この限りある世界で

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575246391

作品紹介・あらすじ

中学三年生の少女が同級生に刺殺された。加害者はネットに、最終候補作になっていた小説の新人賞に落選して哀しいので殺すと書き込んでいた。一方、加害者が応募していた新人賞の受賞作を担当することになった編集者の莉子は、受賞者・青村とともに原稿の修正を行っていたが進捗は捗々しくなかった。加害者の小説がネットに公開されていたことから受賞作と比較され、ネットを中心に青村への批判が起こる。そんな中、青村が自殺を図る。――赦しと再生を描いたミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 横浜の市立中学で中三の穂村マリアがクラスメイトの遠野美月に刺されて死亡するという事件が起きます。
    美月は事件の動機として、シルバーフィッシュ文学賞に落選したからと言います。

    シルバーフィッシュ文学賞を受賞したのは23歳の青村信吾の『プラスチックスカイ』という作品でした。
    青村信吾はその優しい性格から内定取り消しを望みます。

    そして信吾には「コネで受賞したのは本当か」などの嫌がらせを受けるようになり、付き合っていた彼女ともうまくいかなくなり、自殺してしまいます。

    信吾の担当編集者だった文高社の小谷莉子26歳はショックを受けます。


    篤志面接委員の白石結実子は妊娠中ですが、千葉の新緑女子学院に送致された遠野美月のところへ行って小説の書き方を教えて欲しいと言われます。
    結実子は教育実習生だったとき、青村信吾を教えたことがあり、その仕事を引き受けます。

    遠野美月に面会すると「なぜ、ボランティアをするのか」と言われ結実子は『更生』というテーマで60枚の作品を書くように言います。

    美月は「私の本当の犯行動機を見つけてください」と言い「養育者がダメな人間だからです」とも言います。

    結実子は美月の犯行動機を両親や弁護士に当たり探そうとしますが…。



    最後のトリックは全然気がつきませんでした。
    青村信吾が一番好きな作家だと答えた美月の心は本心だったのだと思いました。
    美月の本当の犯行動機は二転三転しますが、どんな動機であれ加害者であったことには変わりがないのだと思いました。
    そして、青村信吾の作品はやはり受賞すべき作品だったと思いました。

  • 15歳の少女が教室で同級生を刺殺する事件が起きる。
    前日の小説の投稿サイトに〈第48回シルバーフィッシュ文学賞、最終選考で落選。哀しいので明日、人を殺します〉とあった。
    さらにその新人賞を受賞した青村信吾が、受賞して申し訳ないと遺書を残し自殺する。

    加害少女の本当の犯行動機を見つけるために篤志面接委員である白石結実子は何度も彼女と面接をする。

    少女の本音が引き出されていくうちに白石のいつもと違う雰囲気に圧倒される。
    すべてが明らかになったとき茫然となった。
    そういえば、いつのまにか青村の担当編集者である小谷莉子の存在を感じることなく後半に突入していたことに気づく。

    退職した小谷莉子へ送られてきた本と手紙には感動するものがあった。

    仕事も学校も命をかける場所ではない。
    最近は作家に対しても、もっと気楽に創作してほしいと思っている。けれど、うまく生きられなかった小説家、青木信吾の作品を、わたしは心から大切に思っています。
    という一文が綺麗なかたちで心に残った。
    少女の犯行動機云々よりもひとりの若き小説家を失ったことが私のなかでは大きかったのかもしれない。



  •  中学三年生の穂村マリアが同級生の遠野美月に刺殺されたる事件が発生したことを発端に、ストーリーが展開していく…。遠野美月は、シルバーフィッシュ文学賞に落選したことを動機としてあげ、自らの作品をネット上に公開する…。シルバーフィッシュ文学賞に選ばれたのは、青村信吾の「プラスチックスカイ」だったが、遠野美月の作品と比較され、青村信吾は思い悩む…。そんな青村信吾の担当編集者の小谷莉子と、遠野美月を担当する篤志面接委員(少年院などの矯正施設に収容されている者の更生と社会復帰を手助けする民間ボランティア)の白石結実子…2人の視点からこの事件の真相を描く…。

     真犯人が明かされるなどの展開があるわけではなく、遠野美月が同級生を刺殺したことは揺るがない事実です。だけど、本当の動機が明かされるとき、えっ?そうだったの??という、展開が待っていました!家族の愛を感じさせるストーリーでしたが、このあとの登場人物がどんな生き方をしていくのかが気になってしまいます。

     小林由香さんの作品は「チグリジアの雨」「救いの森」を読んでこの作品は3冊目の読了です。今まで一番良かったのは「チグリジアの雨」でしたねぇ…!他の作品も、いつか、読みたいと思ってます(*^-^*)

