- Amazon.co.jp ・本 (151ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591121436
作品紹介・あらすじ
早春の美しい朝、画家になることを決意したその日から、いくのの新しい人生が始まった。理想の生活をひたむきに追い求め、辿りついたあまりにも無垢で素朴な生(北原武夫『聖家族』)。酒場の匂い、群衆のざわめき…、故郷を捨て、アメリカでの人生を選んだ男の目に鮮やかに浮かんだ景色とは(ジョージ・ムーア『懐郷』)。結婚生活のほとんどを闘病に費やした妻と、彼女の死を看取った「私」。諦念、しかし希望を予兆させる強靭な魂の記録(藤枝静男『悲しいだけ』)。人生を生き抜こうとする者たちの強さが圧倒的な三篇。
感想・レビュー・書評
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北原武夫「聖家族」現代の老荘的な生き方とはこういうものなのか。
藤枝静雄「悲しいだけ」死によって悲しみもまた無に帰す。
ジョージ・ムーア「懐郷」結局、人の故郷は移ろうもの。
70/100詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
主人公の女性の思い立ったら実行の潔さが読んでいて恐ろしく感じられてしまった『聖家族』。
時代もあるのだろうけれど私は薄気味悪さを感じて苦手です。
移住先のアメリカで体を壊し、故郷のアイルランドへ療養に戻った主人公が一度は暮らす決意をしながらもアメリカからの手紙に心を揺さぶられて恋人も捨てて戻る『懐郷』。
田舎のしがらみ、狭い世界での日々はアメリカでの自由な暮らしを経験した主人公には厳しかったのだろう。
田舎の故郷は思い出の中だから憧れ美しいのかも知れません。
長期の闘病をした妻を看取った著者が心情を語る『悲しいだけ』。喪失感を抱えつつ早咲きの藤の花に明るさを見出す。人はそうやって少しずつ癒されて前に進むのだと心に響きました。
タイトルの『空』に明るい青空を想像して読み始めたのですが空虚とか空しさに近い『空』でした。 -
「聖家族」
いくのは、刹那的な感情をたよりに生きていく。
でも、私にはそれはわかる気がする。
ある日突然、唐突に、節目はやってくる。
それは確信の持てる手ごたえと、有無を言わせない力で、やってくる。
スイッチがパチッと切り替わる。
そして、過去は焼き切れて、終わる。
最後の、彼ら3人の力強い後ろ姿。
光に誘われているかのようだ。
8月15日。
どこへ行くのか。どうなるのか。
希望と祝福の光であってほしい。
そう願わずにはいられない。
「懐郷」
田舎というものは、どこの国でも変わらないものなのか。
故郷は、遠きにありて思うもの、なのだろう。
そして、もうそこは自分が住むべき場所ではないのだろう。
「悲しいだけ」
読みにくい情景描写が続く。
なんだか淡々と書かれているかのようだけれど、随所に「死」の存在が顔を出す。
妻の苦しみと自然とが入り混じった描写。
目の前の景色と妻の死とが、混ざり合った世界を、彼は見ている。
黒い転轍機と赭茶けた砕石の後に、妻の赤黒い腹部という表現があるのは、たまたまのようには思えない。
景色と妻とには、多くのリンクが張らりめぐらされていて、彼にとって妻は、彼の世界にしみ込んだ存在であることが伝わってくる。
七滝について書かれているところなんて、妻のことには一切触れられていないのに、そこには確実に女の人の気配がする。
まるで、幽霊のようだ。
この作品は、あまり読みやすくないし、好きではない。
それでも、これほど多くを感じさせる作品なのだから、優れているのだ、ということは認めざるを得ない。 -
北原武夫『聖家族』
ジョージ・ムーア『懐郷』
藤枝静男『悲しいだけ』