水族館の文化史―ひと・動物・モノがおりなす魔術的世界

著者 :
  • 勉誠出版
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本棚登録 : 190
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784585222101

作品紹介・あらすじ

ひとが「魚を見ること」にはどんな意味が秘められているのか。
古代の養魚池文化にはじまり、黎明期の水族館のユニークな展示、植民地支配とのかかわり、SF小説や映画の影響、第二次世界大戦中の苦難、展示のストーリー化、さらにはヴァーチャル・リアリティ技術とのハイブリッド化が進む最新の水族館事情など、古今東西の水族館文化を図版とともに概観、ガラスの向こう側にひろがる水の世界へいざなう。
カラー・モノクロ図版を200枚以上掲載!

感想・レビュー・書評

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  • 挿入されている写真たちがカラーで嬉しい。世界の水族館行きたくなる。

    内容としては、古代から現代にかけて、水族への価値観が、畏怖の対象及び鑑賞対象(一枚岩ではない)→支配対象(帝国主義の論理)→テーマパーク化→保護対象(環境問題に関連して)となっていく。

    興味深いのは、筆者が、水族館が人々の求める「物語」に対応して変遷していくと指摘している点。近年、環境保護が叫ばれて、反対派の報告書や告発型ドキュメンタリーが作られ、水族館もそれに対応して、自然保護の拠点として活動するようになっている。しかしながら、反対派が作成したそれらも、かつて水族館が隠そうとした、「物語」をカットして繋ぎ合わせて作った「物語」でもある。そして人々は、よりしっくりくる方の「物語」を求めていくため、水族館が変遷していっている。

    (※過去(特に1970年代)は、人々が海底の姿を映像ドキュメンタリーで見られるようになり、その雄大な自然の「物語」を観たいと思うようになり、水族館もそれに対応して非日常を提供するテーマパークへと変遷してきた経緯も、上記の補足になるだろう。)

    何が真実か分からない中で、「物語」という言葉を用いているのは確かにと思う。様々な事実がある中で、それを繋ぎ合わせて「物語」を作れば、それは「真実」に見えるし、「真実」になりうる。そうした中で人々は、「自分によりしっくりくる物語」を選択して、求めていくのである。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50125479

  • 「水族館」という施設が最初はどこで産まれたのか、どのような経緯でここまで発達してきたのか、詳しく説明された本。

    ページ数も多く、これ一冊でじっくりと水族館の歴史が網羅できる。

    水族館という、捉え方を変えれば「動物の自由を奪う施設」について、考えさせられる記述もある。

    僕は教養本として楽しんだが、水族館という施設をただただ遊ぶ施設として捉えている人には面白く無いかもしれない。

  • 動物園の文化史と比較してやや近代に寄っているのは水族館としてはしょうがないのだろうが、前作と同じような「文化史」という観点ではイマイチな印象を持った一方で、ショービジネスや映画との類似点をしていく現代の部分は意識したことのない視点で非常に面白かった。
    また(当然ながら)学術書になるので、参考文献が豊富なのもうれしい。

  • 世界中の水族館の約8割が日本にあるといいます。
    「海に囲まれた島国なのだから、それはそうでしょ」
    と言う割には、自前でイルカを繁殖することが出来
    ないのは、最近の報道で知られています。

    実は水族館のイルカは捕獲されているのですが、
    それを海外から中止するよう指摘されています。

    一体、日本の水族館とは何なのか。単なるハコモノ
    ではなかろうか?

    などを知りたくて読んだ一冊です。

  • ふむ

  • 水族館が好きな娘のために、だったのが面白くて読んでしまった。異界がインド、納得。バーチャル体験のある時代の実物展示はどうしよう、が結構大変そう。

  • 水族館の歴史変遷、その当時の思想による水族館のコンセプトの変化などがとてもよく分かった。

    出典も書かれており、人文系の思想に基づいており水族館について考えたいならおすすめの本。

    <メモ>
    1章 水族館前史
    2章 19世紀水族館誕生
    3章 日本、アメリカ
    4章 テーマ化、ディズニー化
    5章 近年、未来

    1章
    神秘的な生き物
    養殖池
    →自然の支配(キリスト教的)
    紙の水族館
    →博物学、生物の分類

    2章
    アクアリウムの誕生
    →みられるだけですごい
    →その後、洞窟に作ったりと内装に凝る
    1878年万博
    →異民族、水族は好奇心と優越心の「まなざし」の対象
    →海底二万カイリのせかい、帝国主義や海の植民地化

    3章
    日本の浅草水族館
    →竜宮城をイメージ
    堺水族館
    →帝国主義、台湾のものを展示
    アメリカのマリンスタジオとオセアナリウム(様々な種を同じ水槽で展示)
    →映画のような展示、カット、編集された自然
    →舞台裏を隠す

    4章
    非日常体験=テーマ化
    海の征服、交流、体験
    建築
    →浮上→上陸→沈降

    ディズニーゼーション=経験経済
    「テーマ化」
    物語の適用
    「ハイブリット消費」
    異なる消費の融合(お土産、レストラン)
    「マーチャンダイジング」
    イメージに合う商品の販売促進
    「パフォーマティブ労働」
    従業員がパフォーマンス

    現実が見えてはいけない
    →ガラス世界は相性がいい
    →死は見せられない

    ハイパーリアリティ
    →本物より、本物らしい偽物が備えるリアリティ
    シミュラークル
    →オリジナルに似ているが、オリジナルを超越したもの

    5章
    思想の変化
    大きな物語(=キリスト教、啓蒙主義、資本主義、社会主義、科学技術など)がなくなった
    →自然破壊や幸福の考え方の変化
    →水族館は正統性を失う
    再テーマ化
    →環境や動物を救う立場
    →ショーやJAZAの会員停止

    今後、科学技術と自然のハイブリット
    →ロボット、VR
    →自然のシミュラークル化の加速

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著者プロフィール

1979年兵庫県生まれ。関西大学文学部准教授、関西大学博士(文学)、ドイツ民間伝承研究・西洋文化史、ひとと動物の関係史、主要著作に『動物園の文化史――ひとと動物の5000 年』(単著 勉誠出版 2014年)、『ファウスト伝説――悪魔と魔法の西洋文化史』(単著 文理閣 2009年)、『ドイツ奇人街道』(共著関西大学出版部 2014年)、『グリムと民間伝承――東西民話研究の地平』(編著麻生出版 2013年)。

「2015年 『欧米社会の集団妄想とカルト症候群』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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