大分断 教育がもたらす新たな階級化社会(「世界の知性」シリーズ) (PHP新書)

  • PHP研究所
3.44
  • (9)
  • (31)
  • (30)
  • (9)
  • (2)
本棚登録 : 394
感想 : 40
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569846842

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • アメリカの覇権の没落、EUモデルの没落、フランスの疲弊、日本の諦め、アメリカとロシアの接近、アメリカとドイツの対立など、いくつか興味深い視点もありました。教育が及ぼした影響というのはなんとなくわかるが、説明力が弱い印象を持ちました。また、問題だらけで解決策が言及されず、今後に不安を残すような感じで終わってしまっておりモヤモヤしています。

  • ●学ぶと言う行為自体が目的になるべきだと信じています。学ぶことでより良い人間になれます。そして、知ると言うこと、それ自体が良いことだと思うのです。
    ●ところが、社会が複雑化し、教育は経済的、社会的な成功を収めるためのツールとなってしまいました。
    ●その影響により、高等教育の発展が、実は中世にとっては非生産的な結果をもたらしたと言えるかもしれません。
    ●今のシステムの基盤は、野望、順応主義、そしてお金でしょう。ではこのシステムの中で生き延びることに注力するのか、あるいはそんなところから抜け出そうとするのか。
    ●ハーバード大学は優秀な学生も取るが、高額な寄付金を支払って入学することも可能なシステム。フランスにも高額なビジネススクールがたくさんある。いわゆる高等教育を受けたエリートたちは、決して能力主義のおかげでそこにいるのではなく、あくまで階級によってそこにいるのです。

  • <目次>
    はじめに
    第1章教育が格差をもたらした
    第2章能力主義という矛盾
    第3章教育の階層化と民族主義の崩壊
    第4章日本の課題と教育格差
    第5章グローバリゼーションの未来
    第6章ポスト民主主義に突入したヨーロッパ
    第7章アメリカ社会の変質と冷戦後の世界
    訳者あとがき解説

    p40集団の道徳的な枠組み
    p43上層部の人々が庶民に語り掛けることで社会に
    存在していた
    p102江戸時代~完璧主義に悩まされることなく~豊かな
    創造性があった~少しばかり無秩序な社会

  • 欧州の知的エリートの問題意識がよくわかる一冊。教育の普及が所得格差を生み、社会の分断につながるという指摘は日本にも当てはまるであろう。欧州内でのフランスの衰退の憂慮からくる悲観的な視点は割り引く必要があるが、資本主義、自由主義の課題を認識できる一冊。アメリカ人には、書けない内容であろう。

  • 氏の著作は初めて。なので、直ぐには理解できない所も多かったです。家族の在り方が国家に反映されるという氏の基本的考え方は面白いが、ホントにそんな割り切れる話なのか?でも、仏のgilet jaune、英のbrexit、仏のtrampも新鮮な視点から興味深かったです。日本に関して、人口減少を食い止めること、そのための完璧さを捨てることの提唱は納得。「人が口にすることと全く反対の内容が、しばしば真実である」というポイントも納得。ドイツに対する見方とか、沢山の新しい見方を教えて頂きました。

  • 高等教育の格差が社会的な格差を生んでいる。一方で高等教育を受け上級階層を作っている人びとの知的レベルは劣化している。自国フランスだけではなく、日本に対しても他国と比較しながら論評している。
    生き残るのは中国か、ドイツか・・ はたまたアメリカやロシアの反撃も? 日本は結局のところアメリカの傘下で生き延びるしかないのでしょうか。

  • フランスの知識人による一味違う社会のものの味方を教えてくれる一冊。この本はエッセイ集のような感じなんだけど,主な論考は,表紙にも書かれている教育による格差,そこから引き出されるエリートの問題についての話と,著者の専門の人口についての話がメイン。背景が読みきれないところはちょっと読みにくい部分もある。正しいかどうかはさておきとしても、日本だと安倍か反安倍か,トランプか反トランプかで凝り固まった論調しかないけれど、0か1かの話ではなく,そこから距離を取った論考なので面白い。著者の立ち位置を確認しながら読むとそのユニークさがわかる。まぁ,ドイツへの論考とかは,フランス人ならではの視点のような気がしてならない(著者はフランスの中では少数派のようだけれど)。
    そりゃ教育も一様ではないから差があるのは仕方ないと思っていたけれど,日本で格差が広がっている感じが欧米ほどではない理由が,格差に反対している人たちげ毛嫌いしていそうな家父長制に求めたりするのはとっても意外。逆に言うと,フラットな関係が当たり前になればなるほど格差に対して抗議が起こるようになるとも言えるわけで,興味深い。著者は生産よりも出産と著者は言っていたけれど,自由恋愛や婚外子などの積極的な策をとったときにどうなるのか。自由には格差はつきもので,経済以外の部分でも格差が広がるどうなるのか,それを埋める方法があるのかを考えたい。結局は「国家の経済圏で人々が豊かになれ、皆が利益を得られる方法が何かを考えることでしょう」(p164)に尽きるのだろうけれど。「皆」の中に自分が入っているか。そこが大切。エリートの話はとっても面白いし,格差感は無いかもしれないけれど,エリートの問題は残念ながら日本にも当てはまっていると思う。最後に紹介されている「絶対値による会話分析法」は「法」というのが適当なのかは議論がありそうだけど,とっても分かる。小学生高学年とかの会話からでも体感できる。この本が正しいかどうかと言うよりはに,そこから自分でどう考えるのかを知るヒントになる本だと思う。

