資源がわかればエネルギー問題が見える (PHP新書 808 地球科学入門 2)
- PHP研究所 (2012年6月16日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569806785
作品紹介・あらすじ
東日本大震災をきっかけに袋小路に陥ったエネルギー政策。地球温暖化を防ぎつつ、安全で安価なクリーンエネルギーを求めるという究極の難題にぶつかった。世界が資源探査や技術開発に積極的に動くなか、「資源弱者」の日本人はいつまで国際情勢に翻弄されつづけなければならないのか?地熱発電、天然ガス、メタンハイドレート、オイルサンド、レアアース…よく耳にするニュースの本質を項目ごとにわかりやすく解説。貴重な地下資源を生み出してきた地球史もおさらいしながら、エネルギーと環境の二大問題をセットで考える。
感想・レビュー・書評
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守備範囲が広く、本著が取り上げるのは単にエネルギー問題だけではない。地球誕生から生命誕生、人類とエネルギーの関わりを解説する。これを読むと改めて資源の有限性と希少性、その為に人類のエゴが社会制度を必要とし揺れ動いてきた様子が窺える。
興味深い話。
月が誕生するジャイアントインパクトにより、公転面の地球の地軸が23.4度傾いた。これにより、四季の移り変わりが穏やかに。90度なら、灼熱と極寒のループへ。教科書で習ったと思うが、改めて考えるとすごい事だ。隕石の衝突が環境を変えた。衝突がなくとも生命は生じただろうが、居心地は随分違っただろう。
生命誕生のプロセス。熱水噴出孔説。地下から上昇するマグマが深海底に近づいた場所で、火山ガスに含まれる二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素などが反応したとする説。光エネルギーによってアミノ酸が鎖状につながり、ポリペプチドと呼ばれる長いアミノ酸の鎖ができあがる。ポリペプチドが立体的に組み合わさると生物に必要なタンパク質となる。熱水噴出孔から新種の生物が続々と発見されていることから、現代ではこの説が最有力である。
だけれど、宇宙生命紀起源説も捨てがたい。パンスペルミア説とも呼ばれる。実際に、ハレー彗星の核から有機化合物の存在が確認され、オーストラリアに落下した隕石からもアミノ酸が発見された。宇宙からやってきた種、なんて考えるだけで胸熱だ。生命は色んな起源があると考えても良いのかも知れない。
地球はこれまで5回の大量絶滅を経験。この本を読むとエネルギーよりも壮大な地球誕生のドラマの方に興味が逸れるが、しかし、次に危機が来るとすれば戦争にせよ環境問題にせよ、エネルギー問題が関わる可能性が高い。希少性は狡猾に求める者に傾斜され、格差を生む。狡猾な手段の一つにテクノロジーがあり、暴力があり、経済があり、宗教がある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
タイトルだけ見るとこの本はエネルギー問題についてのみ書かれた本に思いますが、この本が類書と異なっている点が多くあり、私にとっては新鮮でした。太陽との絶妙の距離にできた地球の生い立ち、隕石衝突の影響で生成した月が重要な意味を持っていること、地軸が傾いていることで四季が存在する、マントル海流により地磁気が発生して有害な放射線を防いでいる等です。
また、石油の寿命も私が小学生のころから「あと30年」と言われて30年以上経過しましたが、実際には40年以上あり、他の資源(石炭、天然ガス等)はもっと多くあることも解説されていました。
現在は地球温暖化というよりも、寒冷化に向かっていて、二酸化炭素の量も長い年月でみれば一貫して減少してきているという指摘も興味深かったです。
環境問題もよく聞いているとビジネスが絡んでいるものも多く、多くの方の意見を参考にして自分なりの意見を持つ必要があることを感じました。
