フェラーリと鉄瓶―一本の線から生まれる「価値あるものづくり」

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569656434

作品紹介・あらすじ

自動車、インテリア、都市計画…あらゆるジャンルで活躍する日本人デザイナー奥山清行が語る「最高の価値」の生み出し方。

感想・レビュー・書評

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  • イタリアのデザイン工房ピニンファリーナの創業者は車のデザインを「もっとシンプルにしろ」と言い続けた。「シンプルさを追求する姿勢」を徹底的に仕込まれた奥山清行。山形県出身である。GM、ポルシェなどを経て、ピニンファリーナのデザインディレクターとなる。
    マセラティクアトロポルテ、エンツォフェラーリ、山形鉄器 繭などをデザインする。
    「これまで常識とされてきたシステムからちょっと離れたところで、リスクを負いながら冒険する。それがクリエイティブであるための条件である。」と奥山清行はいう。
    「デザインには主観的な部分と客観的な部分があり、機能性や用途に応じた適応性、価格、全体のイメージが客観的な部分で、最後に残った好き嫌いの部分が主観的な部分のセンスである。それがトータルな一つのデザインとなる。」
    イタリアでは、集団ではなく、一人の個人が全てのデザインの責任をおう。そして、経営者は集団で競わせて、一人のデザイナーを選定して、任せる。作る人の顔が見えるようにする。あくまでもアイデアの権限を尊重する。そのことで、デザイナーが成長する。日本は、個人のカラーを会社で消してしまう。それが、日本とイタリアのセンスの差になっているという。
    ピニンファリーナの会長は、どうして美しいものを追求するかという質問に、①美しいものは売れる。②人間は、本来美しいものが好きである。そして、美しいものは正しい。俺たちは正しいことをしているという。「アメリカ人には、このデザインがなぜ美しいかということから説明しなければ理解されないが、イタリア人は見ただけで美しいか汚いかがわかる。そして、日本人にもなぜ美しいかの説明はいらない。」芸術は、自分のためにものを作り、デザインはお客さんのために作る。
    日本では、沈黙が金である。言わなくても通じているはずだというが、奥山清行は、デザインの作業のうち3分の2がコミュニケーションだと考えている。イタリアでは、会議に出て発言しなければ、次の会議には呼ばれない。デザインを説明する言葉をたくさん持っているものが勝ち残る。
    フェラーリでは、お金を出して買えないものを売る。創業者の名前を冠たエンツォフェラーリは、2002年に売り出した。市販価格 約7500万円 市場調査をしたら、350台売れると判断して、349台作った。フェラーリの創業者は、「需要よりも1台少なく作れ」と言っていたから。発売を決めたら、10倍以上の人が押し寄せた。エンツォフェラーリにふさわしい人を選んで、349人を決め、当選したと連絡し、半額を持ってきてもらい、2年待ってもらった。中古車は、2倍の価格で売れた。
    日本は、切り捨て文化ーギリギリまで削ぎ落とす文化があったが、足し算文化ー機能を付け加えすぎで、世界から取り残されるようになった。山形に戻って、山形工房で、薄肉鋳造技術を使って、「繭」という山形鉄器を作る。山形でしかできない技術とシンプルなデザイン。
    奥山清行は、いい仕事をしている。そして、取り組む仕事に哲学がある。東北はクリエイティブで、おもしろい。

  • 自動車のデザイナーとして海外を渡ってきた人がモノづくりの考え方について語っている。
    メーカーに働く人には目を通してほしい。
    特にイタリアと日本の働き方の違い、モノづくりの違いについて書かれており、今の自分にはとても刺さった。

    デザイナーは絵を描くだけじゃなく、ものづくりの先頭を走るプロデューサー。
    各部門の専門知識をまとめて、新商品のコンセプトを作るゼネラリスト
    日本人は自分を持っていないので、主張がない。会議で意見を衝突させる自分を持つ

  • 題名には「フェラーリ」と「鉄瓶」とありますが、どちらかと言うと、日本とイタリアとの文化の違い、働き方、考え方、地方からの発信、等について書かれています。
    日本の地方、奥山さん出身の山形からの発信についても、東京を通さず直接海外に発信を試みるなど、色々行動を起こしているので、羨ましく思ったりします。

  • ピニンファリーナでフェラーリの55周年モデル、エンツォ・フェラーリのデザインを手がけたKen Okuyamaこと奥山清行氏の自伝といっていいだろうか。前半はイタリア人と日本人との違い、イタリアの生活の話が中心で後半はデザインに対する考え方やビジネスモデルとしてのフェラーリを取り上げている。デザインディレクターに就任してからは経営、営業、デザインがそれぞれ1/3でそのうちほぼ経営が中心となり退社。故郷の山形カロッツェリア研究会では地場産業である木工家具や鋳物のデザインをし、ペレットストーブ(薪がわりに木材ペレットをつかう)を売り、ヤンマーディーゼルの社外取締役になり農業用トラクターのコンセプトモデルを発表した。

    奥山氏によるとデザインと言うのはただ絵を描いて形を決めるだけではなく、少なくとも自動車デザインではどういう人達にどういう価格帯で売るかを決めるのもデザイナーの仕事だと言う。要求されたスペック、例えばゴルフバック2個とスーツケースが縦に2個入るトランクだとか、後ろの先まで気持ちよくエアコンが効くだとかを実現させるために専門家の意見を取り入れ製品の形にするのがデザイナーだ。であればデザインディレクターが経営まで見ると言うのはわかる。以前はなかったが情報の交通整理をする立場と言うことだそうだ。デザインにおいてはプレゼン能力も重要で、些末な専門的なことには関知しない社長に対してその場で判断できるように分かりやすく説明したり、顧客に対して上司をすっ飛ばして自分を売り込もうとする部下とも勝負して言い負かしたりとイタリアもやはり自己主張の世界。毎朝仕事に向かう前には車の中でロックをかけて猛獣達に負けないようにするのだとか。

