語りで中和された痛み
アーサー王伝説って不思議☆ 理想の王と詠われ、半ば本気で復活を期待されてしまうアーサー王と、自ら危険に身を投じてゆく円卓の騎士たち。彼らを描いた幾多の冒険譚は脈々と受け継がれ、現代になっても飽かず編み続けられているのです。
最近の作品としては、ローズマリ・サトクリフのものが挙げられます。以前、サトクリフ・オリジナルの『アーサー王三部作』に触れたことがあるのだけれども、それって子ども向けに書かれたものを、私は子どもでないのに読んでしまったのね。それでも面白かったけど★
大人が堂々と読める本、それが『落日の剣』です。
いよいよ死を目前にした主人公・アルトスが、自らの生涯をふりかえり始めます。例の『アーサー王伝説』のエピソードをうまく組みこみながら、勇壮に物語られるは、アルトスことアーサー王と、彼が育てた騎士団の戦いの日々。敵の侵攻を食い止め、ブリテンの領土を守ってきた英雄たち。
本来ならば、なまなましい危険と死の恐怖に満ちているのが戦というものでしょう。この物語では特に、敵は蛮族となっている! 書きようによっては血みどろの惨劇にもなり得ましょう。
ですが、サトクリフの筆はアルトスの死へと向かって、血なまぐささを物悲しさでつつみこみ、中和していきます。回想のなせる業ですね。「語り」の形式で、記憶の泉をくみあげるところで、ちょうどいい距離感が出るのだと思います。
伝説に昇華されたがゆえに、アーサー王はあまりにも透明感がありすぎて、印象に薄い人物でもありました。はるか彼方へと消えゆくのが、英雄の宿命なのです。とは言え、アーサー王は周りの騎士たちにおいしいところをさらわれることの多い存在ですね~。
それが、本書のアルトスは偶像ではなく、もっと人間らしい魅力を放っている。これまでに読んだなかでは、彼が最も強くて最も弱く、最も印象に残ったアーサー王です☆