- Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
- / ISBN・EAN: 9784577023440
感想・レビュー・書評
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定期的に観なおしたい映画というのがあって、「麻雀放浪記」もそのひとつ。
先週たまたまそういう日があって、同じ日に読んだのが「本に恋して」だった。
そんなわけで、勝手にご縁を感じた和田誠さん。
今度は書評集である。全54篇。
ひとつずつにご本人のイラスト入り。やや厚手の紙に一頁丸ごと使って描かれている。
装幀をしたり挿絵を描いたりという、仕事上関わった本は一冊も載せていないという。
それは「仕事で初めて読んだのと、最初から虚心に読んだのとでは感銘の質が違うような気がするから」ということだ。
「ぼくが面白がった物語は、挿絵を描きたくなった物語だということもできそうである」
そんなイラストの魅力もあって、全体にほのぼのとしたノスタルジーが漂う。
採りあげた本のせいもあるかな。
「かちかち山」「西遊記」「アリババと四十人の盗賊」「古事記」「魔法の杖」「ライオンのめがね」「豹(ジャガー)の眼」「火星兵団」「ほら吹き男爵の冒険」「クマのプーさん」「ビルマの竪琴」「宝島」「トム・ソーヤーの冒険」「神州天馬狭」「月夜のでんしんばしら」「杜子春」「813」「黄金虫」「緋色の研究」「夢十夜」「そして誰もいなくなった」「ドルリイ・レーン最後の事件」「点と線」「雨月物語」。。。
タイトルだけで懐かしい。たぶん皆さんのおうちの本棚にもあったんじゃないかな。
どれも優しい語り口で[これ面白かったんだよ]と、親しげに話しかけられているかのよう。
子供の頃読んだ時の感じ方と、今読み返してみた時の感想の違いが面白い。
記憶違いもあれば、発見もある。
一冊の思い出が他の本にも及び「あ、それは知らないわ」ということもある。
ページ下部の索引で、ずいぶん参考にさせてもらうことになった。
「麻雀放浪記」は48番目に登場する。ここはさすがに心拍数が少し上がる・笑
著者の阿佐田さんは「映画にも舞台にもならない小説を書いたつもり」だと言われたらしいが、映画化の話は何度も来たそうだ。
それでも断り続けたのは、みな時代設定を現代に変えるからだと言う。
セットを作るのはお金がかかる。現代版にすれば楽だからだ。
これは知らなかった。戦後すぐという、あの設定が面白いのに。
和田さんが監督デビューを果たしたのは、時代設定を変えないという約束での撮影許可だったらしい。ありがとう和田さん、今更にして感謝。
阿佐田哲也さんが、その本名「色川武大」で書いた「私の旧訳聖書」を読んでみたい。
物語の旅という、このタイトルもいい。旅するように読み返しその都度自分を見つめ直す。
本の力というのは、そんなことも可能にする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
自分によく似た読書傾向のある友だちとは話していても楽しい。学生時分には、夜を徹して語り明かしたこともあった。職に就いてからも仕事関係の友人と話はするものの、さすがに、当時のように夢中になって本の話をすることはなくなった。だいいち、みんなどんな本を読んでいるのか、あまりよく知らない。書店には新刊書や雑誌が山と積まれ溢れるほどだが、本を読む楽しみを語る人はあまりいない。本もまた「情報」の一つと考えられているのだろうか。
一方的にこちらだけが知っているだけだから、友だちとは呼べないが、本を読むたびに、「そうなんだよなあ。」と、つい相槌を打ってしまう文章を書く人がいる。和田誠氏である。『物語の旅』は、氏が愛する54冊の本にまつわる思い出やエピソードに書き下ろしの挿絵を添えたもの。読んだ順に書かれているため、おおよその読書傾向がうかがえるのも楽しい。一頁をまるまる使ったカラー挿絵の色を生かすためか、紙質にも注意が払われ大人向きの絵本のようでもある。
映画監督としても評価の高い氏のことだから、当然映画にまつわる話も多い。「快盗ルビイ・マーチンスン」を原作にした映画「快盗ルビイ」を撮っていた頃、同じ原作を芝居にしたので見に来てはくれまいかという手紙をもらったことがあるという。忙しくて行けないので試写の招待状を送ったところ、その人が来てくれた。それが、当時は小劇場通の間でのみ有名だった三谷幸喜氏だったなどというのは「ちょっといい話」である。
本の中でも触れられている瀬戸川猛資氏などの書く物と比べると、和田氏の書く物は博引旁証を誇るでもなく、奇抜な着想をひけらかすのでもない。自分が面白いと思った物を淡々と紹介するだけである。けれど、『お楽しみはこれからだ』でも知られるように、映画の中から名セリフやジーンとくる場面をピックアップする力量は抜群で、それは今回のように物語を語らせても見事に生きている。たとえば、村上春樹の「結婚以来六年の歳月が流れていた。六年の間に三匹の猫を埋葬した」のような表現を彼は好むが、この種の文ははっきりと好みの分かれるタイプの文章である。
チャンドラーの『長いお別れ』の原題は『ロング・グッバイ』であるが、邦題は原題に比べて湿っているという指摘にはうならされた。乾いている方がハードボイルドには合う。ただし、マーロウものは乾いてばかりもいない。特にこの作品の彼はセンチメンタルであると言われると、チャンドラー好きのこちらの性格を指摘されているような気にさせられる。しかし、同じ作品を好む和田誠にもよく似たところがあるのだと分かると、なんだかうれしくなる。
前書きに「個人的なこと」を記すので読書案内にはならないだろうと書かれているが、採り上げられた作品はよく知られた作品ばかり。読書好きの人なら大半は読んでいるはず。多感な時代、人生について深い思索を試みるような類の本に食指が伸びず、ミステリーやSFを読み漁っていた人なら、ほぼよく似た本を挙げるのではなかろうか。それだけに、読書案内にはならないかもしれないが、見てきた後でその映画について話すのが楽しいように、少年時代から読んできた本について作者と話しているような楽しみが味わえる本であるといえるだろう。 -
12.6.9~6.11 井上ひさし参考資料