破滅の王 (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575522815

作品紹介・あらすじ

1943年、魔都・上海。ひとりの科学者の絶望が産みだした治療法皆無の細菌兵器。その論文は分割され、英・仏・独・米・日の大使館に届けられた。手を取り合わなければ、人類に待っているのは、破滅。世界大戦のさなかに突きつけられた究極の選択に、答えはでるのか? 第159回直木賞候補作

感想・レビュー・書評

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  • 破滅の王
    すごい作品でした。
    静かに、だが圧倒的な力で
    迫りくる作品に
    ただただ声をあげるしかできません。

     最初から最後まで
    一字一句に込められた力、表現力、また文章の美しさを堪能できる
    これほどまでの作品に出会えたことを嬉しく思います。

     

     夫の積読が気になり、予備知識なく読み始めて
    惹かれた理由に納得。
    子どもの頃に父の本棚に隠すようにあった731部隊の書物を夢中で読んだ頃が甦り、
    幼い日に戻るように今回も夢中で
    そして決して読み逃すまいと読み進めていました。

     

     おそらく、今後の読書生活の中でも間違いなく上位に入る作品です。

     ☆5ではなく☆10をつけます。

     

     

  • 戦時下の上海、そして満州を舞台に繰り広げられる、細菌兵器を巡る熾烈な攻防。

    生物兵器として密かに開発された細菌R2v(暗号名キング)は、バクテリアを食う新種のバクテリア。中でも毒性が強い「K」株は治療薬もワクチンもない未完成の生物兵器、いわば「破滅の王」。命じられて人体実験に従事し、人類にすっかり絶望して軍を離れた真須木一郎は、密かにR2vを開発。R2vを世にばら蒔いて人類に試練を与えようと企む。人類が争いを止め一致団結して細菌と闘って打ち勝つもよし、お互いの争いを止められず治療法の開発に失敗して滅びるもよし、と。

    R2vの危険性を察知した陸軍の秘密組織・沖永機関の灰塚少佐と上海自然科学研究所の細菌研究者・宮本敏明は、自らの命を顧みず危険に身をさらして、R2vの正体を探り、菌株の行方を追い、散布計画を防ぎ、この世からR2vを消滅させようと奔走する。

    兵器開発と研究者の良心、新兵器の人道問題、人体実験、戦争と研究者の無力。重たいテーマを扱った歴史フィクション。読み応えはあったが…。

    そう言えば、灰塚にしろ宮本にしろ、六川、嵯峨、新城、邑、早崎にしろ、理想を掲げ、利他の精神に溢れた立派な人物ばかり。真須木だって心は歪んでしまったが、決して利己主義ではない。本作には、金や欲に目が眩んだ俗物は意外と出てこないな。

    著者の戦時上海・三部作はあと「ヘーゼルの密書」。少し軽めの作品だといいんだけどな。

  • 評価は文句なしの星5「以上」。
    なぜ星が5つまでしかないのか!と
    理不尽に怒ってしまうほどの作品です。

    山﨑豊子さん、高村薫さんを彷彿させ、
    いやそれ以上かと思わせてくれる
    戦時中の闇を描いた超大作と言えよう。

    膨大な資料と取材を元に描き出した
    人間たちのドラマは作者の魂の叫びか
    魂を削るかのような圧倒的な力を宿し
    作品の中に凝縮されている。

    とはいえ、これは読む人を選ぶ作品だな
    というのもまたしかり。
    日本の歴史観も影響するし、
    エンタメが好まれる昨今の風潮、
    戦争を想像できない世代との意識格差など、
    これは万人には理解できないなぁと。

    でも、である。
    省略の美学とも言える
    淡々とした文章なのに
    ここまで人の感情を深く描けるのかと。
    美辞麗句で飾った文章、
    修飾し過ぎることで
    深い感情を描いていると勘違いしている文章が
    いかに世間に溢れているかを
    自分自身も改めて認識させられた。

    あーー、書きたいことがたくさんあり過ぎる。
    それくらい凄い作品だった。

    最後に、少しだけ内容の感想を…。
    自ら選んだ道を、時代や、他人の責任にしない。
    そして、自分の存在を許してくれる人が
    1人でもいるなら、私たちは生きていて良いのだ。
    戦時中だろうが、現代であろうが
    人間の本質は変わらないのだなと。
    さらに、考えることを辞めた時点で
    人は人でなくなるのだなと。

