希望の図書館 (ポプラせかいの文学 5)

  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591164198

作品紹介・あらすじ

一九四六年、アメリカ。「黒人は、図書館に入れない」とラングストンの母親は言っていた。しかし、新しく越してきたシカゴの町で、ラングストンは、だれもが自由に入れる図書館を見つける。そこで、自分と同じ名前の詩人が書いた本と出会い、母親の「秘密」にふれることになる…。読書の喜びを通じて、小さな自信と生きる勇気を手に入れていく少年の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 日ごろ意識にはのぼらないまでも、胸の底に澱のようにたまっていく思いというのはある。
    それが何かの弾みで、堰を切ったようにあふれる。
    私にとってこの本がそうだった。
    最初から最後まで、じわじわと滲む涙の乾く間もなかった。

    シカゴ公共図書館ジョージ・クリーブラント・ホール分館(1932年1月開館)。
    「希望の図書館」と本作品の中で呼ばれる場所だ。
    主人公のラングストン少年は、大好きだった母親が亡くなり、父と共に故郷アラバマを後にする。新しい住まい。新しい中学。そして古びて穴の開いた靴とオーバーオール。
    だが、どこにいても何をしても、母親の面影を追い求めている。
    繰り返される同級生の執拗な虐め。逃げ帰っても誰もいない狭い家だ。
    涙は、父親の留守の間にひっそりとしか流せない。
    その父親もまた、慣れない都会で新しい仕事に心を張り詰めていた。
    ある日ふと入り込んだ図書館で出会った本が、ラングストンを変えていく。。

    「ご案内しましょうか?」
    始めて入る大きな建物のあまりの神々しさに声も出ないで立ち尽くす彼に、声をかけてくれた司書さん。なんて素敵なコトバだろう。
    子どもがひとりで、望む本にたどり着けるものではない。
    そもそもラングストンは、ここにある本を全部借りても良いということさえ知らなかったのだ。それも、無料で。しかも黒人の少年が。

    やがて彼は導かれるように、「自分の心の中の言葉が書かれた本」に行き当たる。それは、自分と同姓同名の詩人の本だった。

    本作の中では、ラングストン・ヒューズの詩が様々な場面で登場する。
    1933年には日本にも訪れたらしい。
    ジャズに合わせて詩の朗読をすることもあったというが、それこそ司書さんにお願いしてみると、生の声が聴けるのかもしれない。

    「詩のどんなところがいいの?」
    友だちにそう聞かれた時のラングストンの答えが、まるで煌めく詩のようだ。
    「誰かが僕に話しかけている感じが好きだ。それに僕以外の誰かが、僕のことをわかってくれている感じがする…僕の気持ちを」

    1940年頃のシカゴの光景と四季。南部と北部の違い。
    カラードの置かれた立場。図書館と本の持てる大きな大きな力。
    とりわけ、初めて図書館に足を踏み入れた時の新鮮な驚きは、ああ昔の自分と同じだと胸を熱くする人もきっといるかと思う。
    YAの枠を超えて、ひとりでも多くの方にお読みいただきたい。今猛烈にそう思っている。
    原題は「FINDING LANGSTON」。うん、邦題も良いけどこちらも良いね。

    • nejidonさん
      信道アルトさん、ありがとうございます。
      その本は登録こそしていませんが、読んだことがあります。
      実は、載せない本の方がはるかに多いのです...
      信道アルトさん、ありがとうございます。
      その本は登録こそしていませんが、読んだことがあります。
      実は、載せない本の方がはるかに多いのですよ(*^_^*)
      図書館まで出入りさせなかったなんて、今では考えられないですね。

