火定(かじょう) (PHP文芸文庫)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569900841

作品紹介・あらすじ

天然痘が蔓延する平城京で、感染を食い止めんとする医師と、混乱に乗じる者は--。直木賞・吉川英治文学新人賞ダブルノミネート作品。

感想・レビュー・書評

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  • 2020/6/20

    すごいものを読んでしまった気分。

    新型コロナの流行を機に読もうと思ったあるあるパターンです。
    寧楽(なら)、つまり奈良時代の天然痘パンデミックもの。
    奈良時代の天然痘ともなると現代の新型コロナよりかなりエグい描写の地獄絵図が繰り広げられるわけですが、乱世の人心は現代にも通じるものがあるんだろうね。

    本の紹介に「光と闇」とありますが、光みたいなものも確かに感じた。
    医療従事者の志が尊かった。
    澤田瞳子さん知らなかったので他のも読まなければ。

  • 字が大きいので早く読み終わるかなと思いきや、人名や役職や物の名前などが昔風なので読みづらい。

    最初は文句ばっかりの兄ちゃん。疫病を通して色んな経験をしながら、「医者とは何か」「人の死の意味とは」みたいなことを考えるようになっていく。

    予想外の展開やどんでん返しみたいな盛り上がりはない。だけど話は現実味があり上手くまとまってるし、冤罪で捕まって捻くれて拗らせてるお爺ちゃんの復讐(?)も上手く行きそうだからスッキリと読み終えられた。
    でも読み返すことはないかも…。


  • 目まぐるしくストーリーが動くので一気に読んだ。コロナ禍経験済なので医療崩壊や詐欺やヘイトや社会の歪みが顕在化する様は最早懐かしかった。
    登場する奈良人達の感性が妙にナウいのと、天然痘でバタバタ死んだ人達を「この世の業火に我が身を捧げる、尊い火定」と綺麗に纏めようとするノリがちょっときつかった。天然痘が数十年前にも都で蔓延したと言ってるのにそれを登場人物の殆どは知らないし対応も生かされてない様子を描いておきながら「無惨な死を遂げた人々の記憶は、後の世に語り継がれ、やがて別の人々の命を救う」ってしんみりしちゃって…主人公はこう思っただけだよ!ってことね、と流せば良いんだけども。
    この作品における坊主やペルシャ人のように、分かり易く口当たりの良い悲劇に焚べる薪みたいに人の死が描かれると作者への信用が失われて白ける。
    まぁ、面白かったんだけどさ…

  • 天平の時代の天然痘パンデミックの話
    これが出版されたのはコロナパンデミックの前
    起こる事態が想像できすぎて辛い。
    よく生き残って今の命に繋げてくれたなと思う、先祖様。

  • ずっと読みたくて欲しいものリストに入れていた本。

    藤原光明子が作った療養院(施薬院)と、四兄弟が天然痘で亡くなる話をベースに京都で起こったパンデミックを描く長編小説。

    単行本の出版が2017年だが、今読むとその後の2020年新型コロナウィルスの流行…特に2020年前半のあの異常さが頭の中で蘇る。今も昔も人間の心理というのはあまり変わらないのかも…(初めに公にして隔離すればよかった的なやつも含めて)

    亡くなった人の遺体をどうしようもなく、ただただ河原に打ち捨てるしかない部分などはこの世の地獄だろうなぁ、と思うし、そこからまた新たに病気が伝染していくのだろうなぁと思うし、さらに人手不足による食糧難など、最後は一応良い方向に落ち着きはするけれど、読みながら憂鬱な気持ちになった。

  • すごくグロテスク。現実にはもっともっと残酷なことはたくさんある。でもフィクションであるからには、ここまで残酷なエピソードを並べるのなら、それでも読んでよかったと思える説得力が欲しかった。僧侶をあそこまでひどい目にあわせる必要あった?!その割に、濡れ衣薬師の報われ方が雑に手厚くて、無性に気にくわない。

  • 天平の平城京で巻き起こった
    天然痘パンデミックの話。

    本望でなく医療に従事している名代と
    志を政治に翻弄され
    医者としての役目を放棄した諸尾。
    ふたりを軸に都の混乱が
    どうやって広まっていったのか描かれる。

    どのキャラも二面性があって
    諸尾を詐欺に引き込む有須は悪党だけど
    同房だった虫麻呂を見捨てないし
    懸命に治療を続ける施療院の関係者でも
    いざ自分が罹患するかもと思ったら
    恐怖で逃げ出す。

    さまざまな人間の業があらわになって
    しんどい展開ではあったけど
    そんな中で生きていくことの力強さも
    感じられた物語でした。

  • 本編には全く関係ないけどこの時代の少なくとも京の庶民には姓が与えられていた記述ありp199

  • 知り合いから勧められて読み始めたが一気読みしました。奈良時代の天然痘のパンデミック…
    今の時代にあまりにもリンクし過ぎて戦慄を感じざるおえない…
    医師の使命感…市井の人々…色々な思いやそれぞれの行動が交錯して一級の時代小説に仕上がっている。かなり読み応えがありました。

  • 【灼熱の暑さとともに京を襲ったおびただしい死。如何におぞましく無残な現実であろうとも、人々が生きたその痕跡は確実に残り、その死は新たなる命を生み出す。
     だとすれば彼らの死は決して、無駄ではない。この世の業火に我が身を捧げる、尊い火定だったのだ。】(P421)
     2019年8月頃から、なんかおかしいぞと、コロナが広まっていって、12月にはゾンビ映画さながら感染していくのだが、この小説も、やんちゃ坊主や飲食店の女性からバタバタ倒れていき、貴族も死んでいく。ウイルスの容赦のなさのなか、人は何を信じたらいいのか。ウイルスのパニックが外国人へのヘイトへと繋がるなど、緊急事態下での様々な事象が批評的に語られているし、予言的でもある小説だ。いや、読んでいる人間は、コロナ禍を経験しているので、どうしても「この小説は古代を通した予言書だ」という前提を持ってしまうだろう。
     とくにメインは、迷信の類いである。コロナ禍においても、迷信が多数出た。しかしコロナと違い、天然痘は人体にまがまがしい症状を出すため、「コロナはただの風邪」的な言説は書かれないし、異なっている。御札が流行することは、コロナ禍においてはなかったが、御札を流行させた男は、この世界への憎しみで動いており、めちゃくちゃになってしまえばいいという願望があったので、この、ただ世界をめちゃくちゃにするために煽ってたきつけるという人間の登場という意味においては、コロナ禍と火定の描写は共通している。
     中心的なテーマは医者とは何かである。澤田瞳子の小説を二冊これで読んだが、両方とも宗教を否定しているというか、恋愛を馬鹿にする高学歴女子みたいな態度で宗教に向き合っているのが面白い。恋愛にがんばる女子を高学歴女子が「あー、青春してるよね、よし子って」と言って疲れた女みたいに批評家のように笑うのと同じような態度で、仏教・神道的な、人間の信心を見ているようで、まるで唯物論者のようでもある。よほど宗教者に腹の立つ事があったのだろうか。
     この小説の終盤では、医者はみんなを救うんだみたいな、「医の哲学」っぽい感じで終わる。当時の医者の対処方法の無力さ、困難さがこれでもかと見えてくる。その臨場感は素晴らしかった。

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著者プロフィール

1977年京都府生まれ。2011年デビュー作『孤鷹の天』で中山義秀文学賞、’13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞、’16年『若冲』で親鸞賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、’20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、’21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『漆花ひとつ』『恋ふらむ鳥は』『吼えろ道真 大宰府の詩』がある。

澤田瞳子の作品

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