- Amazon.co.jp ・本 (474ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569679389
作品紹介・あらすじ
思い出は心を豊かにもすれば、苦しめもする-小さなガラス瓶、古いお守り袋、折り鶴…、そうした小さな手がかりから、依頼人の思い出に寄り添うようにして、人や物を捜し出していく"思い出探偵"。京都御所を臨む地で「思い出探偵社」を始めた元刑事の実相浩二郎は、他のメンバーと共に思い出と格闘し、依頼人の人生の謎を解き明かす。乱歩賞作家が紡ぎ出す、せつなさと懐かしさが溢れるミステリー。
感想・レビュー・書評
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元京都府警の刑事だった実相浩二郎は、京都御苑の近くに「思い出探偵社」を構える。
依頼人の話を聞き、わずかな手がかりから思い出を探す仕事だ。
62年前、梅田の闇市で助けてくれた少年にを想い続ける老女。
43年前、集団就職で出てきて働いた会社がつらくて飛び出したときにコーヒーを飲ませ、諭してくれたお姉さんに、今の自分があることを知ってほしい。
10年前の忌まわしい事件を乗り越えたい。
7年前、自殺として処理された、浩二郎自身の息子の死の真相を突き止めたい。
5日前、清涼寺の境内でなくした愛猫の思い出の品を拾ってくれた人にお礼を言いたい…
独立した短編集ではなく、いくつもの事件は平行して進み、依頼されたものではなく、スタッフ自身の心に抱えた問題もある。
思い出はいいものばかりではない。
相手にとって、どういう形で心に残っているかわからない、人間の心の複雑さもある。
62年前、43年前という、遠すぎる戦後日本の思い出も、作品の特徴かもしれない。
わずかな手ががりを追って飛び回る姿は、時効間近の事件に執念を燃やす刑事そのものだ。
温かい解決、切なく懐かしい解決、苦い解決…いろいろだが、依頼人の気持ちに寄り添いたい、というのが浩二郎の一番の願い。
第一章 温かな文字を書く男
第二章 鶴を折る女
第三章 嘘をつく男
第四章 少女椿の夢詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鏑木蓮の連作ミステリ作品『思い出探偵』を読みました。
ここのところ国内の作家のミステリ作品が続いています。
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もう一度会いたい人が、あなたにはいますか?
小さなガラス瓶、古いお守り袋、折り鶴…… そんな小さな手がかりから、依頼主の思い出に寄り添うようにして、捜しものを見つけ出していく“思い出探偵”。
京都御所を臨む地で「思い出探偵社」を開いた実相浩二郎は、息子を亡くし、妻がアルコールに溺れていくのを見かねて刑事を辞めたという過去を持つ。
思い出探偵社には、その誠実で温かい人柄にひかれるようにして、元看護師の一ノ瀬由美、役者志望のアルバイト本郷雄高、10年前に両親を惨殺されて心に傷を負った27歳の橘佳奈子が集まった。
「思い出」は心を豊かにすれば、苦しめもする――乱歩賞作家が紡ぎ出す、せつなさと懐かしさが溢れるミステリー。
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2009年(平成21年)に刊行された京都思い出探偵ファイルシリーズの第1作です。
■第一章 温かな文字を書く男
■第二章 鶴を折る女
■第三章 嘘をつく男
■第四章 少女椿のゆめ
■解説 小梛治宣
人生は「思い出」の積み重ねでしかありえない… 良きにつけ悪しきにつけ、そのひとが生きてきた証なのだ――。
小さなガラス瓶、古いお守り袋、折り鶴… そんな小さな手がかりから、思い出探偵社の仕事は始まる、、、
「一言お礼が言いたい」 思い出探偵社に持ち込まれた事案を調査する実相浩二郎たちの行く手には…… 。
面白かったです、、、
粗末なペンダントをわざわざ届けてくれた男性を探す『第一章 温かな文字を書く男』、
ジャズ喫茶でのわずかな時間の出会いが人生を変えた『第二章 折り鶴の女』、
車椅子の青年が思い出探偵社を混乱に陥れる『第三章 嘘をつく男』、
戦後の混乱期に命を救ってくれた男性を探す『第四章 少女椿のゆめ』、
の4篇が収録されています… 軽めの物語かと思っていたのですが、意外と深みがあったし、「思い出探偵社」で働く人たちの人生も巧く描いてあったと思います。
『第三章 嘘をつく男』は、ちょっと異質な印象ですが、サスペンス的な展開で愉しめましたね、、、
『第四章 少女椿のゆめ』の結末はちょっと物足りない印象かな… 好みの問題でしょうが、私は再会するところまで描き切って欲しかったな。