      2020/01/17
    • 信道アルトさん
      載せない本のほうがはるかに多いなんてすごい読書家ですね、ネジドンさんは。
      私は見栄っ張りだから青空文庫の短い詩でも登録してしまいます。
      載せない本のほうがはるかに多いなんてすごい読書家ですね、ネジドンさんは。
      私は見栄っ張りだから青空文庫の短い詩でも登録してしまいます。
      2020/01/17
    • nejidonさん
      いえいえ、他のひともたくさん載せてるなぁと思うと、載せる気がしないのです。
      別に私が言わなくても、他の人がいっぱい言ってるからいいや、って...
      いえいえ、他のひともたくさん載せてるなぁと思うと、載せる気がしないのです。
      別に私が言わなくても、他の人がいっぱい言ってるからいいや、って感じです。
      見栄っ張り?ふふふ、そんな信道アルトさんが好きですよ。ではでは。
      2020/01/17
  • 1946年、アメリカ。母親の死後、アラバマから父親とふたりでシカゴの黒人居住地区に移住したラングストンは、学校ではいじめられ、家でも望郷と孤独を感じていた。いじめっ子から逃げるように下校した日、道に迷った彼が帰路を訪ねようと入ったところは図書館で、シカゴの住民なら人種を問わず利用可能なところだった。自分と同じ名前の著書を見つけた彼がそれを手に取ると、中には彼の気持ちを代弁するかのような詩が綴られていて、その日から彼は図書館に通うことが楽しみになっていく。
    誰とも心を通じ合えない孤独を感じる少年が、本の中にそれを見出し、それを通じて周囲の人達ともつながりを持ち始める様子を、少年自身の言葉で語る。




    *******ここからはネタバレ*******

    少年が詩の世界にのめり込んでいく姿はわかるのですが、周囲の人、特に父親や隣人フルトンさんの変化がとても不自然に感じられます。
    この物語には白人は出てきません(白人という記述がありません)が、学校はともかく、図書館でも出会ったり、トラブルがあったりとか、なかったんでしょうか?

    落ち着いた作品だとは思うのですが、ごめんなさい。私にはとても印象の薄い本でした。

    文章は平易ですが、人物の気持ち理解を考えると高学年以上からにオススメします。

  • アラバマからシカゴへ、お母さんが亡くなった後にお父さんと引っ越したラングストン少年を主人公に物語は展開します。
    戦後のアメリカ北部、南部から大量の貧しい黒人が希望を胸に移り住みました。
    都会の暮らしになかなか馴染めないラングストンは、黒人でも利用できる図書館を見つけて衝撃を受けます。
    彼は図書館と本を糧に上手く暮らしていけるでしょうか…。
    黒人の厳しい生き様と共に、心温まる内容も詰まっている一冊。

  • スコット・オデール賞受賞作品リスト やまねこ翻訳クラブ
    http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/odell/index.htm

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    希望の図書館|ポプラせかいの文学|児童読み物(海外)|本を探す|ポプラ社
    https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/4122005.html

  • リサ・クライン・ランサム(著)
    松浦直美(訳)
    「希望の図書館」 (株)ポプラ社

    2019年 11月発行
    2020年 5月9日 読了

    星がもう2つくらい欲しい!
    素晴らしい作品でした。

    人はどんな時も無限の可能性を持っていて

    図書館はそのキラキラ輝く可能性に
    名前を付けて気づかせてくれる場所だ。

    良い事ばかりじゃないこの世界は
    悪い事ばかりでもなく

    幸せの種をいつか大切な人の為に
    蒔いてくれている人たちがいる。

    図書館は
    そんな優しい人と出逢える場所なんです。

    最近ぼくの中で一番熱いのが
    児童書コーナーです。

  • 光が差し込むしんとした空間に入ると、棚という棚に本がつまっていた。
    図書館の空気を吸い込むと古い紙や糊のにおいと、木のにおいがした——
    アラバマで母を亡くし、父とシカゴの町に移ってきた少年ラングストンは、図書館に初めて足を踏み入れた。

    中学校では「南部のいなかもん」と呼ばれいじめられている。友だちもいなく、父さんが仕事から帰ってくるまで独りぼっちで寂しい。アラバマのおばあちゃんのところに帰りたい!
    母さんが恋しくてたまらない!
    ラングストンの心情が伝わってきて切なくなった。

    偶然見つけた図書館。母さんから「黒人は図書館に入れない」と聞いていたが、この図書館は誰でも入ることができる。案内してもらって「本をさがすお手伝いをしましょうか?」と聞かれた。
    自分と同じ名前の作家の詩集にも出会えた。アラバマの懐かしい情景と思いが綴られた詩を読みながら、ラングストンの気持ちが少しずつほぐれていく様子にほっとさせられた。

    物語は1946年のアメリカが舞台。
    南部から北部へと「黒人の大移住」があった頃、父と息子もシカゴに向かった。
    悲しみを胸に、生きる糧を求めて!
    無器用で愛情表現も上手くないが、物語の終盤に父親が取った行動は、息子を知りたい、わかりたいと願う親の姿そのものに思えた。