  • 間違いなく現代の知性の最高峰だと思う。
    発生している事象分析の切口がユニークだが直感的にも根拠を伴った総合的にも確かなものと感じる。

    自分も含めて世間は民主主義というものを正しく理解出来ていないのだなと思った。皆がわかりやすくまた反応しやすいワードが充てられることで本来の意味と異なるものまで包括して認識されてしまうのだろう。

  • インタビューをまとめた本だったせいか、何か筋が通っていないように感じた。著者と訳者、ではなくインタビュアーとゲストだろう。この書き方では間違ってしまうと思う。教育の階層化と民主主義の崩壊、などところどころにトッドの鋭さを感じる箇所はあった。

  • 毎回トッド氏の分析には舌を巻く。過去にもソ連崩壊やアラブの春、そしてトランプ大統領の勝利など数々の未来予想を人口学から的中させてきた人物ではあるが、本書はさらにそれを高学歴教育の普及の観点から鋭く分析する一冊である。
    高学歴と言えば戦後日本経済の爆発的な成長を支えてきた私の父の世代などは、大学進学者は未だ稀な時代であった。ほんの一握りの大学出身者が日本の経済と社会、政治を作り上げ敗戦日本のどん底の状態からGDPで世界の頂点に届くほどの「奇跡の復興」を作り上げた。因みに私の父は農家出身で兄弟も二桁いる。産めば産むほど生産力が増えていく世界を作り上げてきた様な大家族だった。あれから60年、70年そして戦後80年を間も無く迎える。今や多くの若者が大学へ進学し、大学院へ進む者も少なくない。私もそれなりの大学まで行かせてもらい、周りの友人たちを見回しても皆、大学出だ。こうした時代にいきなり到達したわけではなく、背景には少子化がじわじわ進行し、子供が少なくなる事で余計に手間と金をかけられる様な社会になっていった事が要因だろう。経済も政治も大学出が当たり前に作っており、会社を見渡せば学卒社員は毎年有名大学からずらりと肩を並べて入社してくる様になった。その様な中でプライム市場に上場する様な会社は今や慶應、早稲田、それに匹敵する様な偏差値の学生が大半を締めているが、果たして昔の日本の様にそうしたエリート学生が活躍しているかは疑問だ。みんな何処となく均質で際立って良い成果をあげるわけでもなく、考え方も比例して素晴らしいかと言うと殆ど他の大学生と変わらない。寧ろエリート意識かつまらない仕事にそっぽを向こうとしたり、考え方も一つに固執したりと使いづらいことさえある(使うと言う表現は好きではないが)。大学進学が当たり前になったと同時に質の均質化に至ってしまった様だ。とは言えそこそこの大企業なら先人達が作り上げたビジネススキームで安定した収入がある程度保障され、大学未就学の者と比べると収入差は歴然だ。きっと恐らくは大学に行った行かないかは関係なく如何に努力を継続しているかで価値や能力は決まるはずだ。だからこうした差が広がれば広がるほど、社会には不平等が蔓延り、時に爆発・分断を齎す。
    こうした状況は日本独自ではなく、民主主義の優等生であるアメリカ、イギリス、フランスでも発生し、民衆の分断が発生している。トッド氏は日本とドイツがそれらと違うのは家族制の違いにあるという。トッド氏の著作を読んでいる者であればすぐに気付くが、日独は家父長制で不平等を受け容れる素地がある。現在分断がそれ程大きく社会問題にまでならないのはそうした家族制度の伝統があるからだ。
    後者の国、特に日本は現在先進国でもトップを突っ走る高齢化が進展している。最近のニュースではGDPがドイツに抜かれて4位に後退するともあった。そんな日本が今後頼るべきは移民であると思うが、均質化されて劇的な変化を望まない現代世代に果たしてそうした社会を激変させる政策を取らせることは可能だろうか。
    人は考えなければならない。考えてこそ未来を作り、今の問題を解決したりできる。考える事が人の価値だとつくづく感じるが、会社でも考えている人は少なくなった。指示を待つばかり、自分の考えも述べずに質問するばかり、ミスして素直に謝るのも良いが多少の言い訳もせず謝るばかり。そのくせ反省が無かったのか同じミスを繰り返す。考えなかった証拠を突き付けられているようだ。
    トッド氏が長年の研究により確立された考え方をブラッシュアップして新しい考え方や過去の考え方の誤りを訂正していく様に、我々もそんな氏の姿勢に学び考える自分を取り戻していく必要がある。きっと物心つく前、生きて笑って泣いて精一杯一日中学んでいた幼な子の頃の様に。それが無ければ成長できない。

全40件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

エマニュエル・トッドの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
アンデシュ・ハン...
リンダ グラット...
トマ・ピケティ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×