  • 小林由香作品、7冊目。ジャッジメントの衝撃から嵌っています。15歳の少女は新人文学賞の最終選考で落選し同級生を刺殺した。理由は被害者に虐められていたから。皮肉なことにその新人文学賞を受賞した作家が自殺。その理由は、殺人の加害者ではなく、自分が新人賞を受賞してしまったから、あの悲劇が起きたと考えてしまう。新人文学賞を企画する出版社の女性社員、少年院で加害者とかかわる篤志面接委員が見事にリンクした!何が起きたかわからなかったが、さすが小林作品、ただじゃ終わらない。関係者の再生の物語としては最高級だと思った。⑤

  • 終盤はぐっと深みを増す一冊。

    自分のせいなのか…。死という取り返しのつかない自責の念に駆られた大人と同級生を殺めた加害者少女との向き合いを描いた物語。

    少女に翻弄されつつも向き合う篤志面接委員。

    会話というレンズを通してお互いの深部を写し出していくような二人の姿は時に強く時に怖く心を揺さぶってきた。

    終盤、とある驚きを盛り込むことでこれまでの時間、人物にぐっと深みが増すのが良い。

    喪ったものは還らない。でも向き合う大切さ、そして真剣に向き合ってくれる人の眼差し、そこに気づいた瞬間が再生の物語の始まりなんだなと思う。

  • 中3の女の子が同級生を殺した。
    小説の新人賞に応募したのに落選したから殺した。
    殺された子が同級生をいじめていたから殺した。
    自分がいじめられていたから殺した。
    二転三転する犯行動機。
    そして「自分の本当の動機を見つけて欲しい」そういう彼女の真意はどこにあるのか。

    一筋縄ではいかない、思春期の難しい感情がうまく書いてあるように感じた。大人びているようで、でも自分の犯した罪は、ただ目の前の殺人だけであるとしか気付けない。
    主人公の強引なやり方で、彼女は自らの罪に向き合うようになれたのだろうか?!
    その時、父親はどうしていたのか?なんとなくもやもやしたものは残るが、いちおう前向きな終わりかたではあったのが救い。


  • 加害者は犯した罪を悔やみ反省するのか。
    間接的に起こった事実を知ったとき、
    身勝手な動機や嘘をどう捉え、そこから
    反省は生じ更生できるのか。


    人は大切な人や身近な人を失ったとき、
    何かできたのではないかという後悔の念を
    抱え苦しみながらも、絶望から立ち直り、
    再び生きようとする瞬間までの葛藤の物語。

    ーーーーー
    胸に大きな後悔を抱えながら、
    篤志面接委員として少女の更生に携わる
    元教師の白石結実子。

    担当作家の自死をきっかけに心を塞ぎ、
    生きる意味を見失った元編集者の小谷莉子。

    結実子は大人びた加害者との面談を重ね
    翻弄されながらも、遂に不可解だった
    動機の真相に辿り着く。

  • なめらかに、感情の機微を綴ってゆく。
    だから私は小林由佳さんの文章が好きなんだなぁ、、
    私もいつか、自分の見ている風景をこんな風に記してみたいな。

    『僕らが変わるってことは世界を変えるということとほとんど同じなんだよ』
    ....彼の言葉を大切にしたい。

  • 初読みの作家様。前情報なし、書店で帯を読んで、立ち読みして購入した一冊。

    とにかく先が気になって面白くて一気読み!

    帯から社会派っぽく感じて勝手に気負って入ったのと15歳だけど面会時の加害者の雰囲気からすると「犯行動機」がちょっと軽く感じたかな。あとは一気読みしすぎて違和感にさほど気付けずに終盤の展開には唖然でした。

  • 219ページで「ハァ〜なるほどね〜!?」って声出しちゃった。
    直前の面談で青村が亡くなったときの姿を見た描写があったから莉子=白石なのは頭にあって、そこをどう辻褄合わせるんだろうと思ってたけどハァ〜なるほどね〜!?
    ビリー・ミリガンの喩えは中二病表現じゃなくて伏線だったのか…違う人格どころかそもそも人間が違いましたってオチ…

    いやトリック自体はいいのに双子の絆があまりにも唐突すぎてちょっとついていけないのがもったいない。
    もうちょい、双子であることはぼかして姉妹への思い入れについての描写があればよかったんだけどなー。

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著者プロフィール

1976年長野県生まれ。11年「ジャッジメント」で第33回小説推理新人賞を受賞。2016年、同作で単行本デビュー。他の著書に『罪人が祈るとき』『救いの森』がある。

「2020年 『イノセンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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