- Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560097489
作品紹介・あらすじ
建築史家のアウステルリッツは、帝国主義の遺物の駅舎、要塞、病院、監獄を巡り、〈私〉に暴力と権力の歴史を語る。解説:多和田葉子
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
不思議な本だった。アウステルリッツの語りが、さらに物語の語り手である「私」によって語られていく。それは静かな語りである。アウステルリッツの過去を紐解く旅に伴って、舞台はイギリスを初めヨーロッパ各地を転々とする。その背後には第二次世界大戦の惨禍が暗い影のようにつきまとう。時間という概念がぼやけ、自分が今どこにいるのかわからなくなるような物語。しばしば挿入されている写真や図が神秘的だった。
-
①文体★★★★★
②読後余韻★★★★★
アウステルリッツというタイトルは三帝会戦を思わせますが、登場人物の名前です。アウステルリッツは建築史の研究者として、駅舎や裁判所、要塞都市、病院や監獄などに興味をひかれ、文献をあたり、また実際にその場を訪れ記録をする人物です。語り手である「私」は、そんな彼と出会い、彼の聞き手として、文章を綴ります。
アウステルリッツはおのれの出自をたどろうと、ヨーロッパの諸都市を旅します。それはユダヤ人として迫害を受けた両親をたどるまでにつながり、暴力、そして権力による歴史を目の当たりにすることになります。
彼が訪れた様々な建築物、聴こえない声に耳をすませるアウステルリッツの博識から語られる歴史、そして彼自身の過去を支える文章は、抑制のある静謐なものです。それらの記憶が都市や建造物、廃墟に寄せられ、内部へと反響するかのように感じます。
段落も章分けもない語り口。文章とあわせところどころ挟みこまれたモノクロの写真。膨大な知識と思索がぎっしり詰め込まれた密度の高い文章には「~とアウステルリッツは語った」というフレーズが不自然なまでに挿入され、読み手にあるひっかかりを与えながら過去から現在に私たち読者を引き戻します。
いったいどこまでが本当のことで、どこからがフィクションか曖昧で、小説なのか、それとも散文としてとらえていいのかよくわかりません。そしていったいなんのことであるのであろうか、と思わせるほど、読んだ片端から文字が流水で洗われるかのようにかき消えていく感覚にもなります。それがこの本を幾度も手にする理由になっています。 -
-
読み終わってない。興味深い内容だし、文体も素敵なのだが、はいってこない。なぜなんだ。
しばらくフィットしないかも