文化としてのシンフォニ- (1)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582219647

作品紹介・あらすじ

なぜ西洋音楽史は、19世紀のドイツ音楽、しかも器楽曲を中心に、とりわけシンフォニーを頂点として、描かれてきたのだろうか?西洋音楽史記述そのものへの脱構築を迫る新しい音楽文化史論。

感想・レビュー・書評

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  • 「シンフォニーとは何か」を定義から始めて、その成立・発展・意義を前後300年余(本書の副題には「18世紀から」とあるが、実際の記述においてはヴィヴァルディの時代から詳細に扱われていく)に渡って書き起こすという、とてつもない大著。「シンフォニア」や「序曲」、「ドイツ的」なるもの、あるいは「ベートーヴェンという巨人」の存在など、「シンフォニー」というあまりに大きく多分に曖昧なアイコンの周りを茫漠と漂っていたものを明快に分析・総括してみせた、画期的な論考である。
    あくまでも厳密であろうとするがゆえの諸語の定義や「従来の研究の視点はもっぱら○○であったが、私はそれは不適切だと考える。その理由は××である」といった交通整理が延々続く序章はややかったるいし、一部独特のカナ表記(「プァルツ選帝侯」には参った)がスムーズな理解を阻むが、本編は文句なしに、面白くてためになる。白眉はロマン派が本番を迎えるII巻であると思われ、続巻を読むのが楽しみだ。欲を言うなら、ヨーロッパ大陸図を付けてもらえるとありがたかった。

    2016/7/8~7/12読了

  •  オーケストラ・コンサートにおける花形は交響曲である。CDでも交響曲の人気は高い。
     しかし、交響曲とは何かと定義するのとなるとこれは難しい。本書では、ひとまず「大規模作品の一部としてではなくそれ自体が独立・完結した形で、コンサート等においてオーケストラによって演奏される、多楽章の音楽作品」と記されているが、そのような定義をした途端にそこからするりと逃げ去ってしまうのが交響曲である。「多楽章」といった途端、「一楽章の交響曲」なるタイトルの曲をベルント・アロイス・ツィンマーマンが書くし、もっとポピュラーなものならシベリウスの第7番がそうだ。「オーケストラによって」? ダリウス・ミヨーの小交響曲第6番の編成は声楽四重唱とオーボエ・チェロという噴飯もの。そこまでいかなくとも、声楽のはいるベートーヴェンの「合唱」交響曲や、もうほとんど劇音楽といっていいベルリオーズの「ロミオとジュリエット」など、その外延は果てしなく広がっていく。
     そこでかねがね私は「交響曲とは作曲家がそう呼んだものである」という定義を考えていた。リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲や家庭交響曲は交響曲といってもその実体は交響詩である、とよく説明されているが、シュトラウスが交響曲と名付けたのだから交響曲。そうしないと、ドビュッシーの「海」のような多楽章管弦楽曲は交響曲ではないのか、という問題が生じる。
     さて、本書『文化としてのシンフォニー』第1巻は、このような疑問にある程度の回答を与えてくれる。つまり、交響曲という用語の歴史と、交響曲というジャンルの歴史を混同してはいけないということである。
     日本では、ハイドン以降の時代の「交響曲」に対して、それ以前、例えばJ・C・バッハのような交響曲先史は「シンフォニア」と呼び、その起源はオペラの序曲(すなわちシンフォニア)に求められるという説明が人口に膾炙してきた。しかし、イタリアではベートーヴェンだってマーラーだってシンフォニアなわけだし、ドイツならジンフォニー、フランスならサンフォニーである。著者は音楽消費国イギリスのコンサート会場で「シンフォニー」として受け入れられたことから各国語を超えた概念としてこの用語を採用する。
     シンフォニーは宮廷の音楽生活の花形であるオペラに対して、新興階級である市民のコンサートの花形としてイタリアに勃興したとみる。ジャンルとしてのシンフォニーの源流の一人は何とヴィヴァルディ。つまり彼のコンチェルトは宮廷ではなくコンサートで演奏され、とりわけ独奏楽器を伴わない、合奏のためのコンチェルトは同時代のイタリアの作曲家のシンフォニアとそうかわりはないというのである。シンフォニーはフランスに播種し、そしてベートーヴェンにおいて、ドイツの民族主義意識を背景として、音楽でしか表し得ない深い思想を表現する最高の音楽形式という、今日まで生き残る概念が形成されたという。シンフォニーの仮想敵は宮廷のオペラなのであり、ベートーヴェンはその精神性においてロッシーニを打ち破ったとみなされた。かかる経緯を当時の音楽生活、すなわち社会・文化の局面を丹念に追いながら検証していくのが本書の真骨頂である。
     ベートーヴェンの死後、「最高の交響曲」を前にしたリースやシュポアの苦闘も興味深いが、ベートーヴェンとはいささか異なった方向にロマン派の扉を開けていったメンデルスゾーン、シューマンの時代に話が進んで本巻は終わり。ロマン派は第2巻へ。

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著者プロフィール

1948年生れ。西欧音楽史家(音楽社会史)。主要著作:『楽譜の文化史』『オーケストラの社会史』(以上、音楽之友社)、『音楽演奏の社会史--蘇る過去の音楽』(東京書籍)、『文化としてのシンフォニー』全3巻(平凡社)。

「2019年 『ベートーヴェン 完全詳細年譜』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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