つながり過ぎた世界の先に(「世界の知性」シリーズ) (PHP新書)

制作 : 大野 和基 
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569849058

作品紹介・あらすじ

「COVID-19の蔓延により、おそらく人類史上初めて、世界中で人間の行動の完全な同期がみられた」と哲学者マルクス・ガブリエルはいう。人々が一斉に倫理的な行動をとったことは、資本主義の行方にどのような影響を与えるのか。本書ではさらに、「国と国とのつながり」「個人間のつながり」「経済活動のつながり」を読み解き、終章で改めて個人の生のあり方を見つめ直す。
「新実在論」「新実存主義」「新しい啓蒙」と次々に現代思想を刷新する旗手が、新しい時代のビジョンを示す一冊。哲学者は、徹底した抽象的思考を行うことで、総合的で普遍的なビジョンを提示することができる存在である。ならば、ガブリエルは本書で、哲学者がなすべき仕事をしっかりと果たしたといえるだろう。
【目次より】
・ロックダウンと『リヴァイアサン』/・危機は倫理的進歩をもたらす/・ネオリベラリズムの終焉/・アメリカ人は、多様性に非常に弱い/・統計的世界観による幻想/・政治家が正しい判断を下すためには、何が必要か/・今のEUはアメリカを擬態している/・日本人はなぜ先進国の中で最も孤立している人が多いのか/・人類が最も退歩した点/・(Column)哲学者と現代のつながり

感想・レビュー・書評

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  • ファクトフルネスを現代の情報と哲学的な視点におきかえた1冊。第1章の「人とウイルスのつながり」において、政策立案に専門家を深く関わらせる弊害にとても納得しました。政府機関もメディアも国民も、事象に対してなにが問題で課題なのか、思考停止している状況が伝わってきます。
    倫理的な観点での政治・経済運営は理想と奇麗ごとが多いように感じたが、それは俺自身の中で不都合な事実から目を背けているだけだと感じた。耳の痛い話も多いが、違った視点・観点・本質的な話を読むことは、人間力を高めるのにとても大切だと感じさせてくれた1冊です

  • 新実在論という哲学は正直なかなか理解できないけど、思考を視覚や聴覚と同様に感覚の一種と捉え、現実から完全に離れた思考はできない、美的な感覚を持つことが重要とか興味深い話が多い

    一方で軽い感じのインタビューだからか、ヨーロッパの上流階級がいかにも考えそうなことが長々続く
    デジタル課税、環境至上主義、企業への倫理順守の強要、ジェノサイド認定された国への徹底的な攻撃などEUの政治方針がよくわかるし、それへの絶対の信頼がにじむ
    哲学的な考察がかなりダイレクトに実際の政治に持ち込まれているのがよくわかる

    ただ個人的には企業に倫理部門を作れば社会が良くなるというが、いかにもエリートの考えで、倫理学者が倫理的かをどう判断するつもりだろう
    パワハラ対策職員がパワハラしたりするわけだし
    倫理を振りかざして、敵味方を分ける方針はホントに世界を平和にするのか疑問と思うが・・

    本の中にもあるが、現代はソフトパワーを競う時代であり、このような哲学のバックアップを持った考えは強固で無関係でいられないだろう

  • 落ちぶれたマスメディアからは発信されないであろう事柄、倫理観に基づく洞察、偏りすぎていない確固たる主張。
    総じて勉強になることが多かった。

    トランプ支持者ではないものの、昨今のトランプ批判には疑問を抱いていた。しかしこの本の中でトランプの功績について触れられており、そこが特に、この本を評価した点。

  • 著者に2020年夏〜秋の終わりくらいかにかけてインタビューをしたものをまとめたインタビュー本。
    一貫して倫理的に正しい社会を目指す「倫理資本主義」について説明している。搾取の資本主義は誤りであると主張し、倫理的な労働とはなにかを定義しているし、具体例もあげている。
    いまこそ私たちが産業革命時代の強制労働の歴史を見ると、なんてひどい環境なんだと思うけど、100年後の未来から21世紀前半を振り返ると、なんてひどい世界だったんだと言われているのかもしれないなと思った。

    SDGsだ、持続可能な世界だと言われて、グレタさんが出てきた時、なんてこそばゆい言葉が並ぶんだろうと批判的な気持ちもあったが、今は「そうだよな、何かを犠牲にして成り立ち続けるわけがないし、綺麗事として、地球にも人にも優しく社会であらねばな」と思う。

    さて本書の中では、ウイルス学者が政治をしてしまっている状況を批判している。それはその通りだと思うし、彼もまた哲学者が政治をしてはならないと思っているはずだ。だが、著者があまりにも世界中で人気なのもまた問題で、彼の視点を取り入れようと大企業が彼を招き入れて意見を聞いている。昔の哲学者のおかれた環境とは大違いだ。
    彼はあくまで考え方を広めようとしているだけで、政治に利用されてしまうのを危惧しているだろう。

    もうひとつ気になった点は、トランプへの高評価についてで、経済と戦争の点については評価できるが、よい大統領かというと結論を急ぎすぎだろう。分断を煽り続けたことに関しては、批判すべき点だ。議会襲撃以降におそらくインタビューをしていないので、これは本人も見方が少し変わっていると思う。