以下は気になったポイントです。
・日本の地熱開発は以前は世界の最先端にあったが、1997年に地熱エネルギーは経済的に成り立たないなどの理由で、国の新エネルギー開発計画から外れ、2002年には地熱技術開発がすべて終了した、アイスランドでは2割を地熱でまかなっている(p30)
・石油の埋蔵量は、生産の困難度と存在の確実度の境界が、探鉱投資や技術進歩によって変動するので、石油の生産可能年数(可採年数)は1985年から今まで40年間となっている(p36、37)
・日本には石炭可採埋蔵量が3.6億トン(全世界で8260億トン)あるが、2002年に全ての炭鉱を閉山した(p43)
・天然ガスと原油は兄弟のよう、いずれも炭化水素を主体とした有機化合物、天然ガスはメタンを主成分、原油はヘプタン(C7H16)が主成分(p49)
・メタンガスは摂氏マイナス162度まで下げると液化して堆積が600分の1になるので、液化天然ガス(LNG)に変えて専用船で海上輸送される、さらに10年ほど前から固化する技術(天然ガスハイドレード:NGH)も研究中(p52、53)
・天然ガスに在来型以外に、非在来型(シェールガス、石炭の割れ目にあるCBM、タイトサンドガス)がその3倍程度あり、米国ではシェールガスが国内需要の2割を占めている(p55)
・水分子がつくる12面体の格子状の結晶の中に、天然ガスが入り込んだものをガスハイドレードといい、メタンの場合をメタンハイドレードという、全体の95%を占める(p58)
・日本近海には膨大なメタンハイドレードが存在する、特に静岡県沖から紀伊半島沖には濃縮帯がある、我が国の排他的経済水域内では最大6兆m3で天然ガス使用量の100年分以上(p60、62)
・オイルサンドは粒の粗い砂岩に石油成分の入っているもの、これよりも粒が細かい場合にはオイルシェールとよばれる、ビチューメンと呼ばれる粘り気の高い重油成分のみで存在しているので採掘に手間がかかる(p67)
・地球ができるとき、鉄の密度は高いので地球が固まっていく際に中心に沈み核を作った、核(内核と外核)のおよそ8割は鉄(p73)
・原始地球の大気には酸素がなく、二酸化炭素や塩化水素が充満していた、この結果、酸性雨が降り続いて地球上の鉄分は海水に溶け込んだ(p76)
・地殻の岩石中には4億トンの金が存在すると推測されるが、採掘できるのは160万トン程度、過去に人間が採掘した金は10万トンで、その8割はリサイクル(p90)
・白金族=レアメタル(6:白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム)に金、銀を加えた8金属が「貴金属」と呼ばれる(p92)
・1985年から生産が開始された鹿児島の菱刈鉱山(住友)はこれまで160トンの金を産出、わずか12年間で佐渡金山の83トンを超えている、金の品位が40グラム/トン(平均は5グラム)と高い(p94)
・日本の都市鉱山に存在する金は世界埋蔵量の16%にあたる6800トン、銀は22%で6万トン(p101)
・月は地球から飛び出して形成されたという驚くべき生い立ちを持っている、火星ほどの超巨大天体が45億年前に地球に衝突した(p123)
・表面の玄武岩を主体とする重い部分が地球に引き寄せられた結果、月が地球を回る公転周期が月の自転周期と一致したので、同じ面だけを地球に向けながら回り始めた(p125)
・月は地球から遠ざかっている(毎年3センチ)ので地球の自転速度を遅くした、月が誕生した当時は1日は4-6時間、地球の公転速度は一定なので、当時の1年は1500-2000日、いまの4-6倍の速さで1日が終わり、四季は4-6年でやってくる、自転速度を遅くしたのは地球と月の間に働く引力、これにより地球上では潮の満ち引きが起きて自転にブレーキがかかった(p127)
・月の誕生時に地球の地軸がそれまでの垂直方向から、23.4度の傾きが生じた、これにより地球には四季の変化が生じた、もとのままでは、赤道上はいつも灼熱で極地はつねに氷に閉ざされている、90度の傾きでは、6か月ずつの夏と冬が交代することになり不安定な気候となる(p129)
