チベット文学の新世代 雪を待つ

  • 勉誠出版
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本棚登録 : 62
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784585290858

作品紹介・あらすじ

村長の息子である「ぼく」やんちゃな洟たれ小僧「タルペ」お姉さん肌のしっかりもの「セルドン」化身ラマとなった「ニマ・トンドゥプ」チベットの村で生まれ育った4人の子供たちの成長と挫折、そして再生の物語を描く、新しい世代による現代小説!

感想・レビュー・書評

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  • 文化大革命が終わり時代の変化がひしひしと起こる、チベットのある村を舞台にした長編小説。チベットだからこその歴史や文化を背景に起こる出来事ももちろんあるのだけども、都会に憧れる地方民にはわりとあるある的なエピソードだなと頷きながら読む場面も多かった。「ぼく」を語り手に4人の幼馴染の人生が描かれる。前編・後編の二部構成で、前編は6歳から13歳までの子ども時代、後編は20代後半の大人時代で、物語が語られる。4人のうち3人は村を出て、1人は村に残る。村という閉鎖的な社会環境の不自由さと同時に、村だからこその親密でゆったりした時間もまた正確でありながら情緒的に描かれている。前編ではそれが徐々に変化する最中を描き、後編ではそれはもう失われてしまった(かもしれない)ものとして描かれる。家族を残し村を出た罪悪感や負債感のために故郷に(気持ち的に)帰れない人々が、帰る理由を探す物語でもあると思う。単に「昔は良かった」的な郷愁には留まらないものを描いていて、それが何なのかはまだ上手く言語化できないのだが、とても面白く読んだ。個人的に興味深かったのは、自由恋愛ができない不自由で苦しむ人のこともきちんと描きながら、恋愛至上ではない人生の寂しさみたいなものを描いている点。この作品では「故郷」をテーマにすることでそれを描いているように思う。思い出を共有できる存在や回顧できる思い出があるということ。それがあることこそがその人の人生を動かしうると言えるのかもしれないし、その人のアイデンティティに関わっているような気がする。ここら辺は同著者の『路上の陽光』収録の短編(特に「遥かなるサクラジマ」)で描いているようにも思えるので再読したいと思う。

  • チベット農村の牧歌的な子供時代と、大人になった都会の孤独と。

    懐かしさと、それでも帰りがたい故郷。
    天を仰ぎ、あの日見た雪を待つ。

  • 1

  • 山深いチベットの暮らし、子供時代のエピソードが微笑ましい。雪を待つタイトルがエクセレント。

  • 前編と後編の対比が凄まじいチベットの長編小説。前編の舞台はチベット東北部。山に囲まれ半農半牧の民が静かに暮らすマルナン村では、村長の息子であり主人公のぼく、幼馴染のタルペ、ニマ・トンドゥプ、そしてセルドンの四人が野を駆け巡る。白く覆われた山裾に朝の陽光が当たり雪面がキラキラと光り輝く様、凍てつく空気に喉が締まり吐いた息が染まる様、チベットの大地に子らが跳ねる姿が眼前に広がるようでただただ美しい。しかしのんびりとした暮らしも時が進むと共に不可逆的な変化を経て、後編、二十代後半になったぼくは息が詰まるような都会でただ一人雪を待つのだった。大人に諾々と従うだけだった四人の子供が成長し、それぞれの欲に溺れるようになった現代。そんな今の時代だからこそ、人として忘れてはならない宝が何かを呼び覚まし、心に刻み付けてくれるような作品だった。

  • チベットの若い作家の長編。
    半農半牧で暮らしを送る寒村の、失われつつある伝統的生活を描いた前編と、近代化が進む首都ラサのいまを描く後編に分けられた構成が、成功していると思う。郷里を同じくする四人の幼なじみの、村を出てからの運命を追う後編が哀切。

    2000年代に書かれた小説であり、そこに生きる人間たちは意外なほどわれわれ現代日本人とおなじ病に苦しんでいる。小説的技巧も、いま的小説として馴染み深いスキルで、未知の国チベットを期待すると肩すかしを食う。いまこの世界の文化的一様性が進む様を見るようだが、物語世界の登場人物たちは、そんなことお構いなしに今を貪欲に求め、その結果振り回される。

    紹介の少ないチベットの、現役作家の小説を、多国語に先駆けて出版した勉誠出版。チベット文学にこだわる勉誠出版に拍手。

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著者プロフィール

1977年、チベットのアムド地方ティカ(中国青海省海南チベット族自治州貴徳県)生まれ。北京の中央民族大学にてチベット学を修め、現在は北京の中国チベット学研究センターの宗教学部門の研究員としてチベット仏教に関する研究を進めるかたわら、チベット語の小説を雑誌等に発表している。小説集としては『路上の陽光』、『ラシャムジャ中編小説集』、『眠れる川』、長編小説『雪を待つ』、エッセイ集に『私の孤独、あなたの文学』がある。チベット語文芸雑誌『ダンチャル』の主催する文学賞を過去に5回受賞(うち1回は新人賞、歴代最多)しており、2012年には中国の民族文学母語作家賞、2020年には全国少数民族文学創作駿馬賞(中短編小説賞)を受賞しているなど、現在30-40代の作家の中で最も注目される作家の一人である。

「2022年 『路上の陽光』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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