- Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784588011368
作品紹介・あらすじ
自分自身が失われてしまったという感覚をもつ人の苦しみを前にして、いかなる言葉が、いかなる身ぶりが可能だろうか。病いが人を深く揺さぶる時、この同一性の傷を治療することは可能だろうか。患者が自己の風合いを取り戻すことを支援する協働的な営みとしての「治療」の可能性と、「回復」への希望を現実のものにしようとする実践から、ケアの哲学に新たな地平を切り開く。
感想・レビュー・書評
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第1章から第5章までは、タイトル通り、病いによって、自分がいかに内側から破局し、自らの現実を受容できない状態にあるのかが描かれる。冬のような凍てつきさえ感じる。第6章に至って、新たな芽吹きを見る。病いを得た人が、新しいセルフイメージを持って、もう一度生き始める様子が語られる。読者がもし、ちょうど今、病いの見えないトンネルの中にあるならば、救いとなる、この章から読むのが良いかもしれない。
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自己免疫性疾患で苦しんだことのある哲学者による、病いと治療における自己同一性のお話。
医療はもはやエビデンスベースが主流で、病気にフォーカスをあてた行為が行われる。
だが患者は人である。教科書通りにはいかないし、苦悩する。
この世には患者が抱える病気のデータはあっても、その患者自身のデータはない。
患者は病いによって自己同一性の破局を経験し、苦悩する。
医療者はその苦悩にフォーカスする必要がある。
治療においては、一方的に治療行為を行っていくパターナリズムになってはいけない。その患者が自分自身で破局を克服していけるように、きめ細やかに目と心を配り、それを手助けすることが重要なのである。
本書を読んでそのように感じた。
また本書は、病気に限らず
大きな自己を揺るがすイベントがあったときに、私たちはどう対応するのか?
自分を自分足らしめるのは何なのか?
ということも考えることができる。
ボリュームはコンパクトで、文章も比較的にわかりやすいが、充実した一冊である。
哲学に慣れていない方、病気がない方にも、おすすめします。