃないもの、まだ。」
    繊細で、儚くて、脆くて、簡単に見過ごされ踏み潰され壊されてしまうような、存在の微小な表象たちをまっすぐ感受して受け止める感性の純度は、ふつうひとにはとても耐えきれるものではない。壊れやすいもの、たちまち消え去ってしまうようなものを受け止め守っていくには、心は暖かく、強くなければならないだろう。存在しないものを存在させてしまう、究極の愛を心のうちにたたえた人間は、強くて美しい。いま小説を読み終わって感じるこのどこまでも透き通った感情を、忘れずにいたい。

  • すぐお隣の国でこんな悲惨な事件が起こっていたなんて…。「知らない」って罪だ。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

著者:ハン・ガン
1970年、韓国・光州生まれ。延世大学国文学科卒業。
1993年、季刊『文学と社会』に詩を発表し、翌年ソウル新聞の新春文芸に短編小説「赤い碇」が当選し作家としてデビューする。2005年、中編「蒙古斑」で韓国最高峰の文学賞である李箱文学賞を受賞、同作を含む3つの中編小説をまとめた『菜食主義者』で2016年にア
ジア人初のマン・ブッカー国際賞を受賞する。邦訳に『菜食主義者』(きむ ふな訳)、『少年が来る』(井手俊作訳)、『そっと 静かに』(古川綾子訳、以上クオン)、『ギリシャ語の時間』(斎藤真理子訳、晶文社)、『すべての、白いものたちの』(斎藤真理子訳、河出書房新社)、『回復する人間』(斎藤真理子訳、白水社)などがある。

「2022年 『引き出しに夕方をしまっておいた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ハン・ガンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
塩田 武士
ヴィクトール・E...
カズオ・イシグロ
ファン・ジョンウ...
高瀬 隼子
ジュリア フィリ...
津村 記久子
チョ ナムジュ
イリナ・グリゴレ
ファン・ジョンウ...
くぼた のぞみ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×