ジュリーの世界

著者 :
  • ポプラ社
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感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591170069

感想・レビュー・書評

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  • 初めて読む作家さんですが、期待以上に面白かったし切なかった。

    京都のジュリーと呼ばれた男はなぜ京都に住み着いていつ来たのか。
    疑問を書きながら他の人の語り手でその人たちの生い立ちや気持ちも描かれている。
    暗い話ばかりじゃなくてその時代に流行ったものなどが出てきて面白い。その時代を知らない私でも読んでいて楽しかった。

    そして最後の章で全ての謎が明らかになる。
    戦争とは人を変えてしまう。それは当たり前のことではないだろうか。
    さっきまで話していた相手が爆弾1つでなくなってしまう。

    ジュリーが戦争のときに出会ったSが彼の命の恩人で彼が奉公に行った先が京都の映画館の看板職人のところだった。Sが戦地から戻れたら帰りたい場所をジュリーはずっと歩いている。
    極楽鳥を眺めるのも極楽鳥が生息する場所が彼らの戦地だった。そしてSが描く絵をみて極楽鳥を描くことができた。全てが繋がっている。
    戦地の慰安婦で出会ったのが、京都で一緒に寝ていた三条の百恵ちゃんじゃないかと思う。

    何気なく描かれているところも意味があり、その意味がわかる時、切なくて泣いてしまう。

    戦争で生きて帰ったからといって、戦争でみた仲間たちの死を、なぜ自分は生き残れたのかを

    幸せになることさえ罪と思ってしまうのかもしれない。

    読んだ後も考えさせられる本だった。

  • 1970年代後半。
    その頃京都河原町にいた伝説のホームレス、ジュリー。

    私は大人になって大阪に住み始めたので、京都河原町を散策したりするようになったのはその頃からで、私が生まれた頃の京都については全く知らなかった。
    都市伝説のように語られる河原町のジュリーをこの小説で初めて知った。
    日本史を遡ってもあれだけの有名人を生み出している京都で名を残している河原町のジュリーはなかなかの人物であると思う。
    近づくと怖くもあり、無下には出来ない…どこか神様のような存在になっていたのかなぁ。

    この小説もジュリーの言葉はなく、京都河原町の人々の人生を見つめることによりその中で登場するジュリーの全貌が見えてくる。
    今も新京極辺りはどこかノスタルジックなところがある。だけど、京都で40年あまりを昔とは言えないんだろうなぁ。
    「あ、誓願寺も訪れたことあるなぁ〜この辺りたくさん歩いたなぁ〜」と、京都散策出来ない昨今、著者の鋭い風景描写に心が潤う。

    河原町のジュリーを追っていると普通って何だろうと思う。もしかしたら誰かが助け家の中に迎えることも出来ただろう。
    しかしホームレスがジュリー自身の選んだ道であり、生き方だったんだろう。
    この小説のように激動の時代を乗り越えて絶望を味わった末に選択したことかも知れない。それはジュリーにしか分からないことなのだ。
    そんな彼が、私が生まれた頃の時代に生きて彼独特の人生を送っていたことを心に刻む。
    早く京都散策ができる日が来ることを願いつつ。

  • <嬉>
    増山実の本を初めて読んだのはかれこれ二三年前のこと。大阪のシンガーソングライター金森幸介さんがFacebookで『波の上のキネマ』を話題にしていたのがきっかけ。その後『甘夏とオリオン』を読み今作『ジュリーの世界』へと至っている。
    題名から想像していた内容とは全く違って京都のお話だった。色々あるが,僕はこの物語の舞台の一つと云えそうな裏寺町通りに面する称名寺と云う小さなお寺の門前で弾き語りライブ演奏をやったことがある。上洛して歌うという僕の願いの叶った思い出深い場所なのです。さらに木屋町の八文字屋へは何度か行ったことがある。店主の甲斐扶佐義さんとも何度かお話した。が,コロナバイラス禍以降は訪れられないでいる。
    あと増山さんは何でこの本の題名をズバリ『河原町のジュリー』にしなかったんだろう。その題名の方がずっと良いし,もしかすると読者は皆そういう風にしか本の名前を覚えないのではなかろうか。いや,すまぬ。

  • 面白く一気に読んだ。しかし、詰めの甘い設定が気になった。
    当時の京阪電車特急は丹波橋駅に停車しない。
    丹波橋駅からは伏見桃山城行きのバスはなかった。
    京都の人は男児への二人称に「僕」とは言わず、「ぼん」と言う。
    京都の人は「大文字焼き」とは言わず、「大文字送り火」「大文字」「送り火」と言う。

  • 第10回(令和4年) 京都本大賞 受賞作。
    1970年代、 京都河原町の繁華街を 毎日悠然と歩く 「河原町のジュリー」と呼ばれるホームレスがいました。彼は実在しています。著者は彼を追って 虚実を織り交ぜながらしみじみとした作品に仕上げました。

    ジュリーとは当時 絶大な人気を誇った 沢田研二の愛称。ホームレスでありながら 河原町 界隈ではジュリーと親しみを込めて 呼ばれ、亡くなった時には 新聞記事にもなったという「河原町のジュリー」。

    彼は一体誰で、なぜ毎日 京都の繁華街を徘徊していたのか ‥終盤でその謎が解き明かされた時、その悲しい過去に涙がこぼれます。

    ネットで 「河原町のジュリー 」を検索してみてください。実際に 彼に出会った人々が描いた似顔絵が何枚も出てきます。どれもみんな可笑しみがあります。

    あの時代の京都の町の人たちにとっては「河原町のジュリー」さんは、かけがえのない風景の一部だったのかもしれませんね。

  • 河原町のジュリーという実在の浮浪者から膨らませた物語。
    1979年を中心に進む。
    コロナ禍をこえた今へ時代は繋がっているのだと、戦争は実際にあったし、たくさんの人が亡くなって、生き延びた人がいて、街を守り続けた人がいて、貧しくても裕福でも生きてきて、、、
    軽い気持ちで読んでみたら意外と深い内容だった。

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著者プロフィール

1958年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。2012年に「いつの日か来た道」で第19回松本清張賞最終候補となり、改題した『勇者たちへの伝言』で2013年にデビュー。同作は2016年に「第4回大阪ほんま本大賞」を受賞した。他の著書に『空の走者たち』(2014年)、『風よ僕らに海の歌を』(2017年)がある。

「2022年 『甘夏とオリオン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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