・太陽系にあるハビタブルゾーン(居住可能な領域)は、0.85-1.2天文単位、金星の0.72、火星の1.52では水は水蒸気か氷としてしか存在できない(p133)
・現在、太陽は1億年あたり1%の割合で明るくなっているので、10億年後には地球の表面温度は100度を超えてしまうことになる(p136)
・生命の誕生とは、1)遺伝の情報に基づき自己複製して子孫を残した、2)栄養をとって不要なものを捨てる代謝、3)細胞膜をもった、3機能を獲得したこと(p154)
・地球に磁場がある重要なポイントは、1)地球上の生物を守る、なくてはならないもの、2)地球内部で27億年前に液体の金属が対流しはじめることで誕生した、である(170)
・水に溶けやすい二酸化炭素は、雨水や地下水に溶解して炭酸となり地上の岩石を溶かしだす、イオン化された Ca2+とHCO3-はCaCO3などの炭酸塩鉱物となって沈殿して石灰岩になる(p179)
・過去の地球では氷河時代が何回も起きていた、約3億年前の氷河時代の二酸化炭素は現在と同じような低い濃度(p183)
・古生代末期のペルム紀と中生代初期の三畳紀の境目に史上最大の大量絶滅が起きて、95%の生物が死滅した、このときから現代型動物群へ変わった(p202)
・6500万年前に直系10キロメートルほどの小惑星が地球に衝突した、このエネルギーは広島型原爆の10億倍で、地震規模ではマグニチュード11、高さ300メートルに達する津波が発生した、平均気温は5-30度も寒冷化して植物や恐竜は死滅(p207)
・人間にとって身近な1万年は、人類革命・農業革命・都市革命・精神革命・科学革命・情報、環境革命の6つの時期に分けられる(p209)
2012年10月13日作成 -
タイトルは面白そうかなと思ったのだけど、第1章「資源をめぐって世界は動いている」第2章「私たちは地球環境を守れるのか」で以上。あれ?地学の本、環境問題の本?ということでした。内容は確かに地学的な情報が豊富な一冊でした。失礼しました。
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経済誌に連載した「ビジネスパーソンのための地球科学入門」を元にした本。エネルギーの話は半分で,第二章の地球史・地球科学の記事の方が面白かった。
地球が経験し,これからも経験するであろう環境の激変を考えると,温暖化問題とか,エネルギー問題とか,しょぼい話だなーなんて感想を抱いてしまう。まあ人類にとっては死活問題なので,大事な問題なんだろうけど。興味という点では全球凍結とか巨大隕石とかの方が威勢が良くて好きだな。
いま太陽ってだいたい一億年に1パーセントづつ明るくなっていて,十億年後くらいには地球の表面温度が100℃を超えるとか。
前回の超大陸は三億年前のパンゲア。次回は二億五千万年後にパンゲア・ウルティマ超大陸(別名アメイジア超大陸)ができる。大陸は一つになったりばらばらになったりを繰り返してる。超大陸ができると下に熱がこもってマントル上昇流が起きるらしい。それで超大陸は引き裂かれていくつかの断片(大陸)に。プレートに乗った大陸たちはまたいつか集まって超大陸を形成する。ウィルキンソンサイクル。
連載は東日本大震災をまたいで書かれてる。高校地学の凋落を嘆き,地球科学の復権を願う著者だが,未曾有の災害を経て,状況は変わったのだろうか。 -
いたってふつー
別段珍しいことは書いてなかったかな。地学っぽい -
本の内容が予想していたものと少し違った。予想していたのは資源に関しての知識と、それに伴う地政学的問題などであった。しかしながら、鉱物資源についての紹介や、マントルや地殻・中生代など、センター試験の地学で問われるようなものが多く書いてあり、エネルギー問題に関しての理解は大きくは深まらなかった。
専門的に資源に関する事をやるのなら読んでおいた方が良いと思う一冊。