    デザインで一番大事なことはプロポーション、しかし素人が見ても分かりにくく一番めんどくさい部分でもある。「シンプルにする勇気」を取り戻さないと、これからの日本製品はますます辛いことになるかもしれませんと書いているのが2007年でアップルのiPhoneが発売された年だがこの本には出てこない。ヤンマープレミアムブランドプロジェクトの記事ではコンセプトモデルの流線型トラクターを前に「大型のトラクターを1台購入するよりこの中型トラクターを2台購入すれば、農作業の効率を一気に上げられる。これからは単に機械をデザインして製造するだけではなく、新しい農業の形をデザインしていきたい」と語った。

    kenokuyamadesign.comにある最近の仕事ではJEOLのNMRがかっこいい。

  • ”フェラーリ” そのイタリア製高級スポーツカーを知らない人がいるだろうか?洗練されたデザインは、さすがイタリア人!と思っていたら、なんと創業55周年記念モデル「エンツォ・フェラーリ」をデザインしたのは日本人だった!!彼が貫いてきた「価値あるものづくり」とは・・・。無駄を削ぎ落とした鉄瓶のフォルムは、本当に美しい。

  • イタリア人気質が、よく分かった

  • 元ピニンファリーナのデザインディレクター。
    エンツォフェラーリ、マセラティ クアトロポルテなどのデザイナー。

    彼についてはいくつかの疑問があった。
     なぜピンファリーナでチーフデザイナーやディレクターとして成功を収められたのか?
     イタリアカロッツエリアの最高峰であるピニンファリーナをなぜ辞めたのか?
     
    それが彼の初の書籍であるというこの本で解けた。
    文章は飾り気や必要以上の思惑もなく楽に読める。2時間もあれば。

     ・ピニンには彼が入った1995年当時、彼を含めて5人しかデザイナーがいなかった。
     ・機械加工の熱歪をハンマーのひと振りで修正するような
      職人芸と現代的な技術の融合がフェラーリの力。
      社内にデザイン担当者は一人くらいしかいない。
     ・英語は単語を多く使うため、口と頭を早く回転させなければならない。
      イタリア語は、より少ない単語で表現できるので、すばやく話が進む。
      次々と先を読んでいかねばならない。
     ・人よりもモノを優先。組織より個人を優先。GMでの管理職時代の失敗経験から。
     ・ピニン デザインディレクター時代は99%が経営の仕事だった。

     ・手が生み出した予期せぬラインから感動のデザインが生まれる。
      自分が入力したものしか表現されないCADからでは生まれない。
     ・自分をもつこと。それによる判断基準を持ち合わせることができれば、
      高級車を作ることができる。自分の生活レベルを高級にする必要はない。

  • フェラーリの車体を生み出すデザイナーが書いた本。日米伊のクルマ作り哲学の違いはもちろん、仕事に対する考え方の違いなどにも踏み込んだ、ちょっとした比較文化論になっているが、各国の気性については、世間でのステレオタイプなイメージ通りだったのが、新鮮味に欠けた。ただ、単身渡航してブイブイ活躍した本人ならではの臨場感と迫力が感じられる。
    タイトルやサブタイトルからは「曲線の妙」的なデザインの内容を期待したが、外れてしまった。フェラーリの話はたくさんあったが「鉄瓶側の」の話が少なかったのが残念。

  • 1-8 工業技術論・技術史

  • 【イタリア人の方がしあわせ?】
    著者は日本人であのフェラーリをデザインした方です。

    わたしも車は大好きでフェラーリという単語を耳にすると、ついそちらの方を振り向いてしまいます。街中でもフェラーリを見かけると、食い入るように見てしまいますが、最近はフェラーリの数が増えた(金持ちが増えた?)こともあり、ランボルギーニやマセラティに目がいってしまいます。

    イタリアの製品はデザイン偏重型で、イタリアの製品を見ると大胆なデザインに目を奪われることがあります。機能性、信頼性を除けばデザインは抜群です。
    どうしてこんな大胆なデザインができるのか不思議に感じていましたが、この本でよくわかりました。製品ができる最後まで、ひとりのデザイナーに任されるということです。途中で、それはダメだのそこはこうした方がいいだの言われることがないそうです。デザインだけを考えた場合、これはすばらしいシステムだと思います。
    デザインというものは、そもそもひとりの人間の「エゴ」です。ひとりで創りあげるものであって、エゴを集団であーだこーだ言いながら仕上げるものではありません。
    ただ、生産性を考えるとしかたないのですが、イタリアのものは高級品が多いです。それが魅力でもありますが。。。

    イタリアは伝統もあり、街並みが美しく、食事もおいしいと聞きます。わたしはイタリアに行ったことがないので聞いた話だけで書きますが、イタリアに住みたいかと言われれば、住みたくはないと答えます。
    日本とイタリアではどちらが豊かといえば、わたしは日本だと思います。日本の方が経済的にはいい暮らしをしていると感じます。ただ、日本人は自殺者が多いことから考えると、精神的な豊かさではイタリアの方が上なのでしょうか。

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著者プロフィール

Ken Okuyama Design代表

「2013年 『100年の価値をデザインする』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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