    一般書部門の司書キンブルさんと、児童書部門の司書クックさんは図書館のことを熟知しており、適切な選書もできる図書館のプロ!
    ラングストンは図書館と本、司書さん達に出会ったことで、周りにいる人たちの温かさに気づくことができたと思う。
    お隣のフルトンさんは、アラバマのおばあちゃんが亡くなった時、美味しい食事を作ってくれ、ラングストン・ヒューズの詩を朗読してくれた優しい女性。
    「ラングストン・ヒューズの言葉が、ぼくが頭の中でつっかえながら読むよりも、ずっと美しくきこえる。フルトンさんは、まるで歌うように読んで」くれて、その心地よい響きをいつまでも味わっていたかった。

    「図書館は、シカゴでたったひとつ、ぼくがいきたい場所なんだ」と父さんに打ち明けたラングストン。
    けれども母さんが若い頃、父さんに宛てて書いた「ああ、いとしの黒い人…」が、大好きな詩人のものだったことを、僕と母さんの"秘密"にしておきたいと考えたところは子どもらしくて、いじらしい。ヒューズの詩を読むことは"母親"に会うことそのものだから!

    本について喋ることのできる友だちも見つかった。ラングストンが、これからどんな大人になっていくのか楽しみだし、知りたいと思う。いじめっ子で時々学校を休むライモンや、友だちになったクレムの物語も読んでみたい。

  • 1946年秋、ラングストンの母が亡くなってしまい、父と2人でアラバマからシカゴへと引っ越す。母と父の以前からの計画通りだったが、ラングストンは騒々しいシカゴの暮らしに馴染めない。さらに、学校でもいじめられ、友達が出来ない。そんなラングストンは、偶然、図書館を見つけ、通うようになる。父は男の子の友達と過ごす事を期待していたが、ラングストンはこっそりと図書館に通い、本を借りる。
    ラングストンが図書館を〈家〉と呼んだラストは、思わず涙ぐんでしまった。彼が詩を読むことで、苦しい時期を乗り越えられたことも嬉しかったけど、心の支えになる場所が図書館で良かった。
    その図書館の司書が黒人作家などの講演会を企画して、地域文化を盛り立てていることも素晴らしいと思った。
    紹介されていた作家は知らない人も多かったし、肝心のラングストン・ヒューズの自伝(絶版)も地元図書館になかったのは残念だったけど、相互貸借を活用して、読みたいな。

  • 図書館に入る時の、ちょっとした緊張感と心弾む気持ちに今でもあります。
    建物の雰囲気、空気、匂い・・・大好きな場所。

    ラングストンが初めて図書館に足を踏み入れた時の気持ちが丁寧に描かれている。
    ラングストンの置かれている状況を考えると、胸が熱くなる。
    母を亡くし、故郷のアラバマを離れ父親とシカゴに来たが、馴染めない。
    同級生からのいじめを受け、大好きなおばあちゃんにも会えず、余裕のない父親との二人暮らしに、ラングストンの悲しみと喪失感がヒシヒシと伝わってくる。
    と同時に、アメリカの黒人差別の歴史も伝わってくる。
    ラングストンが出会ったのが、詩人ラングストン・ヒューズ 「ハーレム・ルネサンス」の代表的存在によって書かれた詩集だという点も象徴的だ。

    図書館で本と出会ったラングストンは、本を通して隣人の良さを見つけ、友達も見つけ、希望を見つけた。
    図書館から未来に開かれていく、まさに「希望の図書館」。

  • アラバマからシカゴに引っ越してきた少年ラングストン。そこは黒人も入れる図書館だった。図書館で詩を読む楽しさを知ったラングストン。自分の名は、同名の詩人に由来しているということがわかり…
    居場所と自分を取り戻していく過程が丁寧に描かれている。その一端を図書館が担ったというところが嬉しい。

  • ラングストンは、父さんと二人、シカゴにやってきた。亡くなった母さんとの思い出の土地を離れて。いじめっこから逃れて知らない道に出たラングストンは、図書館をみつける。しかもこの図書館は、黒人にも本を貸してくれるという。本を読むことを嫌う父さんに見つからないようにしながら、読書にのめりこむラングストンだったが、ある日いじめっこに本を破られて…。
    図書館と本が人にとってどれほどの力になるのか、心に響く物語。

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