最新版 シルマリルの物語 上 (評論社文庫)

制作 : クリストファー・トールキン 
  • 評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784566023963

作品紹介・あらすじ

 唯一なる神“エル”による天地創造の物語。神々の力がずっと近くにあった時代。エルフが、人間が、力の指輪がいかにして生まれたか。 不朽の名作、『指輪物語』に先立つ壮大な神話的世界、『シルマリルの物語』の最新版を、エルフ語研究の深化により、固有名詞を全面的に見直した日本語訳の完成形として、お届けします。「エルは聖なる者たちに語り給い、音楽の主題をかれらに与え給うた。――」音楽から始まる天地創造の物語から、フィンゴルフィンがモルゴスに一騎打ち挑んだ「ベレリアンドの滅亡とフィンゴルフィンの死のこと」までを収録した上巻です。

感想・レビュー・書評

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  • ・J.R.R. トールキン「最新版 シルマリルの物語」(評論社文庫)を読んだ。「指輪物語」は読んでゐるが、こちらはまだであつた。この物語の翻訳は初出から既に50年近く経つてゐる。その間、新版、最新版と出た。単純に言へばこれが第3番目の訳といふことになる。これが出てゐるのを知らなかつたわけではないが、これを読まうといふ気にはなれずにゐた。それが去年の文庫本「最新版 指輪物語」の完結である。これでやつと読まうといふ気になつた。本書の帯に「唯一なる“神”エルによる天地創造の物語」とある。神話である。「『アイヌリンダレ』は、唯一なる神と天地創造の創世神話、『ヴァラクウェンタ』は、天使的諸力とも言える神々の話です。とっつきにくいところもあるかもしれませんが、これらの創世神話は、トールキンの手紙からもうかがえるように、作者が長年心を傾けてきた仕事なのです。」(田中明子「『新版』訳者あとがき」下335頁)この言のやうに、最初の2編は見事な神話である。以後はエルフの物語である。
    ・「唯一なる神、エルがおられた。」と始まる。そして「エルは初めに、聖なる者たち、アイヌールを創り給うた。聖なる者たちは、エルの思いより生まれ、ほかのすべてのものが創られる以前に、エルと共にあった。(原文改行)エルは聖なる者たちに語り給い、音楽の主題をかれらに与え給うた。」(「アイヌリンダレ」83頁)この歌は、最初は「聖なる者たち一人一人の理解は、イルーヴァタールの御心のうち、各自の出で来った部分にしか及ば」(同前、エル=イルーヴァタールである。)なかつたが、やがてそれが二重 唱、三重唱になり、更に合唱になつていく。「耳を傾けて聞くにつれ、聖なる者たちの理解は深まり、ユニゾンとハーモニーはいや増していった。」(同前)そして、「イルーヴァタールはかれらに言われた。『すでに汝らに明かせし主題により、われは汝らが調べを合わせ、大いなる音楽を作らんことを望む。云々』」(同84頁)かうして「大いなる音楽が」奏されることになる。しかし物語の常として、かういふ時にはそれに逆らふ者が必ずゐる。それがメルコールであつた。メルコールは「アイヌール中最も力ある者であ」(下「語句解説および索引」381頁)り、「モルゴス」や「冥王」等の名で呼ばれてゐる悪の化身である。全編を通して善と悪、エルフ達とモルゴス一派の戦ひが描かれる。最後の「力の指輪と第三紀のこと」はその締めくくりと言はうか、「指輪物語」がごく端的に語られる。「小さい人のフロドは(中略)サウロンを物ともせず滅びの山に赴いて、指輪が造られた火の中に大いなる力の指輪を投じ、その結果、指輪は無に帰し、指輪の悪はすべて燃え尽きた。」(下332頁)勧善懲悪の壮大な物語をかくも短くまとめたのに対し、それ以前の神話時代は全24章、文庫本1冊以上になる。それぞれの時代の代表的な出来事を書いていけばかうなる。長命であることを除けば、エルフは極めて人間的である。悪はモルゴスの手下のサウロンが暗躍する。これもまた人間的である。人間はと言へ ば、初めは悪の側が多い。その後、エルフと交はつたりして、善に移る者も出てくる。「指輪物語」以前にかくも壮大なる世界があつたのかと思ふ。これをトールキンが創つた。しかもその言語、エルフ語も創つた。下巻の付録には索引もある。これは役に立つ。そして発音の注意(下348頁)とか固有名詞の語素(同372頁)であらうか、これも名前と比べてみるとおもしろい。いささか遅きに 失しはしたが、さすが人工の神話である、作者は言葉も創つてしまつた。おもしろい物語であつた。

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