社会を越える社会学 〈改装版〉: 移動・環境・シチズンシップ (叢書・ウニベルシタス 845)

  • 法政大学出版局
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  • Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784588140174

作品紹介・あらすじ

モノ、コト、ヒトが「社会を越える」ことによって社会学はいかなる方向に向かうのか──。市民社会論と時間・空間論を両輪に、従来の社会学においてブラックボックスとなっていた「移動」概念に焦点を当て、レジャーや仕事のための旅行から、情報や廃棄物の移動、都市テロや伝染病まで、21世紀の移動と越境を論じ、ポスト国民国家における脱中心的な市民社会を予見する。

感想・レビュー・書評

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  • 英国人の著者ジョン・アーリさんは、現在の社会学領域ではひとりの大物として確かな地位をもっているらしい。
    さて初めてアーリさんの著書を読み始めてみると、フランス等の現代思想の影響を色濃く漂わせ、特にドゥルーズあたりに触発されたような、かなりポストモダン的な文章であることに気づく。これは社会学なのか、それとも現代思想なのか? いや、結局のところ、アーリ氏の狙いは新しい社会学の視座を獲得しようという試みである。
    それにしても、他人の著作からの引用や、それへの言及が非常に多く、まるで山口昌男さんの本を思わせる。ブッキッシュな知の花火が騒々しく打ち上げられ、こちらからあちらへと、絶えず視線を移動させられる。本文の6割くらいは、著者自身の思考ではないと言ってもよいかもしれない。山口昌男氏の本がそうであるように、この本は知的刺激に満ち満ちてはいるものの、結局どこからどこまでが「著者自身の思考」なのか判然としない。そのため読後の印象は、著者自身の言葉として残るものは多くない。
    概要をまとめてみると、ジョン・アーリ氏によれば、近代的な社会学は、「社会」概念そのものがこんにちでは何を指すのか揺らぎ、学問的な危機の状況にある。
    現在の社会は、自動車から移民、インターネットでの「情報」の瞬時の伝達など、<移動>というキーワードによって、従来とは異なる様相を呈しているのだ。アーリは、「メタファー」「旅行」「時間」といった、現代思想的なテーマに沿いながら、そうした状況を浮き彫りにしようとする。
    もちろん、現在的状況でとりわけ興味深いのは、多国籍にまたがるようなグローバル企業の展開である。そのグローバリズムは、あたかも「国家」社会の原理と対立しているかに見える。けれどもアーリは、そうした単純化された二項対立は避け、国家と、企業のグローバリズムとが互いに依存し作用し合う状況を強調している。彼の思考モデルは、複雑系を参照しているのだ。
    本書は、「グローバルな市民社会」の到来を予期し、これに期待することで終わっている。アーリが導き出そうとしたのは「移動の社会学」だ。
    しかしそれがいったいどのように結実するのかは、まだよくわからない。本書はひとつのマニフェストのようなものであろう。具体的な、個々の詳細な議論はこの後に始まるはずなのだ。
    ただし私には、「移動の社会学」がどこに向かうのかはよくわからなかった。現在の社会がどのように変容していくのか、特に相変わらず島国根性に閉じこもった日本人には、どうしても見えにくい問題なのかもしれない。そうは言っても、TPPのような、国内産業を良くも悪くも(たぶん悪い比率のほうが高そうな気がするが)急激に改革・破壊するような「政治」に巻き込まれ、日本もまた、グローバリズムの危うい展開の荒海に漂流することになるだろう。
    この社会はどのように変容するのか?

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著者プロフィール

(John Urry)1946~2016年。ロンドン生まれ。英国の社会学者。ランカスター大学社会学科教授、英国王立芸術協会のフェローなどを務めた。21世紀における「移動」をめぐる新たな社会科学の中心的人物として、世界的に著名。
日本でも『観光のまなざし』『場所を消費する』『社会を越える社会学』『モビリティーズ』などの邦訳で広く知られ、その著作について、社会学者の北田暁大は「具体性と抽象性を往還するなかで理論が生成していく現場を読者は目撃することになる。……スリリングであると同時に論争的でもある」と評し、作家の髙村薫は「20世紀を生きた者なら誰でも身体感覚としてもっている感覚を初めて言葉にしてもらった驚き」と述べるなど、アカデミズムを超える広い読者層を獲得している。
2003~2015年、ランカスター大学に「モビリティ研究所」を設立し責任者を務めた。2015年、新たに「社会未来研究所」を設立し共同責任者となり、人生の最後の時間を“モビリティーズ・スタディーズ”の集大成としての“未来研究”にかけ、翌年の2016年に亡くなった。本書は、その最後の研究成果として結実したものである。

「2019年 『〈未来像〉の未来』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ジョン・アーリの作品

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