京都思い出探偵ファイルシリーズの続篇、ぜひぜひ読みたいですね。 -
京都出身の鏑木蓮、初めて読みます。500頁近くのそこそこ分厚い本ですが、関西が舞台になっているため、関西人ならば馴染みの地名が多く、取っつきやすい。
刑事だった主人公の男性は、高校生の一人息子を真冬の琵琶湖で亡くす。遺書めいたメモを残していたことから自殺と断定され、妻はそのショックからアル中に。妻に寄り添うために主人公は刑事を辞める。そして京都御所を臨む地で開業したのが「思い出探偵社」。人生を振り返るとき、どうしても会いたい人、お礼を言いたい人がいる。依頼人のそんな思いに応えて、彼らの人生の分岐点となった大切な思い出のなかにいる人を探し出すのが仕事。
手がかりはごくわずかです。届け物をしてくれた人の特徴的な字だったり、へこたれた自分に渡された折り鶴だったり。探し出すのは至難の業だと思われますが、人から人へと手がかりは広がります。
主人公はもちろんのこと、探偵社で働く人たちが心に傷を持ち、そのぶん人の心がわかる温かな人間。ストーカーの話はちょっと異質でサスペンスタッチ。個人的にはこの章だけ浮いているように感じられてはあまり好きになれませんでしたが、ほかは昭和へのノスタルジーも感じられる佳作。 -
ほんのわずかな手がかりを紐解きながら思い出の人にたどり着く、今までありそうでなかったミステリ。たどり着くまでは、探偵目線で、最後は依頼者に感情移入できて、1話で2度おいしい。依頼内容に加えて、メンバのサイドストーリーもうまい具合に絡まっていて秀逸。もう一度読んで見たい。
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思い出を探すミステリー。探偵社で働く人々の過去や思いもミステリー調に書かれていてかなちゃんが拐われた辺りから一気に読み進んだ。
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どれほどの善意を
他人に振り向けても
だからといって幸せな日々を
過ごすとは限らない。
穏やかな日々を
過ごしているように見えていても
だからといって凄烈な過去を
持たぬとは限らない。
人のあたたかな思いが
それだけで人を幸せにするとも限らず
善意を振り向けたからといって
必ずそれが報われるとは限らない。
人の世のやりきれない矛盾が
この本には詰め込まれている。
なのに…どうしてこんなに安らぐのだろう。
真実を伝えることも伝えないことも
相手の心のためだけに選択する人たちが
この探偵社にはいる。
どの事案もすっきりとは片付かない。
必ずどこかに翳りを残しながら終わる。
探偵たちの人生もまた、どこかに何かを
抱えたまま。だけど、温もりがじんわり。
昭和の匂い。
でもそれだけじゃないあたたかみ。
ちょうど…日暮れ時になるとあちこちの窓に
灯され、家族の食卓をやわらかく照らした
白熱灯の温もり。
鏑木氏の作品は人臭い。それが、とてもいい。 -
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もう一度会いたい人が、あなたにはいますか?小さなガラス瓶、古いお守り袋、折り鶴……、
そんな小さな手がかりから、依頼主の思い出に寄り添うようにして、
捜しものを見つけ出していく“思い出探偵”。
京都御所を臨む地で「思い出探偵社」を開いた実相浩二郎は、息子を亡くし、妻がアルコールに溺れていくのを見かねて刑事を辞めたという過去を持つ。
思い出探偵社には、その誠実で温かい人柄にひかれるようにして、元看護師の一ノ瀬由美、役者志望のアルバイト本郷雄高、10年前に両親を惨殺された27歳の橘佳奈子が集まった。
粗末なペンダントをわざわざ届けてくれた男性を探す「温かな文字を書く男」、ジャズ喫茶でのわずかな時間の出会いが人生を変えた「折り鶴の女」、車椅子の青年が思い出探偵社を混乱に陥れる「嘘をつく男」、戦後の混乱期に命を救ってくれた男性を探す「少女椿のゆめ」の4編を収録。
乱歩賞作家によるミステリータッチのハートフルストーリー。
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連作集なのだが、馴染みのある連作集よりも、物語間の区切りがはっきりしていなくて、流れが滞らずに大きな緩やかさで流れている印象である。探偵社のメンバーも、それぞれ重い荷物を背負っており、依頼者の思い出探しに奔走する姿に、真剣に寄り添う想いが感じられるのが、痛ましくもある。だが、依頼者の思い出を探しながら、わずかずつでも自らの思い出したくないものにも向き合い、いつか乗り越えていけそうな気配が見えるのが嬉しくもある。続編もぜひ読んでみたいシリーズである。