みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ? (平凡社新書)

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582859607

作品紹介・あらすじ

民俗学は昔の慣習を伝えるだけのものではない。B級グルメはなぜ生まれたか? などの身近な話題を現代民俗学の視点で掘り下げる。

感想・レビュー・書評

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  • 序章の概説でしっかり眺め渡した上で、第1部以降、知識を現代にアップデートしていく。
    確かに「俗」=ヴァナキュラーと置き換えて理解することで、ぐっと裾野が広がる。
    田舎の昔話だけが対象ではなくなるのだ。
    西日本の事例が多いのも嬉しい。
    岸政彦・編「東京の生活史」も隣接しているのではないか。



    《目次》
    序章 ヴァナキュラーとは〈俗〉である
    1 私と民俗学
    お祈り癖/ごみ収集車の調査/死が怖い/民俗学と出会う/沖縄に行く/韓国で暮らす/日本での研究
    2 民俗学とはどのような学問か?
    民俗学はドイツで生まれた/対覇権主義の学問/日本の民俗学
    3 ヴァナキュラー
    ヴァナキュラーとは?/フォークロアからヴァナキュラーへ/民俗学は現代学

    第1部 身近なヴァナキュラー

    第1章 知られざる「家庭の中のヴァナキュラー」
    お母さんが創り出した化け物/気仙沼の海神様/わが家だけのルール
    靴のおまじない

    第2章 キャンパスのヴァナキュラー
    関学七不思議/キャンパス用語/運動部の曲がり角の挨拶
    「こんにちはです」/目覚ましは「ごみの歌」

    第3章 働く人たちのヴァナキュラー
    1 消防士のヴァナキュラー
    アメリカの消防署/消防うどん/消防めし
    2 トラックドライバーのヴァナキュラー
    トラックドライバーの挨拶/CB無線での会話
    3 鉄道民俗学
    駅の池庭/段四郎大明神/特急「はと」と青葉荘/切符売りおばさん
    4 水道マンのヴァナキュラー
    5 裁判官にもあるヴァナキュラー
    裁判官の口頭伝承/「伝承」と民俗学
    6 OLの抵抗行為

    【コラム①】ヴァナキュラーな時間

    第2部 ローカルとグローバル

    第4章 喫茶店モーニング習慣の謎
    1 日本各地のモーニング
    愛知県豊橋市/名古屋市/愛知県一宮市/大阪府東大阪市/大阪市生野区
    大阪市西区/兵庫県尼崎市/神戸市長田区/広島市中区/愛媛県松山市
    2 アジアの「モーニング」
    香港は飲茶/ベトナムはフォーやソイ/プノンペンはかゆ
    バンコクはいつも外食/シンガポールのセルフカフェ
    3 モーニングをめぐる考察
    なぜ行われるのか?/日本での分布/モーニングの歴史
    アジアの中のモーニング/「ヴァナキュラーな公共圏」 としてのモーニング

    第5章 B級グルメはどこから来たか?
    引揚者の円盤餃子/じゃじゃ麵/別府冷麵/遠野のジンギスカン
    芦別のガタタン/室蘭のやきとり/みそ焼きうどん/モーレツ紅茶
    【コラム②】なぜ大晦日の夜に「おせち料理」を食べるのか?

    第6章 水の上で暮らす人びと
    香港の水上レストラン/家船の暮らし/行商船と運搬船/家船の陸上がり
    艀乗りからバスの運転手へ/かき船/かき船の陸上がり/ロンドンの運河と水上生活者

    第7章 宗教的ヴァナキュラー
    1 パワーストーンとパワースポット
    パワーストーンを信じるか?/個人的パワースポット
    2 フォークロレスクとオステンション
    ぼんぼり祭り/肘神様/アマビエ・ブーム
    3 グローバル・ヴァナキュラーとしてのイナリ信仰

    【コラム③】現代の「座敷わらし」
    【コラム④】初詣で並ぶ必要はあるのか?

