まっちくれ、涙 (こども文学館 21)

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  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591007945

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  • 「青葉学園物語」シリーズの最終巻。なつめ寮の子どもらはひとつずつ進級して、ボータンと清が6年生、真治とまことが4年生、タダシが2年生。寮長は、中学を卒業した透にかわって、中3の耕一になり、『翔ぶんだったら、いま!』でみんなを率いて街へくりだした和彦は中1になった。

    夏休み、まいとし青葉学園の子どもらを里子によんでくれる日和島へ向かう話がこの巻では出てくる。10日間のあいだ、それぞれ島の家庭に分散して、子どもたちはすごす。学園の子どもらと島の子どもらは、もう数年のつきあいで互いになじみだが、そのなかで、ケンカもある。おもしろくないのうと憤慨することもある。

    島の伝ちゃんの態度が気にくわんと、和彦や進、ボータンが伝ちゃんを沼へおびきだし、カッパに化けて盛大におどかしたとき、伝ちゃんは声をかぎりに泣きわめいて、腰がたたなくなり、よつんばいで逃げまどった。
    「ああーん!ああーん! こわいよーう! おかあちゃーん! おかあちゃーん!」と伝ちゃんが泣きわめきながら逃げていったあと、うまく伝ちゃんをこらしめたのに、なぜか三人とも気持ちがしけこんだ。

    「おかあちゃーん、かあ…」
    学園の子どもらが日和島で楽しい毎日をすごしていた間、高2の弘明は、杉伐採のアルバイトに精を出していた。夏休みじゅう働いて得たお金で、恵子に何か買ってやろうという目的で。10日働いたところでもらった給料袋のなかみは、先輩のタンコに抜きとられたらしく、ほんの少しだった。苦い思いがこみあげ、おやっさんに掛け合おうかとも思う弘明は、迷ったあとに、こんどのことは黙っていようと決め、そのまま山をおりて帰ることにした。

    タンコは弘明と年の変わらぬ少年で、そのタンコから花札で金をまきあげている大人たちのずるさ、なんで大人たちは、ああして毎日いっしょうけんめい働いてるタンコをいいようにするのか、と弘明は思う。「きっとタンコは、あしたからおれの顔を見るのがつらいだろうな。おれだって、そんなタンコを気にかけながら働くのはつらいなあ。」そして、弘明はわずかに手にしたお金を見つめて思う。「…お金かあ」

    山をおりる道を歩きながら、弘明は自問する。なぜタンコは自分に相談してくれなかったのだろう。どこかで自分はタンコをこばかにしていたんだろうか。この10日間、手をとってノコの扱いや伐採の手順を教えてくれたタンコに、自分は本気でむきあっただろうか、どこかに(おれは毎日こんな山で木を伐って暮らすタンコなんかとは違うんだ)というおごりがありなしなかっただろうか。タンコから相談してもらえなかった自分をさみしく思い、自分の生活のなかにある無防備な信頼を思う弘明。

    ▼弘明は、自分の生活のなかには、学園での暮らしのなかには、そうした信頼のうえに成り立つあたたかい心のかよいあいがあることに思いあたった。先生たちも、透、耕一、和彦、ボータン…みんなみんな無防備な信頼のなかで、あたたかくよりそって生きている。ことさら信頼なんて意識もしていない信頼関係。そんなことは考えもせず、気がつきもせず、あたりまえのこととして暮らしている学園の仲間たち。(p.186)

    ▼悲しいとき、つらいとき、まてよ、ここでくじけてはいけんぞ、ここで涙なんか見せてはいけんぞ、とふんばって、明日につなぐ支えになるものを心のなかに持つのだ。そんな何かを心のなかに持って、強く生きていくのだ。(p.195)

    物語の最後、8月6日の精霊ながしの場面で5巻は閉じられる。
    相貸で借りたどの巻も、全体によごれが目立ち、よくよく読まれたんやなあと思う。よくおぼえていた場面も、こんな話もあったっけと記憶にない場面もあったけど、子どもの頃どんなん思って読んだんかなーと考えもするし、この本を読んだほかの子は、みんなどんな風に読んだんやろと思う。

    それにしても、近所の図書館にシリーズごとあらへんというのは、ほんま残念。

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