定食屋「雑」

著者 :
  • 双葉社
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感想 : 43
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575247275

感想・レビュー・書評

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  • 原田ひ香さん17冊目。本、食べ物・喫茶店、お金の話、など守備範囲が本当に広い。今回は町の年季の入った定食屋「雑」が舞台。味のある店主ぞうさんと離婚問題を抱えた沙也加、「雑」の常連客高津などを中心に話が進んでいく。町の定食屋の日常と、登場人物それぞれの人生が交差していくような話。コロナ禍が始まりそれに苦しむ飲食店の様子も改めて思い起こした。

    ぞうさんの味のある人柄はこれまで読んだ原田さんの作品の中の図書館長やホテル経営者の女性を彷彿とさせ、沙也加の淡々とした性格は『ランチ酒』の主人公を思い出させた。

    時代とともに定食屋を守ってきたぞうさんの強さと人には見せない脆さや淋しさ(自身の実家での冷淡な扱いは読んでいて辛かった)、離婚で傷ついているが淡々と前に進むように見える沙也加、病気をしたり家族と一悶着あった高津。人生は思い通りにも一筋縄にもいかない様子が描かれているが、同時に皆、なるようになり、収まるところに収まっていた。どんな状況でも美味しい料理は変わらず存在するのだなぁと、人生の苦味も素晴らしさも含んだ深みのあるお話だった。

  • 相変わらず美味しそうに描写される食べ物たち。特にスパゲッティサラダが食べたくなった。

    みんなそれぞれ悩みや嫌なことはあってきれいに解決するわけではないけど、それと同時に笑えることや希望もある。少しでも長く「雑」が続いてくれればいいなと希望が見えるラストだった。

    それにしても、甘い味付けは結局どうなったのか、気になる!

  • 心が離れていった夫が安らぎを覚えた定食屋の名前が、「雑」。
    妻が偵察に行ってみると、ホッとするおふくろの味かと思いきや、すべてが市販のタレの味だった、、、という予想外の展開だった。
    登場人物が、みんないい人ではなく、現実にいそうな人ばかり、飛び交う本音が共感できる物語だった。

  • 原田ひ香さんのグルメもの、お馴染みだなと思いながらも何だか惹かれるものを感じ、購入した。何となく筋は読めるかな…なんて思ってごめんなさい、そんな単純な訳がなかった!年配の無愛想な女性「ぞうさん」が営む年期の入った定食屋「雑」。丁寧な暮らし振りがちょっと鼻につく沙也加、旦那の浮気を疑う彼女が偵察のため「雑」を訪れ、定食を頼むとその味付けに「甘い」と絶句。フード描写が絶品の原田作品でまさかその反応とは意表を突かれるが、そこはあくまでも序章。読み進めるほどにこの味のある定食屋「雑」の魅力にとりつかれ、自分も常連気分でその味を楽しんでいる気持ちになる。
    一話目ではちょっとこだわりが強すぎだなと感じた沙也加だけど、「雑」で働くこととなり、どんどん価値観が変わっていく。ぞうさんとのコンビネーションもまたよい。沙也加の夫婦関係、ぞうさんの過去など、これぞ原田作品というほろ苦い描写も印象的。一気読みしちゃいました。ちょっと気持ちが落ち込み気味のときに、いい作品だ。「居場所」となり得るお店の存在って、本当に大切だよなと実感する。

  • さら〜っと読了。
    定食屋の店主みさえとアルバイトの沙也加が最初は警戒していたのが段々と信頼して励まし合っていく。雑の甘辛い味付け、絶対に好きな味だわ。コロッケが美味しそう。本当に手間がかかる割にカースト低めなんだよね、コロッケって。
    やっぱり、コロナ禍を書きたくなるんだね。飲食店が1番影響を受けてたよな〜と思い出しながら。
    もう、あんな経験したくない。

  • 原田さんのご飯モノ小説。小さな定食屋さんの経営者とバイト女性、集う客とのありきたりの日常をリアルに描いていて、時に切なくなる。
    コロナ時の飲食店の辛さもキッチリ書いていて、今更ながら○○警察の怖さを実感した。

  • 期待より遥かに良かった。
    「コロッケ」「トンカツ」「から揚げ」
    「ハムカツ」「カレー」「握り飯」
    6話収録の連作短編集だが長編小説のような味わい。

    料理の描写もさることながら、本作では登場人物の心理描写が秀逸。

    突然、夫から離婚を切り出された主人公・沙也加が、偵察を目的に働き始めた定食屋「雑」での様子が逐一目に浮かぶ。

    沙也加、店主のぞうさん、常連客の高津さん、様々な事情を抱えながらも、皆が懸命に生きている。

    『遠くの親類より近くの他人』とは良く言ったもので、情の深さに目頭が熱くなった。

    最終話とエピローグがとても好き。

  • ある日突然夫に離婚を切り出された沙也加と、その夫が通っていた定食屋の主人ぞうさん。
    2人が出会うことで、それぞれに影響しあい、少しずつ人生や気持ちが変わっていく様がとても良かった。
    1話1話は長くなく、読みやすい。
    ぞうさんと沙也加の関係性が好きだし、ずっと読んでいたかった。

    それぞれの人物がとても丁寧に描かれていて、いつのまにか感情移入して泣いてしまった。
    1人でじっくり読むのにおすすめ。
    やさしく、でもそっと背中を押してくれるような作品でした。

  • 原田ひ香さんのグルメもの、間違いない。しかも定食屋の名前が「雑」!
    なんとも美味しそうな装丁にも惹かれた。

    夫との離婚はどちらが悪い訳でなく、価値観の違い。生まれ育った環境が違うので、価値観も違うのは当たり前。しかし、沙也加はこだわりが強く、夫の習慣や価値観を受け入れることができない。
    食以外にも離婚の要因はたくさんあったのだろうなと思ってしまった。

    この離婚危機をきっかけに沙也加は定食屋「雑」で働きだし、ぞうさんと出会う。
    一緒に働いていく中で、沙也加は色々な人や考え方、価値観があることを受け入れ、前に進むことができるようになる。
    沙也加とぞうさんの程よい距離感や関係性がすごくいい。

    料理もすべておいしそう。
    みんなそれぞれに悩みや不安を抱え生きている。ぞうさんのごはんはそんな人々に優しく染み渡り、生きる活力をくれる。

    とても温かいお話。

  • この方の話は、
    何だか胸がざわざわする人間関係を描かれている。
    上品かというとそうではない。
    単に良かったねーで終わらない。
    でも、不幸ってわけでもない。

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著者プロフィール

1970年神奈川県生まれ。2005年『リトルプリンセス2号』で、第34回「NHK創作ラジオドラマ大賞」を受賞。07年『はじまらないティータイム』で、第31回「すばる文学賞」受賞。他の著書に、『母親ウエスタン』『復讐屋成海慶介の事件簿』『ラジオ・ガガガ』『幸福レシピ』『一橋桐子(76)の犯罪日記』『ランチ酒』「三人屋」シリーズ等がある。

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