清浄島

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575245707

作品紹介・あらすじ

戦後復興期、昭和二十九年。北海道立衛生研究所に勤務する研究者の土橋義明は、北海の孤島、礼文島に派遣される。この島の出身者に相次いで発見されている寄生虫症「多房性エキノコックス症」の謎を解明するためだった。未知の感染症と闘った若き研究者と島民の軌跡を、圧倒的筆力で描き切る“今こそ読んでほしい”感動の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 昭和29年北海道の離島、礼文島の出身者から相次いで発見された「エキノコックス」。
    腹が膨れて死に至る感染症を撲滅すべく、北海道立衛生研究所の研究員である土橋が奮闘する。

    流行拡大を防ぐためにキツネ、野犬、野猫のみならず飼育されてる犬猫までも処分という決断に至るまで。

    まるで映像を見てるかのような描写だと思った。
    それほどの熱量が、ガンガン伝わってくる。
    生死に関わることを追求し、やるべきことを恨まれながらもやるからには覚悟が必要。

    土橋とは性格が合わないのか…と思っていた役場の山田、議員の大久保、大学生の沢渡は礼文島を離れた後も交流するほどになるのは、彼らが土橋の気持ちをよくわかっていたからだろう。
    決して、ひとりでは出来ないことだから。
    そして、彼らは強いと感じた。

    今なお、「エキノコックス」を耳にするのはまだ感染することがあるからだろう。
    生きている限り、終わりではないのかもしれないが医学は進歩していると信じている。


    どんな感染症であれ、日々治療薬を開発している研究者や医療従事者の方々に、心よりご尊敬の念を申し上げます。


  • 読書備忘録759号。
    ★★★★☆。

    ドキュメンタリーかと思うばかりの物語でした。
    吉村昭を読んでいるのかと勘違いするくらい。笑

    物語はエキノコックス感染症撲滅に人生を掛けた人々の戦いを描く。

    時は大正。礼文島を山火事が襲う。森林の再生の為に苗木を植えるが植えたそばからネズミが食う。
    ネズミを駆除するために千島からキツネを連れてくる。そして、キツネにはある寄生虫が巣食っていた・・・。

    時は戦後の昭和29年。
    北海道立衛生研究所の研究員土橋義明は礼文島に向かう船上にいた。
    礼文島で度々患者が報告される奇病の調査の為だった。
    奇病はエキノコックス感染症。肝臓に寄生虫が巣食い、最終的に死に至る・・・。
    エキノコックスの終宿主はキツネ、犬など。中間宿主は鼠。すなわち、寄生虫の卵を食べた鼠に幼虫として寄生し、感染した鼠を食べた終宿主の犬やキツネの腹の中で成虫になり卵を産む。その卵が糞などに紛れて大地にばら撒かれる。野菜、水、山菜に紛れて人間に・・・。ただし、エキノコックスとしては人間への感染はエラー。成虫になれずに人間と共に死んでしまう。
    厄介なのは潜伏期間が10年以上の長期に渡るため、感染しているのか判断が難しい。

    物語は、礼文島に到着した土橋が、村の職員である山田、村の議員大久保、医師の長谷川など、協力者と共に、礼文島からエキノコックスを駆逐する過程を描く。
    さらに、12年後に根室で再び起きるエキノコックス感染症に対する取り組みを描く。

    ほんとにドキュメンタリーです。
    なんとか感染症を撲滅したい関係者の思いがビシビシ伝わってきます。
    そして、撲滅のために犠牲になったペットの犬、猫、そしてエキノコックスという微生物も含めて、あらゆる生き物に対する敬意、悼み、弔いの心。

    河﨑さん。「土に贖う」など、北海道を舞台に、時代に翻弄された人々を描く骨太小説がほんと素晴らしいです。

  • 日本海最北の離島、礼文島。昭和二十九年初夏、島の出身者から相次いで発見された「エキノコックス症」を解明するために動物学者である土橋義明は単身、ここに赴任する。


    命の軽重、人間が生きるために他の動物の命を奪うことを考えさせられた。
    史実に基づいたフィクション。だが、抑制のきいた描写はノンフィクションを読んでいるかのようだった。

    「エキノコックス症」について、聞いたことはあるけど、ほとんど何も知らなかった。本来は、キツネとネズミの間でライフサイクルが完結するはずだという。しかし、イレギュラーに人間に寄生してしまった場合、死に至る病を引き起こしてしまう。
    共存しながら感染をどう防ぐのか。なによりも偏見や差別がこわいものだとおもった。何事も理解する努力を忘れずにいたい。

  • エキノコックスとコロナのあれやこれや 小説「清浄島」の最期を紡ぎながら考えたこと<河﨑秋子 元羊飼いのつぶやき>
    https://www.hokkaido-np.co.jp/sp/amp/article/653944

    清浄島 | 双葉社
    https://www.futabasha.co.jp/book/97845752457070000000

  • 道立研究所に所属する研究者としての職責と向き合う土橋さんの姿に、今、モヤモヤしている私のパートのお仕事の悩みなど一掃されました。人間の命、愛玩動物の命、野生動物の命、寄生虫の命… 比べることなど意味はなく、ただ、自分のできる最大限を尽くすことしかないのですね。

