増補 洛中洛外の群像 失われた中世京都へ (平凡社ライブラリー せ 4-1)

著者 :
  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582766608

作品紹介・あらすじ

米俵を積んだ馬、橋と中島、松の根元の石…上杉本『洛中洛外図』に描かれた小さな一齣から読者はいつのまにか中世京都の街頭につれ出される。米座と関、伊勢信仰と病、降格させられる神…史料の細部を読み抜く目が、洛中洛外の時代における都市の鮮烈な眺望をひらく。上杉本成立をめぐる卓論「公方の構想」を含み、音や匂い、手触りにいたるまで中世都市の具体を探りあてようとする名著の増補版。

感想・レビュー・書評

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  •  第1部は、上杉本『洛中洛外図』の絵解き。”米俵を積んだ馬”の絵から米場や馬の市の場所を探し、今は失われた五条橋中島から当時のその場所の持った意味を辿り、松の根元に描かれた弁慶石の由縁を文献も参照しつつ追いかける。こうした論考を通して中世京都のイメージが浮かび上がってくる。そして圧巻は「公方の構想」。『京都・一五四七年ー描かれた中世都市』において今谷明氏は、上杉本は1547年の京都を写実によって描いたものであると主張した。これに対し著者は寺や武家屋敷、描かれる年中行事などの図像の細部に注意深く目を配り、絵師が何を描こうとしたかを解き明かす。そしてさらに著者は、屏風絵全体からあるべき政治秩序への志向を読み取り、そうした秩序を構想できる主体は誰であったのかを推理していく。著者の論述は史料に即して丁寧に進められていくので、読者は賛否いずれにせよそのプロセスを著者とともに辿っていくことができる。
     絵画史料からここまで読み解くことができるのかと感動!

     第2部は、ほぼ文献史料を通じての考察。「荘園解体期の京の流通」及び「中世の祇園御霊会」の2編は、それなりの予備知識がないと歯が立たないと思う。そのほかの論考は、お菓子や砂だったり、五条天神が流罪に処せられたなど、意外な、あるいは些細な事象や文言からスタートし、読んでいくうちに思いもしないところへ連れていってもらえる、そんな知的快感を感じさせられるものだった。

     本書は、2023年のライブラリー名著復刊の一冊。今回の復刊の機会に目にすることがなければ、こんな面白い本なのに、おそらく読むことはなかっただろうと思う。新たな出会いの場となるありがたい機会を作っていただき、本当に感謝。

  • いつもなら解説から読むのであるが、最初の「馬二題」を読んでから、あとがき、解説と読む。内山直三氏への手紙がその間に入っていたので、なんとなくあとがき等を読むのがためらわれた。最初から読んで、注をみていたら洛中洛外図について今谷説が成り立たないと書いてあるではないか。すぐに解説をみたのである。その結果、洛中洛外図屏風に関しては、以下の三冊をこの順に読むのがよいと分かる。

    今谷明『京都・一五四七年』平凡社ライブラリー、 2003
    瀬田勝哉『[増補]洛中洛外の群像』平凡社ライブラリー、2009
    黒田日出夫『謎解き 洛中洛外図』岩波書店、1996

    次に解説の横井清氏の勧めに従い、「飢饉と京菓子ーー失われた創業伝説」を読む。亀屋陸奥の話だった。これで分かる読者は通である。私も「松風」をわざわざ、堀川七条の店に買いにいったのだが、由緒書の創業年までは考えが至らなかった。京都に行く折に買い求めたい。

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