歴史を変えた外交交渉

  • 原書房
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784562049059

作品紹介・あらすじ

「言葉は、武器と同じように歴史を決定づける力をもっている」。
アメリカ独立からナポレオン戦争、世界大戦を経て中東、冷戦……
歴史の分水嶺で繰り広げられた国を背負った外交交渉のすべて。
交渉力こそ「生き残る」カギである!
日本語版序文・村田晃嗣。

感想・レビュー・書評

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  • 結構良かった。重要な外交交渉からヨーロッパ史の流れを紐解こうというものだけあって、ただその場だけでない趣がある。
    武田信玄の「戦いは五分の勝ちをもって上となし、七分を中とし、十を下とす。」を思い出す。
    ナポレオンを破った列強はウィーン会議でそれぞれの利益にこだわり過ぎて紛糾し、フランスのタレーランに有利な状況を作ってしまう。その経験を警戒したパリ講和条約では負けたドイツを封じ込めすぎて過剰な賠償金を課し、それがヒトラーの台頭に繋がるのだ。

    さらっと
    “最初の問題はポーランドをどうするかだった。18世紀末、ポーランドは強大な隣国プロイセン、オーストリア、ロシアに絶え間なく国土をむしり取られており、1796年にはついに完全に消滅した。”
    と書かれているところで、ふと日本を思い出した。余りにアメリカ寄りの政策をしているように感じるけれど、近隣の中露に近づけばいつかポーランドと同じ憂き目をみるだろう、と。

    ・フランスはアメリカ独立戦争支援に10億ルーブル(フランスの国家予算の3倍に相当する)以上費やし、国家財政は深刻な赤字となった。国民に重い税負担を強いることになり、これが1789年のフランス革命を引き起こし、ルイ16世は1793年に断頭台の露と消えた。

    ・ナポレオンは閣僚たちにアメリカ側と早急に交渉を開始するよう命じた。売却の対象はアメリカから求められているニューオーリンズだけでなくルイジアナ全域だった。とはいえ安値では売るなと一言注意を与えた。安値で売るくらいなら「必死になって、このすばらしい地域を維持する」方がよいと考えていた。「ミシシッピ川流域を握った国が ゆくゆくは世界一の強国になる」と的確に見通していたのだ。

    ・より深い観点から見れば、この問題は分化の相違に由来するものであった。アジアの外交交渉では賠償金の支払いは広く行われており、前世紀に東アジアで行われた大規模な戦争では例外なく敗戦国が戦勝国に賠償金を支払っていることを日本側はよく知っていた。これまでの闘いの経過と既成事実から、賠償要求は戦争の慣例に従った権利と日本側は考えていた。日本の立場を考えれば、日本が勝利を収めているにもかかわらず賠償金の支払いを拒むロシアの姿勢はひどい侮辱だった。ロシアは異なる見方をしていた 。近年のシベリア横断鉄道建設までロシアは西側志向できており、ヨーロッパから知識を得ていた。ヨーロッパでは賠償金の支払いはめったになく、国土を蹂躙され首都を占領された場合にのみ発生した。ロシア側は、本国から遠く離れた僻地の戦場で何度か敗北しただけで、戦争に敗れたとは考えていなかった。ロシアは日本以上にばくだいな金をこの戦争に注ぎ込んでおり、ここでなぜ日本の戦費まで払わねばならないのか理由がわからなかった。

  • 取り上げている交渉は8つ、いずれも各国の思惑が交差しぎりぎりの妥結だった。そして交渉結果が新たな歴史の原因となっているのがよくわかる。

    1.アメリカ独立の舞台裏1778年
    1776年独立宣言をしたにもかかわらず大陸軍は武器・弾薬不足に悩まされ兵士一人当たりの弾薬は5発に満たなかった。支援をするフランスはアメリカを失うことによるイギリスの弱体化を狙いながらも表立っては中立を表明しており、そのフランスに交渉によるアメリカ支援を訴えたのがベンジャミン・フランクリン一行だった。イギリス軍はニューヨークを占領しアメリカ軍はペンシルヴァニアまで後退、フランクリンが提案した米仏西同盟は断わられ、77年7月にはニューイングランドが孤立し南北のイギリス軍から挟み撃ちに合う怖れが出ていた。独立は風前の灯火だった。

    78年に入り米英の和解交渉は決裂したがフランクリンは英仏それぞれにアメリカが自国に不利な和解をするのではないかという不安を植え付けるのに成功している。フランスの即時参戦を要求するアメリカと公然とアメリカを援助したくないフランスだが2月6日英仏が戦争になった場合に発効される同盟を結んだ。半年後に英仏は交戦状態に入り、1年後にはジブラルタルを狙うスペインが対英戦に参入し、イギリス軍は兵力の分散を余儀なくされた。1781年のヨークタウンの戦いに勝ったアメリカの独立が決定的となり、イギリスは大西洋に置ける独占的制海権を失った。アメリカ独立に決定的な役割を果たしたフランスの軍需物資や兵士の給与の支援は10億ルーブルに及びこれは当時のフランスの国家予算の3倍に匹敵する。そして過酷な増税がフランス革命を引き起こした。

