世界標準研究を発信した日本人経営学者たち: 日本経営学革新史1976-2000年

著者 :
  • 白桃書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784561161851

作品紹介・あらすじ

近年、大学に職を得るにあたり、査読付き英文雑誌への採択が重要視されるようになった。その影響力を定量化したインパクトファクターに直結し、実績としての評価がされやすいとの認識が広まったためである。

しかしこのために、論文の生産に汲々とし優等生的基準に縛られるあり方に著者は異を唱える。「経営学研究は知的冒険であり、未知の世界への挑戦そのもの」と言い、「試行錯誤を伴う苦労の末、明らかにできた発見物が他の研究者や実務家にどのように評価され、彼らの活動に活かされていくのか」、一喜一憂し、「知的興奮を味あわせてくれるのが経営学研究ではないのか」。

本書は世界的に影響力ある研究を発表した研究者やその共同研究者たちを取材し、試行錯誤の過程を経て、対象とする研究が発表されるまでを物語として再構成し描き出している。そして研究活動が、予定された順序に従い理路整然と行儀よく進んでいくのではなく、同時期あるいは時間的に連続し相互関連しながらより大きな研究成果へと結実していく課程を、「動画」として記述、解説を試みている。

若手研究者だけでなく、日本の経営風土の下に生まれたユニークな研究を学べ、経営学に関心のある一般の方にもお勧め。

感想・レビュー・書評

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  • 東2法経図・6F開架:335.12A/O24s//K

  • 日本を代表する経営学研究者に焦点を当て、彼らがどのような経緯、同期で経営学の研究を志すようになったのか、研究活動の過程でどのような出会い、気づき、偶然があり、世界標準の研究を発信するに至ったのか、ということがケーススタディ形式で整理されている。

    研究内容のみを見ると、極めてシャープに新たな発見や洞察が語られており、どこか距離感を感じてしまうが、研究の背景にあったストーリーに触れることにより、少し研究活動が身近なことのように感じた。

    本書を通じて個人的に得た気づきは主に3つ。
    ①複数人で協力して研究を行うことにより、異質な知が混ざり合い、新たな発見を生み出すことができる→研究のアイディアをシェアすることにより、必然的に自分にはない観点からの事象理解を深められる
    ②世界標準となる研究は、その当時の社会的、学術的な関心時と整合性が取れている→単に新たな発見があるだけでなく、それが時代とマッチしていることが重要。経営学は実学の側面も持ち合わせるため、学術面だけでなく実務面へのアンテナも重要
    ③世界標準となる研究が生み出されるまで、構想段階を含めると実に10年近い年月を要している→1つの領域を深く理解し、新たな知を生み出すことは簡単なことではない。少なくとも世界標準の研究を実行するためには、効率性を度外視し、自らの時間を注ぎ込めるだけの事象に対する関心、胆力が必要。いずれの研究者も、予断なく事象を観察し、新たな発見に至っている

  • 伊丹さんや野中さんをはじめとする日本発の「世界標準研究」がどのようにしてなされたかについて、丁寧なインタビューを踏まえて、まとめてある。

    研究裏話しみたいな感じで、仕上がった本を読むのとは全く違う知的なスリルがあって、とても楽しく読んだ。

    といっても、これはたんに裏話しをまとめただけの本ではなく、イノベーティブな研究がどのようなプロセスのなかで生み出されるかというケーススタディのようなもの。

    大きくは4つのケースが紹介されて、そこから導き出される洞察をもって、本書は締め括られる。(その後に長いエンドロールで、ユーザー・イノベーションのプロセスの紹介がさなされる)

    結論部分を紹介すると、読む楽しみがなくなるので、そこは読んでの楽しみということで。

    個人的には、知っている人、会ったことのある人、本で読んだことがある人がときどき出現して、おおおお、あれはそんなにすごい人だったんだ!と驚いてしまったりした。

    そして、大学時代に商学部という経営系の学部にいたにもかかわらず、授業はつまんなくて、学校にはほとんどいかなかったのだが、ここにでてくる先生方も授業はつまんなかったらしく、学校には行かなかったとか、もっとイノベーティブな研究、実証を重視した研究、そして授業をよりよいものにしたいと思っていたということに共感した。

    その動きがしっかりと実現化したのは、わたしの卒業後。つまり、わたしが授業がつまんなくても、それはわたしのせいではなかったのだ。

    そういう意味で、ちょっとスッキリした。

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著者プロフィール

小川 進(オガワ ススム)
神戸大学大学院経営学研究科教授、MITリサーチ・アフィリエイト
1964年兵庫県生まれ。87年神戸大学経営学部卒業、98年マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院にてPh.D.取得。2003年より現職。研究領域は、イノベーション、経営戦略、マーケティング。
主な著作に『イノベーションの発生論理』『はじめてのマーケティング』(ともに千倉書房)、『競争的共創論』(白桃書房)、『ユーザーイノベーション』(東洋経済新報社)がある。
英語論文では、フランク・ピラーとの共著“Reducing the Risks of New Product Development”やエリック・フォン・ヒッペルらとの共著“The Age of the Consumer-Innovator”(ともにMIT Sloan Management Review掲載)などがあり、ユーザーイノベーション研究では世界的な評価を得ている。組織学会高宮晋賞(2001年)、吉田秀雄賞(2011年、準賞)、高橋亀吉記念賞(2012年、優秀作)などを受賞。

「2020年 『QRコードの奇跡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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