  • 読んで楽しい話ではありません。しかし北海道に住むものとしては知らないことにはできない話でした。なかなか終焉しない感染症に見舞われている今、かつて謎の感染症と思われていた寄生虫による病との闘いの物語が世に出てきたのは自分には時代の要請だったのでは、という気がしました。

    河﨑先生がこの物語をいつから構想されていたのか存じ上げませんが、よくぞこの重い話を書かれたなと尊敬の念を覚えるとともに、北海道にはまだまだ日本の他地域にはない物語の素材が未発掘のままあるのではないかとも考えました。この物語をどの時代まで描き、どのようにまとめるか、終わらせるか悩まれたのではないかなぁと勝手に想像しました。今も現実が厳しいからこそ、登場人物たちを最後はあのような形にしたのかな、とちょっとした救いのように感じました。個人的には、大の猫好きの先生が犬や猫の腹をどんどんかっさばく小説を書くのはしんどかった面もあったのではとも思いました。

    有名某ドラマでキタキツネを「ルールー」と呼ぶアクションが昔放映されましたがあれを見ていた大人は当時大層懸念を示していたことを思い出しました。今でも道民はキタキツネを見ると「絶対触っちゃだめだよ」と言うし沢水は絶対口にしません。湧き水も定期検査などで安全を確認できているものでなければ飲みません。寄生虫はまん延してしまったかもしれないけどそれを予防する知識はこの物語に出てくるような先人たちのお陰で周知されたと思います。そのことに改めて感謝する読書となりました。
    道民だけでなく沢山の人に知ってもらいたい物語です。

  • ・エキノコックス症
    潜伏期間が長く、寄生虫の卵が体内に入って10年以上経ってから発症し、ようやく自覚する場合が多い。ひとたび発症すればそこからの進行は速く、肝臓肥大、肝硬変、それに伴う皮膚の黄疸などが見られるようになる。妊婦のように腹が膨れる。
    孵化した幼虫が寄生する場所は肝臓が多いが、筋肉や脳に寄生することもあり、特に脳の場合は激烈な痙攣発作が起きた例もある。

    ・中間宿主 ネズミ
    ・終宿主 キツネ、イヌ、(ネコ)
    終宿主の糞便に汚染された野草、水などにより人間が感染する。ヒト同士では感染しない。

  • 腹が異様に膨れて死に至る、寄生虫による感染症・エキノコックス症。
    礼文島の地域病とされていたエキノコックスの調査のため、土橋は島に上陸するが、島で生活するうち独自の風習やエキノコックスによる差別などに直面していく。

    エキノコックスについては多分史実の通り描かれてるんじゃないかと思う。
    昭和20年代の物語だけど、感染症への差別や隔離の在り方は、コロナ禍を経験した現代の私には見てきたことのようにリアルに感じられた。

    島民がそれぞれのやり方で島を思う気持ちや、
    島民ならではの事情、人間模様もこまかく書き込まれていておもしろかった。

  • 北海道に生まれ育った人間はエキノコックスの恐ろしさは子供の頃から何度も言い聞かされてきました。でも最初は礼文島だったなんて、ここ数年で知りました。そのことについて書かれた小説ということで興味を持って読みましたが、ノンフィクションのような作品で読み応えがありました。
    礼文島は本当に美しい島で、キツネもクマもヘビもいないから安心してハイキングができます。こんなに辛い歴史を乗り越えて今があることを、もっともっと皆に知ってほしいです。

  • <飼>
    作者河崎秋子には『締め殺しの樹』で出会った。その著作に”犬”についてもちょっと気になる描き方をしたところがあったので,その要約を僕の気持と共に感想文に書いて読メなどに投稿した。すると北海道(確か根室地方)在住のあるお方から,その僕の感想文にレスを頂き河崎秋子さんのプロフについて詳しく説明して頂くと共に,お薦めの作品も教えてもらった。もちろんその作品『肉弾』は読んだ。衝撃的な作品だった。

    本書はそれらの作品と比べると少しおとなしいと云うか刺激が足りない部分もあったけれど,或る意味大変に勉強になった。こういうふうに今まで全く知らなか分野の事を小説を読んで学ぶと云う事は実に嬉しい事です。趣味読書で良かった。

    【ここからは全く別の話題です。すまぬ】
    先日「サクマ式ドロップス」を製造販売する佐久間製菓(株)が2023年春に廃業する旨のニュースがネットに流れていた。楕円筒形のブリキ缶に入った「サクマ式ドロップス」。もちろん僕は良く知っているし食べたことが何度もある。夏の暑い頃に熱で溶けて缶の中にこびりつてしまったドロップをなんとか取り出そうと奮闘した記憶が懐かしい。

    でその記事の中に「サクマドロップス」を製造販売するサクマ製菓(株)は別会社であり今回の廃業予告とは関係も影響も無い事が「サクマ式ドロップス」と「サクマドロップス」両方の商品写真とともに載っていた。うーむである。どちらも食べたことがあるが、どちらに親しみあるか、と問われたら僕は赤い缶の「サクマ式ドロップス」だな。いやいやまたもや長い独り言だった。すまぬ。

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著者プロフィール

1979年北海道別海町生まれ。2012年「東陬遺事」で第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)、14年『颶風の王』で三浦綾子文学賞、15年同作でJRA賞馬事文化賞、19年『肉弾』で第21回大藪春彦賞を受賞。最新刊『土に贖う』で新田次郎賞を受賞。

「2020年 『鳩護』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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