上海灯蛾

著者 :
  • 双葉社
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感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575246025

感想・レビュー・書評

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  • 終わり方が良かった。表題とも合っていた。
    前半はどうなんだろうなーと思いながら時代や青幇への興味で読んでいたが、後半から吾郷次郎と黄基龍の魅力が出てきて最後まで突っ走れた。

    読み始めでいつか読もうと思っている「華竜の宮」の作者さんだと知り、
    読み終わって「戦時上海・三部作」最後の長編だったと知った。

  • 田舎の閉塞感から逃げ出し自由に生きるため、成り上がりを図るため、秘密組織に近付き自己実現を果たしていく男の話
    戦中の上海、特別な阿片。中国人組織の中で日本人ということを隠し生きる主人公。目をかけてあげた若者は敵となって戻ってくるし、よくある設定がたくさん詰め込まれていてでもそれがいい!な作品でした。自分の心に真っ直ぐで魅力的な登場人物が多かった。

    また歴史を扱ったフィクション作品としてあとがきに誠意が込められていたのが印象的でした。ここまで書かないとだめなのか?とも。

  • 2023年。あの時代の上海といえば読まないわけにはいかない。
    兵庫あたりの貧農の家に生まれた次郎。IWannabeSomebody、実家を飛び出して上海へ。上質の阿片を売りに持ってきたユキエ、義兄弟の契りを交わした揚。そして青幇、上海だ~。ロシア人とのハーフ常楽。大学で学ぶべく希望を持って進学した常楽が関東軍にからめとられていくところも灌漑深い。恩人次郎と敵になってしまう。
    揚の家族の惨殺。物語は阿片をめぐって青幇、関東軍との戦いに。
    灯りに群がる蛾。ミステリタッチもあるし、業につかれた人間たちの物語を堪能した。

  • 上田早夕里の上海三部作の最後…と言っても、各作品に直接のつながりはないのだが…。

    良質の阿片利権をめぐって覇を競う上海裏社会を牛耳る結社「青幇」と日本の関東軍との争いに翻弄されつつもしたたかにのし上がろうとする主人公「吾郷次郎」を描く。

    毒花のように艶やかで危険で底知れない魔力と魅力を放つ暗黒都市「上海」と太平洋戦争前後の退廃と暴力と破滅の雰囲気。青幇や関東軍の個性的にイヤらしい登場人物、媚薬のような芳香を放つ危険なヒロイン。フィクションとわかって読んでいても悪酔いしそうな物語世界。500ページを超える小説世界の独特な雰囲気に浸るだけでも十分に面白い。

    そんな世界の中で、主人公が意外にも平凡(あくまで登場人物の中では)なのが、これまた良いのである。悪や退廃や大陸的な処世術だけを読まされると、迷子になったように戸惑ってしまうのだが、かろうじて理解できる主人公の生き方や価値観を浮き輪代わりにつかまって、艶美悪徳都市「上海」を漂える。随分心もとない浮き輪ではあるのだが、それがまた良いのである。

    それにして麻薬の恐ろしさ。エルロイやウィンズロウや馳星周がさんざん書いてきた通り、使うにしても売るにしても麻薬はかかわった瞬間から破滅の道をたどる。裏社会に生きる分かりやすく「悪い人」が扱うだけなら、そこに踏み込まない用心もしやすいのだが、一見表社会の人がそこに絡むから怖い。

    本作でも、国家の正義と大義のためと言って阿片で利権を得ようとする関東軍(今となっては悪い組織だが当時の日本ではエリートかつ英雄だともいえる)が、軍隊の威光をかざし悪辣な所作を行う。勉学で身を立てようと志した若者が、つまづきもせず努力してきた果てに関東軍で麻薬戦争の朱戦力になっていたりする。

    現実だってそうだと思う。政権与党はカルト宗教が奥深くまで巣食っていたし、地方政治の某超人気政党は、公務員と看護師と文化予算を削りに削って、カジノを誘致する。正義だの正しさだのを強く主張するヤツらの危うさにまだ気づかないのかと、魔都上海は笑っているに違いない。

  • 日本の農村を飛び出し、中国名を得て中国人として上海で生きる男の一生。
    魔都上海と裏社会の青幇そして阿片。戦争に翻弄される人々の駆け引き。
    次郎の行く末は救いの無いものだと分かっていても、どうにかこの荒波を乗り越えて欲しいと祈りながら読んだ。
    「破滅の王」も読んでみたい。

  • 「破滅の王」「ヘーゼルの密書」に続く上海3部作最終巻。

    極上の阿片が採れる芥子「最(ずい)」を巡る関東軍と上海の秘密結社青幇の攻防。

    貧しい日本の農村に生まれた主人公が青幇の末端に属する中国人青年と義兄弟の契りを結び、のし上がろうとする。

    独自の世界を展開するSFを主戦場とする作者による上海物前2作は大いに楽しんだが、本作は主人公を巡る人間関係や青幇内の対立など、やや消化不良な感じがした。

    題名は一瞬の栄華に命を賭す若者たちの生を象徴していて、秀逸。

  • 田舎から成り上がりを夢見て上海に来た青年、吾郷次郎が原田ユキエと名乗る女性から芥子の種を受け取ったことで、麻薬の売買など裏世界に絡んでいく物語。
    組織内で起こる争い、それに加えて国同士の対立も交じり合っていく。

    作中で起こる事件、原田ユキエがなぜ種を持っていたか、など数々の謎が結びついていく瞬間はとても爽快感がある。
    主人公である吾郷次郎の義理堅いところや、支配への反発など頑固な所が気に入った。そんな主人公が楊直や原田ユキエなどと徐々に信頼関係を築いて行く展開には心が躍る。
    また、次郎が囚われて拷問されている時に楊直が「丁重にもてなしたら喋るかもしれんぞ」と伊沢に対して言った時は、なるほどありえると少し笑えた。

    中盤から盛り上がり、一気に読めた。
    最後も個人的にはすっきり終わった感じがしてとても楽しめた作品。

  •  『破滅の王』の作者が再び1930年代の上海を描いた作を完成させたと知り、さっそく購入。上海を中心とするアヘンの流通に焦点化した意欲作で、期待に違わぬスケール感を満喫できた。汪兆銘政権統治下の上海で、関東軍の特務機関と上海の「青幇」の世界観と論理がぶつかり合うラストに至る展開は、作者の筆力とリサーチ力が存分に発揮されている。
     
     語りの戦略も興味深い。このテクストの男たちは、まさに灯火に群がる蛾のように、主体的に動いているように見えて、じつは彼らの力を超えた何者かによって動かされてしまっている。作中で唯一事態を動かしているのは原田ユキヱだけなので、次郎も楊直も、そしておそらくは「董老板」も志鷹中佐も、金と権力によって状況を操作できていると思い込んでいるだけだ。というより、描かれた出来事を追いかけてみれば、この物語の筋を作っているのは、むしろ原田ユキヱと満洲国・関東軍との戦いなのだ。
     しかし、作者はユキヱのエピソードをあえて傍系に置くことで、アヘンに踊らされた男たちの狂奔を活写していく。こうした語りの構図は、日本の戦争も、「青幇」たちの「抗日阿片戦」もともに厳しく批判できる視座を確保するための戦略だろう。戦時下の上海を舞台にしたノワール小説のようでいて、じつは、そのような暴力を可能にした場そのものの自壊を描く、企みに満ちた一篇と読んだ。

  • 次郎の生き様が胸に迫った。

  • 大陸浪漫。狭い日本にゃ住み飽きた。戦前の冒険小説を彷彿させる作品でした。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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