    おわりに
    次に何を読んだらよいか/民俗学を大学・大学院で学ぶには/地域で民俗学を学びたい場合

  • 現代の民俗学“ヴァナキュラー”について、発祥の経緯や
    身近な事例を示しながら、説明する内容。
    序章 ヴァナキュラーとは<俗>である
    第1部 身近なヴァナキュラー
     第1章 知られざる「家庭の中のヴァナキュラー」
     第2章 キャンバスのヴァナキュラー
     第3章 働く人たちのヴァナキュラー
    第2部 ローカルとグローバル
     第4章 喫茶店モーニング習慣の謎
     第5章 B級グルメはどこから来たか?
     第6章 水の上で暮らす人びと
     第7章 宗教的ヴァナキュラー
    おわりに・・・更に学びたい人への、本や学校等の紹介有り。
    コラム有り。巻末に注有り。
    現代の民俗学“ヴァナキュラー”とは?
    あちこちに存在する身近なコトの研究を民俗学と捉える。
    ある集団の人々の生活に深く関連した文化と、その文化の根底に
    ねざしている固有の伝統様式をさす。なんか難しそう・・・。
    でも事例を読むと、なんか納得でわかりやすい。
    こういう事がヴァナキュラーの研究対象なのか~。
    集団・・・家庭・学校・職業・地域にある習慣や七不思議、
    あるある的もあるが、それらには理由や歴史が存在し、
    内部の者の共存への要素にもなります。
    と、同時に内部と外部の繋がりになることもあります。
    家庭での海神様が地域の行事になってしまったこと、
    消防うどんが地域のイベントに登場など。
    食のヴァナキュラーでは喫茶店モーニング、B級グルメなど。
    かつて日本にあった水上生活の歴史と事情、そして衰退。
    宗教的ヴァナキュラーでは、個人的なパワーストーンや
    パワースポット。現代のアマビエ・ブームについても言及。
    そういえば、学校司書として勤務していた小学校では、
    どこも、運動会の後の反省会の席に串団子が供されていましたが、
    これも由来等を調べたら“ヴァナキュラー”に、なるのかな?

  • 民俗学にめちゃくちゃ興味出てきました。実話怪談とフォークロア、ネットロアに興味があるんですが、フォークロアが今はヴァナキュラーという名前になっているのもなるほどでした。自分の家やまわり近所とかだけにあるヴァナキュラー探すのも楽しそうです。うちは危険を先に越えていくというので出掛けるときに包丁を玄関扉に立てかけて跨ぎます。これもヴァナキュラーでしょう。霊柩車が通るときに親指を隠すとかもですよね。そう考えたら色々ありそうで、この本を入り口にしてもっと知りたいと思いました。あとがきに書かれていた本を読んでみたいと思います。ありがとうございました。

  • 民俗学は民について俗の観点から研究する学問。民間伝承(妖怪、伝説など)を研究する学問だと思われがちだけど、実は身近な存在。B級グルメ、アマビエ、学校の七不思議など、実例を挙げて解説してくれる一冊。

    ぼくも民俗学と言えば柳田國男と名が浮かび、民間伝承を研究するものだと思っていたから、読んでその裾野の広さに驚いた。この本ではヴァナキュラー(俗)という言葉を用いて、その先入観を排除しながら話が進む。家庭内や職場などのちょっとしたルールや習慣も民俗学だったりして面白い。

    喫茶店モーニング、B級グルメの由来や意味なども詳しく調査されていて興味深く読めた。アマビエブームについてもその発端から経過がまとめられていて、まさに現在広がっている現象についての実例を目の当たりにできて楽しかった。民俗学は合理的な啓蒙主義の反対にある。だからこそ、人々の営みの本質が映し出されてくるのかなと感じた。ぼくが研究するとしたら、音楽ゲームの文化かなと思った。独特の用語、マナー、連帯感などがあって調べてみたら面白そう。

  • 民俗学と聞くと、たいていは柳田國男氏に
    代表される農村漁村に古くから伝わる民間
    伝承(妖怪、昔話、伝説、祭り、など)を
    思い浮かべる人が多いと思います。

    この本では最初に民俗学を定義しています。
    それは「俗」というものの定義でもありま
    す。

    ①支配的権力になじまないもの
    ②啓蒙主義的な合理性では必ずしも割り切
    れないもの
    ③「普遍」「主流」「中心」とされる立場
    にはなじまないもの
    ④公式的な制度から距離があるもの

