移動力と接続性 下:文明3.0の地政学

  • 原書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784562071425

作品紹介・あらすじ

人類は移動によって「進化」してきた。あらたな50年は困難に直面しながらもフレキシブルに多様化し、国境なき人類は文明3.0を迎える。厖大なデータと世界各地で得た見聞をもとに導く未来像。ポスト・コロナの新『「接続性」の地政学』。

感想・レビュー・書評

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  • まず本書で感銘を受けた点を書きます。それは著者の知見や経験の幅広さです。著者は世界中に実際に足を運んだ経験があるようで、日本人にとってはまったくなじみのない地名がたくさん出てきます。そして、それらの町に関する情報が次から次への紹介されます。これは裏返すと、大半の日本人読者は途中でついていけなくなる可能性もあります。そして下巻の後半では日本についても記載されているのですが、著者は基本的に日本を移民受入国として極めて有望な国とみなしているようです。

    しかし本書で書かれている内容については事実関係が怪しいところが多い。たとえば日本のパートでは、「世界のメガシティの中で著しい人口減少が記録されているのは東京だけである」という記述がありますが、これは事実ではありません。2022年1月に、東京の人口が「(対前年比で)26年ぶりに減少」というのがニュースになりましたが、これが事実です。東京は「著しい人口減少」など起こっていません。私自身人口統計をみましたが、市区町村でみると、人口減少が起こったのは新宿区や福生市などで、これは外国人が多く住んでいる地区だということです(福生市には米軍横田基地がある)。つまりコロナで在留外国人がおそらく帰国した、というのが要因であるということです。

    その他下巻では社会のデジタル化によって人々が「量子的に移動する」という記述がありますが、これは物理的に移動するのではなく、まさにオンライン空間上で移動している人々を意味します。またドバイなど灼熱の国・地域であっても、屋内はクーラーが完全に効いていて、むしろヨーロッパよりも涼しい、という記述もあります。つまり技術進歩によって、むしろ人間の物理的な移動を抑制する可能性があるわけです。本書の基本的な主張は、「人間の物理的な移住が加速化する」ということになりますが、それに相反するトレンドも紹介されているわけです。

    「移動」をテーマにしている本としては、2008年に出版されたジャック・アタリの「21世紀の歴史」のほうが秀逸と思います。アタリは21世紀が「ノマド(遊牧民)」の世紀になると予想していて、これだけ聞くと本書と同じ主張をしているようですが、ノマドには3種類あると議論を進めます。
    ・ハイパートノマド(ITエンジニアや経営者、トップアーチストなどのエリート層)
    ・下層ノマド(政治・経済・気候難民でやむなく移動)
    ・バーチャルノマド(物理的には動かないがデジタル空間上で移動する層)
    3点目を含めているという意味で、私はアタリの主張の方が正鵠を得ていると思うのですが、不思議なことに本書ではジャック・アタリの議論が全く参照されておらず、著者は読んだことあるのかしら?と思いました。

  • 上巻と同様。

  • パラグカンナの著作は今作もよかった。将来北半球で住みやすい国はフィンランド、スウェーデン、ノルウェーなどの北欧諸国、ロシア、またはカナダ。インド,パキスタン,バングラディッシュは現在もひどいが、将来は気候変動により住環境はさらに悪化。日本は地震多発国家であるが、人口減よりリーズナブルな住宅が増える。

  • 東2法経図・6F開架:334.4A/Ke67i/2/K

  • 接続性と移動が場所の意味を変化させた。
    人は居場所を変えられるが、都市にそんな事はできない。
    そう、人は動けるが、都市は動けないのだ。
    であるならば、不断に変化を続けるべきなのに、なぜ永続性に執着して、若者が流出し寂れたままに放置しておくのか。
    都市も、必要なところを組み替えるような柔軟さがなければならない。
    その意味で、ドバイやシンガポールといった、世界で最も暑い都市が、地球温暖化が進んでいるのに、さらに多くの居住希望者を引きつけているというのは、何とも皮肉な話だ。
    不断の変化は、不安定さに対する最大の保険だ。

    人にとっては移動力と接続性こそが、不安定さに対する保険である。
    それらは、今日の才能ある若者に共通する特徴で、どこからでも仕事ができ、どこにでも行こうとする意欲を持っている。
    トランプ政権時代、インド人ソフトウェア技術者がこれ以上アメリカに移住してこないよう特殊才能職ビザ「H1-B」の発行を停止した時、彼らは国外からリモートで仕事を請け負った。
    インドには、25歳以下の若者が6億人もいるが、OECD加盟国で暮らす高度な技能を持つ外国人労働者のうち、かなりの割合がインド出身で、中国出身を大きく上回っている。

    日本もかつてないほど世界中からの移民に門戸を開き、毎年約40万人もの移民を受け入れている。
    これは世界で上位の部類に入る規模だが、まだまだインドの若者は少ない。

    もはや移民を「受け入れるべきかどうか」の是非の議論ではなく、「受け入れ能力は十分か」などの内実が問われている。
    移民に対する積極策は、「南」に対する「北」の賠償と意味合いも併せ持つが、世界の人口分布の大幅な再配置が、すべての人に最大の恩恵をもたらせると同時に、受け入れ国にとっても国益に叶うという、コスモポリタンな功利・現実主義的視点に根ざしている。

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