    これだけの本にこの後、どれくらいの冊数を
    読破したら出会えるのか、想像したら
    ちょっとぐったりしてしまったので
    感想もこの辺で笑

  • フォローしている方の評価が高いので、読んでみましたが、とにかく難しかったです。
    様々な用語が飛び交ってて、読み終えるのに時間を用しました。
    早くこれをサラッと読みこなせるようになりたいものです。

  • SF作家の上田さんが「戦争と科学」をテーマに掲げて挑んだ歴史長編。「上海灯蛾」が出たばかりの上海租界三部作の第1弾で、直木賞候補にもなった。冒頭で731部隊が絡む話だと分かるが、前振りがちょっと長い。細菌兵器をめぐる諜報戦が展開される中盤以降も派手さはなく、ノンフィクションを読んでいるようだった。でも戦争小説はそれでいい。

  • 『上海灯蛾』が面白かったので、上海三部作と言われる第一作目を読んでみたけど、『上海灯蛾』よりずいぶん読みにくかった。主要な人物のエピソードをもっと掘り下げて読みたかった。

  • いや。これ、どこまでフィクションよ?
    と、読了後、背筋がひんやりした……。

    表題だとか、オビの魔都・上海だとか、最終兵器だとか、割と気軽な気持ちで読み始めたら……731部隊登場!出た、石井四郎!

    硬めの語り口もあって、これ、ドキュメンタリーなんじゃないの、ノンフィクションなんじゃないの、とブツブツ唸っていたのでした。

    R2v(キング)と呼ばれる、解毒不能の細菌兵器。
    解毒株が完成すれば、それは兵器として「使える」ことになるという逆説。
    そして、解毒の情報をバラバラにして各国に送り、キングをばら撒くことで、各国は手を取り合って情報を統合するしかなくなる。つまり、平和がもたらされるというアンチテーゼ。

    これだけでも、すごいんだけど。

    どうせ拷問で殺されるなら、人体実験に利用して何が悪いんだとか。
    爆弾だって科学の産物なんだから、生体兵器が何故兵器として認められないんだとか。

    主人公・宮本とキングの生み手・真須木を通して、戦争に直面した科学者(医師)は、自分たちの職分をどのように考えているかという、立ち位置の違いが印象に残る。

    そして、実際に石井四郎が裁かれなかった世界が、現実に存在するじゃないか。
    だから、この話は単なるフィクションと片付けられない、嫌な後味が残る。

    上田早夕里さんの小説を初めて読んだけれど、舞台の作り方が上手く、中盤に入ってキングが登場する辺りから一気に読めた。
    その分、序盤がもたついたのと、終盤にもっとページを割いて欲しかったように思う。

  • 生態系の頂点に立った人類にとって、最大の敵は細菌、ウイルス。

    これを兵器として開発するという愚かさ、実現しない理由は「兵器として実用するためには治療方法を確立して秘密にしておかなければならない」ということ。
    実はこれがものすごく経済的に負担がかかるから、というのが文中にも描かれている。

    これまで、旧日本軍731部隊などのドキュメントがあっても、正直、よくわからない恐ろしさがまとわりついている感じだった。
    ところが、2020年のコロナウイルスで世界は「パンデミック」を経験した。
    これで、もう、脅威は目の前に直接イメージされた。

    物語の舞台となったのは、満州事変から太平洋戦争終戦までの上海など中国大陸はまさに激動の大舞台。日本人として、また科学者として大陸で最近の研究をするものも無関係ではいられなくなる。

    究極の細菌兵器「キング」、その開発者は日本人研究者。
    敵も味方も見境なく、文字通り“死滅”する、なぜ、そんなものを「兵器」として使うのか?

    人としての葛藤、弱さはもうあたりまえの状況で、何を選択すれば正しい道なのかもわからない。

    最終的に、科学者の開発した「原子力」が日本を終戦に追い込む。
    この力もいまだにコントロールできているとは言い難い。
    なぜなら、それを使っているのは「破滅の王」たる人類自身であるから……。

  • 読んでいて、同作者の「華竜の宮」、「深紅の碑文」と遠藤周作の「海と毒薬」が、脳裏をかすめた。激化する日中戦争。上海を主な舞台に。<キング>とよばれる未知の細菌をめぐる人間たちのドラマ。医学とは、科学者とは、戦争とは。それらを問うている。

  • 時代背景が、絶妙。第二次大戦終結前後の上海、国籍、肩書を超えた信条のぶつかり合い。キャラクターが魅力的で、つい前のめりで読んでしまう。著者の著作は、色々読んでるが、どの著作のキャラも魅力的だ。次は何読もう?

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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