    そうしますと多くの物事が民俗学に当ては
    まります。

    例えば「学校の七不思議」です。

    どの学校にも口伝で続くオカルト的な話が
    あると思います。誰もいない深夜の教室か
    らピアノの音が聞こえる、とかですね。

    あれも民俗学の一種と言えるのです。

    他にも部活などで行われているよくわかな
    い伝統やしきたりもそうです。

    そう思うと民俗学とは我々の生活に根ざし
    た学問と言えます。だからこそ「みんなの
    民俗学」なのです。

    またひとつ世界観が広がる一冊です。

  • 民俗学を古くさいイメージから解き放つ、という著者の試みは成功しているだろうと思う。ただその試みに終始した感は否めない。

    構成としても、民俗学を取り巻く現状を述べた序章を除く1〜7章すべてが身の回りの民俗学的事例(=「ヴァナキュラー」)のエピソード的紹介に割かれ、そこから導かれる考察や分析は簡潔なものにとどまる。
    一つ一つの事例が興味深くはあるため読み進める苦労は少ないが、読み終えたところで雑学がいくつか増えたかな、と思えるだけというのが正直な感想である。

    と、読み進める間はここまで述べたような批判的な見方をしていたが、「おわりに」の著者の記述にハッとさせられた。曰く、民俗学は『在野の学問』であり、学会員の多くが非研究者である、誰でも参加可能な学問である、と。
    だとすれば一見冗長に思えた無名の人々の記述(B級グルメ発祥の店の創業秘話、消防士やトラック運転手の仲間内での「あるある」など)は、そこから何か遠大な理論を見つけ出して学術的な議論を深めるための素材というよりは、たまたま民俗学により保存された物語であり、それ自体が鑑賞すべき成果であることにも納得がいく。
    また本書自体も、学問知識の伝達というより、社会のあらゆる人に民俗学の門戸を開く、というただそれだけのメッセージを一貫して発信している本と捉えるのがよいのだろう。

    以上のようなことを思うに、私のように「民俗学的思考」といったいわゆるディシプリンを求めて本書を手に取ると、学ぶべきところの少ない本だったと落胆するかもしれない。ただそれでも、とことん「在野」を突き詰めるという民俗学の気迫を感じさせる、意義ある本だと思う。

  • 民俗学というと、農山漁村に古くから伝わる民間伝承や口頭伝承を研究する学問だと思われていることが多い。
    だが、本書では、現在の民俗学はそのようなものでなく、もっと広くて現実的な世界があると論じる。
    著者によると民俗学の概念は①支配権力になじまない②啓蒙主義的な合理性では割りきれない③「普遍」、「主流」、「中心」とされる立場にはなじまない等の要素を持つ。
    柳田國男の「遠野物語」の冒頭に「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」という言葉が出てくる。著者は、この言葉で「普遍」、「覇権」、「主流」といった立場から啓蒙主義的に「非合理的なもの」として切り捨てられる世界(遠野地方)の存在を「平地人(啓蒙主義的思考のもとで近代化に邁進する都市住民)」に突きつけたと解釈する。
    また、「歴史学が人類の主要な道筋を辿る学問であるのに対して、民俗学は枝道や毛細管のように張りめぐらされた小路を知る学問」という学者の見解も示している。
    序章に示されているこのような概念的な話は、一般人がにわかに理解することは難しい。また、民俗学のキーワードが「フォークロア」(人々の知識)からヴァナキュラー(俗)に交代しつつあることから、本書の中では、その表現が多く使われるが、これももう一つピンとこない。
    著者は、これらについて、読者にできるだけ実感させるよう、第1章以降、現在における事例をたっぷり盛り込んでいる。主なものを書き出すと以下の通り。
    ・現在の家庭にも「新しい靴を昼以降におろすときのおまじない」(午後の野辺送りを忌み嫌うなごり)が残っている
    ・著者の職場である関学大には学生にしか通じない七不思議(キャンパスヴァナキュラー)がある
    ・JR東海道線高槻駅と山崎駅の間にある結核療養所の患者や職員が手を振る行為に食堂車会計課係が手を振って応えた行動が繰り返され拡大した
    ・独自の技を持ったプロの職人集団としての水道マンの暮らしの中から替え歌「水道数え唄」が生まれた
    これら以外にも「喫茶店モーニング」、「B級グルメ」、水上生活者など時代や地域、社会生活の現実の中から生まれたヴァナキュラーがこれでもかと紹介される。
    それらは確かに啓蒙主義的合理性で割りきれない、また、理性的・論理的であることは求められないものばかりである。
    ただ、常人には、興味深い話であるものの、単に文化・風習・生活習慣を面白く紹介している本であるとしか感じられない気もした。関学大の著者が受け持つゼミのフィールドワークは面白そうで一員となり参加したいとも思ったが。