    2.ルイジアナ買収1803年
    フランスは1800年にトスカーナ公国とスペイン領ルイジアナを交換していた。今では想像できないが当時はイタリアの1地方トスカーナの方が広大なルイジアナよりも価値が高かった。ルイジアナ州はニューオーリンズに代表されるミシシッピー川下流というイメージだがフランス領ルイジアナはグレートプレーンズを含むアメリカ中西部全体で今のアメリカの1/4にあたる。当時でもこの買収でアメリカの面積は倍になりテキサス独立とメキシコ割譲を経て1848年にはほぼアメリカ本土が確立した。1870年には実質GDPでほぼイギリスと並び、1905年には一人当たりGDPでもイギリスを抜いている。アメリカ独立がフランス革命を生み、ナポレオンのフランスがルイジアナを手に入れた時点ではナポレオンはルイジアナを新世界のフランス帝国の中心に使用としており、、ニューオーリンズは当時のアメリカの通商の半分が通る要港であり、アメリカがニューオーリンズを占拠しないのであれば南部諸州は連邦からの脱退も辞さない構えだった。

    ニューオーリンズのみを購入しようとするアメリカに対し、イギリスに渡すくらいならアメリカに売ると考えたナポレオンはヨーロッパでの戦争開始に備えて資金を必要としていた。安く売るくらいなら必死で守るつもりだったが「ミシシッピ川流域を握った国がゆくゆくは世界一の強国になる」と的確に見通しており、それでも新世界フランス帝国を諦めてでもヨーロッパ戦、特に最初に始まる対イギリス戦の戦費調達を優先したのだ。買収金額は最低5千万フランと考えており、フランスはルイジアナ全体を1億フランで売却すると持ちかけた。当時のアメリカの実行予算5年分だ。アメリカの交渉人は後の第5代大統領ジェイムズ・モンロー、このルイジアナ買収がなければ後のモンロー主義も生まれていない。アメリカは内心5千万フランまでは支払うつもりで4千万から交渉を始めた。フランス側も8千万以下では折り合わないと決めており結果としては現金6千万フランと2千万フランのフランスの債務肩代わりで決着した。ウィキによると合計1500万ドルなので史上最高のお買い得だったろう。しかし両国とも正確なルイジアナの領域を把握していなかった。

    続くのは第一次大戦までのヨーロッパ国家の基本的な線引きを決めたウイーン会議での敗戦国フランスの見事な立ち回り、当時世界最大の戦争継続をなんとか回避した日露戦争のポーツマス条約、現代のヨーロッパ国境のほとんどを決めることになるパリ講和会議、イスラエル国家の国境線をほぼ消めたエジプト・イスラエル休戦協定、全面核戦争一歩手前だったキューバ危機、一旦は物別れに終わったがその後のデタントと冷戦終結からソ連崩壊の象徴になるレイキャビク会談が取り上げられており近現代史はやはり面白いし、世界がいかにぎりぎりのバランスでなんとかやってきたのかがよく分かる。

    これらの交渉を思えばウクライナ紛争は解決可能だと思えるがイスラム国の方はこの後どうなるか気がかりだ。金に換算できるものならば交渉できるがその前の価値観が違いすぎると難しいかも。北方領土や竹島や尖閣諸島も国家の主権やメンツの問題になると解決できそうにないが、ポーツマス条約に比べれば双方の掛け金はかなり小さい。ポーツマス条約で問題になった賠償金は実はヨーロッパの戦争では首都が陥落させられてない場合はほとんど発生していなかった。すでに国家予算4年分の軍事費を投じた日本は戦争を遂行する資金がなく、軍事的には勝っていたが戦争続行となれば泥沼化しており小村寿太郎の賠償請求放棄は英断であったのだが国民には受け入れられず桂内閣は退陣させられた。ルイジアナ買収でも反対する者がいたりするので外交交渉の歴史的な評価とその時の評価は大きく食い違うこともある。

  • レイキャビク会合でレーガン大統領とゴルバチョフ書記官が別れたところでうるっときた(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

  •  現在、日本はTPPに参加するための交渉を行っている。交渉というのは、物事をスムーズに解決する為に代表者が話し合うことだが、必ずしも良好に終わるとは断言できない。
     この本は世界的にも有名な会議・条約・協定・会談がどの様に行われたのかを内部まで細かく描いた記録である。
    (外国語学部)

  • 319.02||St

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