モリのアサガオ 7―新人刑務官と或る死刑囚の物語 (アクションコミックス)

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  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575833751

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  • 2010年8月、東京・小菅の東京拘置所の刑場が、報道機関に初公開された。

    森達也は著書『死刑』の中で、死刑制度を書き明かそうとして、
    制度を巡る渦の中心近くにいる
    様々な立場の人々への取材を行っている。
    死刑囚、被害者遺族、廃止派、存置派、国会議員、
    刑務官、教誨師、元裁判官、元検事、弁護士。

    その森が最初に選んだ取材対象者、それが、
    『モリのアサガオ』の著書・郷田マモラだ。

       死刑というこの巨大な迷路を前にして、
       いったいどこから手をつければいいのか見当がつかない。
       (中略)
       結果として、漫画という角度から死刑の取材を始めるという
       鈴木(*担当編集者)のアイディアに、僕は二つ返事で乗った。
       いや、正確に書こう。すがった。   (森達也『死刑』 第一章 迷宮への入口)

    存置派・廃止派のどちらだ?と森から問われた郷田は、
    『敢えて言うのなら、死刑は必要だと考える。ほんの数ミリ、賛成側』と応えている。

    彼を賛成派たらしめるのは、2つの想いのようだ。
    ①最大限に優先すべきは被害者遺族の感情
    ②死刑囚が、反省と人間性を得てから、刑に処されることは、
      被害者遺族/死刑囚/被害者当人にとって是である。救済である。

    これらの心性は作中にも影響している。
    特に、主人公の刑務官・及川直輝が物語の終わりに出す、
    「存置すべきか、廃止すべきか」との問いへの結論に。
    (森達也はこれを、「美文に逃げたとしか思えない」と論断している)

    ①については、揺れるところもあるが、おおむね賛同・共鳴できる。
    ただ、②については、どうしても違和感が拭えない。

    モリのアサガオに登場する死刑囚たちは、
    準主役の渡瀬を除いて、まるで、
    悪人/善人という両極端な2つのスイッチしか持っていないように
    描写されている回が散見される。

    主人公・及川を挽きつけてやまない、死刑囚・渡瀬というキャラクターを
    ミステリアスで魅力的な人物として際立たせるために、
    敢えてそうされている部分もあるのかもしれない。

    では、及川(≒郷田マモラ)の言う、『反省』って何だ?
    悪人から善人にスイッチが切り替わったことを、誰が何をもってどう判断する?

    この部分が、物語を完結させるために、故意に看過され、
    論考の網から逃がされている印象を受ける。

    ---

    とは言え、やはり郷田マモラ氏が
    凄い仕事をやってのけたことに変わりは無い。

    まず、死刑制度を少しでも齧ると出てくる様々な仮定話
    (「○○だったらどうだろう」「XXな場合はどうだろう」)が
    漫画という枠組の中で、巧妙なファンタジーとしてシミュレートされている。

    例えば、現行の死刑制度では、
    死刑囚に自身の処刑が知らされるのは、執行の数時間前。
    自殺をする隙を与えないための措置であるが、
    これでは家族に別れを告げることも出来ない。
    主人公・及川は、服務規程違反を犯しながら、
    処刑が間近に迫った死刑囚の娘に接触し、執行目前に面会を果たさせる。
    「死刑の言い渡しが、数日前だったらどうなる?」というファンタジーだ。

    次に、刑場や死刑囚の暮らしぶりの鮮明な描写。
    郷田が死刑制度を『深い森』と称し、
    森達也が死刑囚を『箱の中のシュレディンガーの猫』と称したことからも
    伺いしれるとおり、死刑はあまりにも不可視にされている領域が大きい。
    東京拘置所の刑場公開は極めて画期的な出来事だ。
    そのような制約がある中で、この精緻な描きっぷりには感服を覚える。

    そして、死刑というメインテーマを少し除けてみたとしても
    マンガがマンガたる故の魅力的なシーンがそこここに存在している。
    2巻末の及川と渡瀬の『キャッチボール』の場面。とても映画的だ。

    ---

    理不尽と矛盾と不可解と匿名性が渦を巻く、
    深淵の奥にひっそりと、しかし確実に存在している死刑。

    そこに分け入ろうとするなど、とてつもない勇気なんじゃないだろうか。
    私ならその入口に立つことを考えただけで心が挫けてしまうのだが。

    主人公の姿は、著者の投影であると一概には言えない。
    しかし、及川の清々しく意思的な言葉には、
    著者に拍手を送りたいような気分にさせるものがある。

    【僕にはあなたが分からない…理解できないから知りたいんです!】

  • たくさん泣いた。でも、わたしの中での死刑の是非は定まらないままだ。もう、定まらないのかもしれないなぁ。

  • 「ぼくがキミを守ってあげる」
    満を飽き締める直樹の言葉が、愛の告白以外のなんだろうか。
    好きだとか、愛してるは、自分の感情を相手に伝える言葉だ。
    相手の意思は入らない。
    守ってあげるとは、相手を丸ごと認め、受け止めると言う言葉じゃないだろうか。
    恋愛を飛び越えて、直樹と満は魂で結びついている。
    復讐心に取り憑かれ、悪鬼と化して仇討殺人を犯し、
    死刑囚となった満が、人生の最後に、直樹と濃密な時間を過せたのは、
    不幸だった分、死を前提とした短い期間でも
    本当に幸福だったんじゃなかろうか。

  • 作者なりの明確な結論・主張というより
    制度に対する提示。

    <blockquote>『モリのアサガオ』は2004年4月から2007年4月まで漫画アクションに連載された郷田マモラの漫画作品。単行本は全7巻(双葉社発行)。死刑制度がテーマで、刑務官や死刑囚、被害者家族などの心の交流や葛藤が、綿密な取材に基づき描かれている。
    平成19年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞[1]。
    生野慈朗監督、ギャガ・コミュニケーションズ配給による映画化が決定している[2]。</blockquote>

  • 死刑に対する私の考えは結局決められない。
    ついに明らかになった渡瀬の真実。贖罪の気持ち、死への恐怖・・・やはり彼はかっこいい。

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