ディダコイ (評論社の児童図書館・文学の部屋)

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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784566011359

感想・レビュー・書評

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  • 20年ぶりの再読 
    原書出版年1972年だから48年も前になるが、現代の抱えるいじめの問題と全く同じだ。
    自分たちと違う者に対するいじめは、永遠になくならないのだろうか。

    ディダコイとは生粋のジプシーではない者の揶揄する言葉。キジィは、父(ジプシー)と母(アイルランド人)が亡くなり、ジプシーのお祖母ちゃんと荷馬車で暮らしていた。焚き火を囲み、馬のジョーもいる生活は満ち足りて幸せだった。
    学校に行くまでは。
    おばあちゃんが亡くなるまでは。

    ブルックさんの言葉「異なる水準を持つ人々がいる。水準が異なっているということは、悪いことではない」その真理をなぜ人は理解できないのだろう。
    いじめに対しても「みんないい子なんです。集団になるまではね」集団心理の怖さは今の変わらない。

    トウィス提督やブルックさんのような人たちのおかげで、キジィは新しい生活に溶け込み、町の人々と繋がり、子どもたちとの関係も築いていけるようなった。
    良い大人の見本のような人たち。
    キジィの気持ちに時間をかけて寄り添い、押し付けや質問もせずに、けれど伝えるべきことは伝えている。他の人々を受け入れ、許すことの大切さを教える。
    子どものいじめの対応には、正しい判断ができる大人の存在は大きい。
    「ジプシーのロマンチックな面を子どもたちに話してやれば」というブルックさんは、違いに魅力を見いだせる人なのだ。
    異なる文化を持つ人々が出会うとき、皆がブルックさんのような視点を持つことができたらと思う。

  • 読みたくて読みたくて長年探してきたこの本が、思いがけない方向からやってきた。
    古書店の片隅にひっそりと置かれていたのだ。
    初版が昭和50年で、やや黄ばんだ奥付けが慎ましい。
    ルーマーゴッデンの4作目。               
    「ディダコイ」とは、ジプシーと白人との混血の意。
    7歳の女の子キジィはディダコイで、生粋のジプシーであるおばあさんと一緒にワゴン(荷馬車)で暮らしていた。しかしおばあさんの死後、キジィはひとりぼっちになってしまう。
    お節介な村人たち。意地悪な学校の女の子たち。キジィのこれからは・・

    「旅する人々」という表現がしばしば現れ、それがジプシーというものをよく表わしている。
    一カ所に定住せず、自ら作ったモノを売ったり壊れたモノを修繕したりして日銭を稼ぐ。その生き方が行く先々の住民から煙たがられる。
    仲間内での結束が固いため、集団の中にいさえすれば居場所はあるのだが、唯一の身内を失った7歳の女の子の今後を思うと、読んでいて辛い。

    作者自身も幼い頃慣れ親しんだインドから、教育のためと英国に連れ戻されている。
    環境の変化に大変苦しんだそうで、そんな経験からこのお話も生まれたのだろう。
    理由らしい理由もない、実に些末なことで相手を全否定して追い込むという虐めの構図がとてもリアルに描写されている。女の子たちの、キジィへの虐め方がまぁひどいこと。
    ところがさすがのゴッデン。ただ意地悪で暴力的な女の子たちではなかった。
    終盤、キジィがあわやという危機にさらされたとき、勇敢にも彼女を支え助けるのだ。
    ひとというものを、単純に善悪で分けないところが、とてもリアルで説得力がある。

    また、ジプシーに理解のある提督の館に世話になっている時の小さなエピソードも微笑ましい。
    提督と従僕と馬丁という女嫌いのトリオがいちいち面白く、キジィの服を買いにロンドンまで出向いたのに、迷ったあげく目的を果たせなかった提督の話には大笑い。まるで「赤毛のアン」のマシューそっくり。
    私が一番好きだった箇所は、キジィを引き取った賢明な女性・ブルックさんの言葉。
    お節介な村人が「あの子に気を遣いすぎですよ」と忠告すると、こう答える。
    「そのためにあの子を引き取ったんですよ」

    これをシンデレラストーリーと呼ぶのは、少し違うように思える。
    子どもも大人も、キジィの存在を中心にしてどんどん変化し、成長していくからだ。
    簡単な妥協点を見つけようとしない、しっかりとした骨太のお話で、いつの間にか夢中になってしまった。
    表紙になっている緑と青に塗られたワゴンも、ちゃんとお話に登場する。
    タイトルが地味なせいか、あまり浸透していないようだが、おすすめですよ。

  • ジプシーの女の子キジィはおばちゃんと二人暮らし。
    学校に通うが、ジプシーだと差別され、いじわるをされる。
    そんなある日、おばあちゃんは亡くなってしまい、孤児になってしまう。

    彼女を世話してくれたのは、おばあちゃんとともに荷馬車で生活する場を提供してくれた提督とその従僕ピーターズとナット。男ばかりでの世話は裁判所では許されず、手をあげたブルック夫人にゆだねられる。