  • <民俗学>
    民族学の入門書は、地方の伝統をカタログ的に並べた本が多い印象がある。「で、民俗学って何なの?」というモヤモヤが解消されないままだったが、おぼろげながら本書の説明で輪郭を掴めたような気がする。
    啓蒙主義に対するカウンターであり、合理性に対する非合理的な営みとして民間に伝承された伝統を再評価する試みのようだ。たしかに合理性だけの社会は味気ないと思う。
    一方で、自分が苦しめられてきた「地域の暗黙の了解」を解明するヒントとして有益な一冊であった。空気を読めない人間にとって、非合理的なものは気づきづらい。

    また、ヴァナキュラーって何なの?という疑問もあったが、従来のフォークロアという言葉が誤解を招くふしもあったということで、刷りこまれたイメージを払拭することが目的ということも分かった。
    現代の民俗学は民間伝承の研究だけではないのだ。

    <アンダーライン>
    ★★★民俗学とは、人間(民)について、<俗>の観点から研究する学問である。ここで<俗>とは、①支配的権力になじまないもの、②啓蒙主義的な合理性では必ずしも割り切れないもの、③「普遍」「主流」「中心」とされる立場にはなじまないもの、④公式的な制度からは距離があるもの、のいずれか、もしくはその組み合わせのことを指す。
    ★啓蒙主義とは、非合理的なものを排除する思想のことである。
    ★民俗学は、覇権主義を相対化、批判する姿勢を強く持った学問である。
    ★★★★★少なくとも一つの共通の要素を共有しているならば、どのような集団であろうと、その集団はフォーク(Folk)である。集団の結合要素は何であろうとかまわない。共通の職業でもあってもよいし、言語または宗教でもよい。そしてこの集団が所有する知識がフォークロアである。
    ★民俗学では、伝統的にこうした「口頭伝承」「民間伝承」を重視してきたが、それは、民俗学が追及しようとする覇権主義的、対啓蒙主義的、対普遍主義的、対主流的、対中心的、対公式的な特性を、そこに多く見い出せると考えたからである。
    ★B級グルメ以前のローカル食は、ヴァナキュラーな性格を持った食である。つまり、①支配的権力になじまない、②啓蒙主義的な合理性では必ずしも割り切れない、③「普遍」「主流」「中心」とされる立場にはなじまない、④公式的な制度からは距離がある、というヴァナキュラーな特性を持った食である。
    ・フォークロレスクとオステンション
    ★(アマビエ)まさか自分の作った消しゴムハンコが信仰の対象となるとは夢にも思わなかった。

  • 民俗学とは何かをやさしく解説した本。古い習慣や伝説だけでなく、新しいものや都会的なものでも、色々な「俗=ヴァナキュラー」が研究対象になる。家庭や学校、職場での身近なヴァナキュラー、喫茶店のモーニングやB級グルメ、パワースポットまで、事例が豊富で分かりやすい。あと遠野物語の「願はくは之を語りて平地人を戦慄せしめよ」という冒頭が紹介されていて、読みたくなった。

  • 民俗学の俗に焦点を当て、ヴァナキュラーという。とても分かりやすい入門書。
    関学キャンパスやモーニング、B級グルメなどあらゆるところにヴァナキュラーがある。身近な例で興味深く面白かった。
    支配権力になじまないもの、啓蒙主義的な合理性でないもの、普遍主流でないもの、公式的な制度から距離があるもの、そういったものの研究は楽しそうだ。

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著者プロフィール

1967年生まれ。関西学院大学社会学部長、教授。専門は、現代民俗学、民俗学理論。著書に、『みんなの民俗学』(平凡社新書、2020年)、『民俗学を生きる』(晃洋書房、2020年)、『〈生きる方法〉の民俗誌』(関西学院大学出版会、2010年)などがある。

「2023年 『クィアの民俗学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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