おれに聞くの?: 異端文学者による人生相談

著者 :
  • 平凡社
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本棚登録 : 146
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582839258

作品紹介・あらすじ

愛について、小説の書き方について、人間関係について……その悩みはあなたに必要ですか? 視点が反転するような回答が悩みを雲散霧消させる、芥川賞作家による異色人生相談。

感想・レビュー・書評

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  • 人生相談を読むのが好きだが、本書はそもそも人生相談なのか微妙。著者自身もそんなつもりではないと言ってるし。ほとんど「答え」になってないのが結構あり、それどころか何を言っているのか(私には)わからないのもチラホラある。それでも随所にウーンと唸らされるくだりがあって、じっくり読んだ。

    著者は、世に流布する型通りの考え方に縛られて苦悩することの愚を説く。以下は心に残った箇所の抜粋。

    ・「今何をすべきかわからない。若いうちにしておいて良かったことを教えてほしい」という問いかけに対して
    「『今』は『未来』の保険ではないし、つながりもしない。今が未来につながっているように見えるのはそうした『物語』をわたしたちが信じているからです」「その都度好きにすればいいのだとわたしは思います」

    ・「ロシア文学の大作を読みたいが踏ん切りがつかない。背中を押してほしい」という人に対して
    「世間はいつの頃からかとてもやさしくなりましたがそれはただ『波風を立てたくない』ということなのがじっと見ているとよくわかる」(「いちいち人に頼むな」とか言うときつく聞こえるが)「だけどそのことがわたしたちの首をしめている。その程度をきつく感じてしまうわたしたちはしかし『自己責任』などというおそろしい言葉には慣れてしまった。どうでもいいことは手取り足取りやさしい笑顔で親切にしてくれるのにいちばん頼りたいことは『自分でやりな』と死に方さえ教えてもらえず放り出される。死に方は自殺の仕方じゃないです。『死に方』です。生きた人間のすべてが切望しているのはそれのはずなのにそこは自己責任でと戸が閉められるからつまらないインチキに引っかかってしまう」

    ・「文学って何に対して何を与えるものだと考えるか」と質問されて
    「大きな質問というのがあって、たとえば『幸せとはなんですか』とか『人生とは』とか『文学とは』とかそういうやつ。聞いた方は聞いた気になれてこたえる方はこたえたきになれるやつ。文学に何かあるとしたらそうしたものをしなくなる、できなくなるものだとわたしは考えます。誰かのことをよく知れば知るほどその誰かを外に簡単な言葉で語れなくなるように」

    ・恋人から別れを告げられて悶々と悩む人に対して
    「ふられただけだぞしっかりしろ。ふるのに理由なんかない。ふられる理由もない。何をしたとかしてないとか関係ない」「いいやつだからいいというわけではない。その理不尽。人間のダイナミック。感心してあきらめるしかない」

    ・「人見知りな人に話しかけたい。僕の知らないその人を知りたいし、その人の知らないその人を教えてあげたい」という人に対して
    「こういうことって字にして考えることではなくて、実践しかなくて、それは自転車の乗り方のようなもので、だから字にせずやってみるしかないと思います。字にしてると変になる」「『その人の知らないその人を教えてあげたい』これはなんだか偉そうだし余計なお世話だ。読んでるだけで腹が立つけどあなたにもちろん悪気はない。臆病なだけだ。書くから臆病を増長させる。開き直らせる。誰でも字はまあ書けるから言葉も書けるだろうと勘違いしている。書けねえんだから書いて間違えないよう書かずにやるのがいちばんです」

    ・「自分と無関係な他人の怒りに反応してしまってつらい」と言う人に対して
    「そういう人を『やさしい』という。わたしたちは何とも無関係なんてことはないし、驚くべきことに、ありとあらゆるものがわたしたちに関係しているし関係する」「防ぐ方法はないと思います。自分にとって良いか悪いかその都度考えて、良ければ良かったと喜び、悪ければその怒鳴り声のようにしばらく影響を受けるしかない。そのうち飽きる」「それまでは『よい耳と反応のよい脳だ。わたしだ』と堪能してください。敏感な端末は地球の宝です。やさしい人間は知らないうちに(知らないうちですから知ってしまうと話は変わる)誰かを何かをやさしくさせている」

  • 人生相談なのに回答に全然なってないじゃないか?何なんだ?と読み進めて行くうちに回答を繰り出す点みたいなものがだんだん見えてくる。腑に落ちるようになってくる。あるいは腑に落ちないことがそれでよいことになってくる。不思議な本だ。面白かった。

  • 答えをもらったような気もするし、もらってないような気もする。それでも会話は聞けたし、足元にあるような発見をさせてもらえて良かった。

  • いろんな人生相談に答えるQ&Aの形で進められるが、答えがちょっと斜めな感じが良い。相談者がより悩んでしまいそうな答えもあり、面白い考え方の人だなと思う。

  • 面白い。相談者が求めているのと違うレベルの回答をしていて笑ってしまう。基本的に思いやりがあり、ときどきすごく良い回答がある。

  • 山下さんって、なんだか独特の感性があるな。

    人生相談のようだけど、ご本人は質問と捉え、それに対してこう思うと、ストレートに書いている。
    3つの章に別れ、
    1.生きること
    2.書くこと
    3.関わること
    についての質問(相談)があるが、どれも基本簡単な感想。
    相談者が納得しているのかわかりませんが、山下さんの大ファンであれば、何かしらのコメントもらっただけで満足なのかも。

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著者プロフィール

1966年、兵庫県生まれ。富良野塾二期生。96年より劇団FICTIONを主宰。2012年『緑のさる』で野間文芸新人賞を、17年『しんせかい』で芥川賞を受賞。その他の著書に『ギッちょん』『砂漠ダンス』『コルバトントリ』『ルンタ』『鳥の会議』『壁抜けの谷』『ほしのこ』がある。

「2020年 『小鳥、来る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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