    ブルックの献身的な世話にも、なかなか心を開かないキジィ。ジプシーとして育ったキジィが環境に少しづつ適応していく過程と、葛藤を描いている。
    何がキジィにとっての幸せなのか、まわりと共存するということは?いろいろな疑問を投げかけてくれる作品。
    「ディダコイ」に親しみとあこがれをもたせるという最後はすてき。

    るーま・ゴッデンは、自身がインドで幼年時代を過ごし、英国に戻ったときには苦しみを味わっていたという。
    「自らの生活が深く根をおろしている場所から根こそぎにされ、風俗習慣はもとより、価値観がすっかり異なる世界に移らなければならないことは、だれにとっても大きな苦しみであるにちがいない」(猪熊葉子

  • 小学5年生の時、誕生日でもクリスマスでもないのに母が買ってくれた本。
    高校生くらいまでは何度も読み返したけれども、大人になって初めての再読。

    『ディダコイ』という聞きなれない言葉は、ジプシーと白人の間に生まれた混血の子どものこと。
    主人公のキジィは両親がいなくて、おばあさんと年老いた馬と一緒にトウィス提督のお屋敷の広大な敷地の片隅で暮らしている。
    年齢なんて関係なく暮らしていたキジィだけれど、学校に行かなくてはいけないことになる。
    学校の規則になじむことができないキジィと、彼女を排除しようとするクラスメイトの少女たち。

    そんな時、唯一の親族であるおばあさんが亡くなり、一人取り残されるキジィ。
    ジプシー仲間は、純血のジプシーではないキジィを受け入れたがらず、里親登録をしている人々は、白人ではないキジィをおそれて受け入れることができない。

    私が子どもの頃の児童文学って、みなしごになって苦労した子どもが最終的には幸せを掴む話が多かったけれど、これもまたその系列の話。
    階級社会であるイギリスで、純血の白人でないというのはとてもハンデとなるわけで、壮絶ないじめあり、善意と正論に固められた偏見あり、大人になった今読んだほうがよほど心にぐさぐさ刺さる。
    子どもの頃は、キジィにすっかり同化して、世間に心を閉ざし、荷車に乗って自由な生活ができる日を夢見、クラスメートの女子たちを絶対に許さないつもりでいたけれど、今読めばキジィだって頑固に過ぎたよなあ。

    するべき、するべからずではなく、自分達とは違う生活スタイルを持ったキジィたちを尊重し、キジィの気持に寄り添いながら面倒を見たブルックさん。
    多分私が正論とか善意の塊とかそういうのを信じきれないのは、この本に負うところが多いような気がする。

    学校で女子たちにどんなにいじめられても、家に帰るとキジィを尊重してくれるブルックさんがいたこと。
    トウィス提督と、そこで働くおじさんたち(女性嫌いの男性たち)が、キジィを可愛がってくれたこと。
    学校にもひとり、キジィの仲良しと言っていい男子がいたこと。
    天涯孤独となっても決してキジィはひとりぼっちではなかった。
    最後に幸せを掴む直前、キジィは女子たちを見返してやりたくて大きな過ちをやらかしてしまったけれど、これからは間違えないと思う。
    いや、間違えても素直に謝ることができると思う。

    日ごろ読書なんてしない母が、何でこの本を買ってくれる気になったのかは謎だけど、この本と出合えて本当によかった。
    この本と『家なき娘』が、少女時代のバイブルでした。

  • ジプシーの女の子キジィがおばあさんを亡くして一人ぼっちになる.年老いた馬のジョーを守るため救いを求めたことがきっかけで,キジィにはだんだん味方が増えていく.いじめられていたキジィが他人を受け入れまた受け入れられていく豊かで大きな愛の物語.

  • 孤児、頑張れ!

  • 読みはじめるとはらはらする場面が多いのですが、終わりに近づくにつれあたたかい気持ちになる場面が増えていきます。キャラバンで生活する女の子とまわりの人々との様子を通して、文化のちがいについて考えさせられる物語です。
    http://www.lib.miyakyo-u.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=5585

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著者プロフィール

ルーマー・ゴッデンRumerGodden1907~1998。英国サセックス州生まれ。父の仕事の関係で、生後六カ月で当時英国領だったインドに移り住む。十二歳のときに英国へもどるが、その後もインドとを行き来して暮らした。一九三五年に作家として活動をはじめ、おとな向けや子ども向けに数々の作品を生み出した。作品は長編小説、短編小説、戯曲、詩など多岐にわたる。日本で紹介されている子どもむけの本に、『人形の家』(岩波書店)、『ねずみ女房』(福音館書店)、『バレエダンサー』(偕成社)、『ディダコイ』(評論社、ウィットブレッド賞)、『ねずみの家』『おすのつぼにすんでいたおばあさん』『帰ってきた船乗り人形』『すももの夏』などがある。

「2019年 『ふしぎなようせい人形』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ルーマー・ゴッデンの作品

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