  •  パンデミック以降の資本主義の向かうべき方向についてわかりやすく述べている。

  • 哲学者からコロナ後の世界がどう見えているのかを知れました。面白かったです。

    まず印象に残ったのは倫理資本主義の概念でした。経済システムは維持した上で評価基準を倫理的に変えていく必要があるとのこと。
    企業内に哲学課を置くのは斬新なアイデアだと思いました。是非実現されてほしい。
    ただ、個人的にはそれだけでは完全に持続可能が実現できるか微妙だと思ったりはします。

    また、統計的世界観に陥ることへの危機も理解できました。ウィルス学者に政治を任せると、どうにもならなくなると、そりゃそうだなと納得しました。
    また、感染者数を出してる側も、受け取る側も数字が何を意味するかを理解していないという指摘も刺さりました。
    これから、今までよりズームアウトして世の中が見れそうな気がします。

  •  Audibleにて。
     陰謀説が流行るのも、ステレオタイプ思考が表に出てくるのも根は同じなのかもしれないな。未知のもの=予測がつかないものは不安だから。同じ人間がやってる=「悪意」と解釈すれば、まだ想定の範囲内。その方が相対的な不安感は下がるのだろう。
     人の脳は予測とその結果のズレによって自己に含まれるか、そして安全な環境かを判断している。同類の人間が抱いた悪意なら、パンデミックも世界の終焉も腹は立つけど仕方がいない…ということかな。反射による恐怖の処理だ。それくらいには追い込まれているからそうなる。

    一方で、パンデミックはチャンスだったのかもしれない。「怖いのは分かる。でもだからこそ反射的な判断をするな。もう一度、人間とはどうあるべきかを対話によって考え直せ」というメッセージが投げかけられた…それ故に。

    人間全体にとって良いことをしましょうというのが倫理。それに基づいた倫理資本主義の提唱。繰り返されるゼロサムゲームでは、結局のところ貧しく、破綻に向かっていくしかない。あらゆる判断、活動を倫理を軸にというのは納得の主張だ。ブリザードの中、螺旋を描くことで生き残る北極だか南極のペンギンたちに思いを馳せる。

  • 2022/02/27 amazon 950円 p475

  • 哲学界のロックスターと言われるマルクスガブリエルの本を一冊読んでみたくて手始めに読んでみました

    印象に残ったのはパンデミックの見解について。

    最近、100分de名著でショックドクトリンを観たのですが、ショックに漬け込んで資本主義政策(公営の民主化)を推し進める怖さを知ったのですが、パンデミックでショックドクトリンの逆バージョンみたいなこともできるのだなと感心しました。

    具体的にはロックダウンを利用して人々を森へ行かせる。

    経済活動を止めることで、経済活動以外の価値に気付かせる政策はいっぱいできたのかもなって思いました。
    ただ、恣意的なものを感じさせた時のバッシングみたいなものは想像できるので、押し付けるのではなく、私が考える良さをアピールするくらいに留めるのが良さそうに思うのは、私がヘタレだからでしょうか。

    あと、30分早く行くために山にトンネルを掘る必要があるのか!? という問いはすごく考えさせられました。
    ここを通過する人の30分の価値の総和みたいなものから経済価値は算出できて、経済合理性のもと判断できるのだと思うけど、この試算には経済以外の価値が取りこぼされてるのですよね。

    まもなくリニア新幹線が開通しますが、その効果とそれにより取りこぼしたものとの比較は永遠にできないんだろうな。

    赤ちゃん学の本で、赤ちゃんがお座りできたらすぐに立つことを覚えさせるのではなく、お座りした景色をまずは楽しませてあげよう、と言っていたのが印象的で、今の景色をまずは楽しむ、というのがまずは大事な気がしています。

    世の中、課題は山積み。課題を一つ解決したからと言って世の中の全ての課題を解決できたわけではない。課題を解決し続けた結果、最終的に新たな課題が生まれた、という結果になることも往々にしてある。

    まずはその課題が克服できたことを喜びたい。

    全体の感想というより、私が印象に残ったことを膨らませた感想となりました。まぁ、いつものことですり

  • 先だって読んだ本「人生百年の教養」に著者の亀山郁夫先生がこの本から「幸せになれるゾーン」が人間にはあると引用していたのでマルクス・ガブリエルの「つながり過ぎた世界の先に」を読んでみた。
     最終章に「人には幸せになれるゾーンがある。ゾーンは人によって違う。このゾーンをみつけられたら、それは自分の運命。そしてその運命が幸せをもたらす。」と書いてありました。
     パンデミックはじめの頃書かれた本ですが、トランプ大統領の政策 コロナ対策、外交、経済など間違ってなかったと論じてます。コロナがなければ選挙に勝っていたろうと言ってます。マスコミが彼を悪役にしたてたと。ガブリエルはメルケル首相は世界最高の指導者だとも礼賛して、倫理資本主義が広まることを行動している哲学者です。

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著者プロフィール

【著者】マルクス・ガブリエル
Markus Gabriel/1980年生まれ。後期シェリングの研究によりハイデルベルク大学から博士号を取得。現在、ボン大学教授。日本語訳に、『神話・狂気・哄笑:ドイツ観念論における主体性』(ジジェクとの共著、大河内泰樹/斎藤幸平監訳、堀之内出版、2015年)、『なぜ世界は存在しないのか』(清水一浩訳、講談社選書メチエ、2018年)、『「私」は脳ではない:21世紀のための精神の哲学』(姫田多佳子訳、講談社選書メチエ、2019年)、『新実存主義』(廣瀬覚訳、岩波新書、2020年)、『アートの力』(大池惣太郎訳、堀之内出版、2023年)など。

「2023年 『超越論的存在論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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