あの子のことは、なにも知らない (teens’best selections 61)

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591172421

作品紹介・あらすじ

昨日、クラス全員の高校合格発表が終わった。教室にはクラスメイトたちの弾む声が響いている。秋山美咲が目をやると、窓側のいちばん前の席で、ひと月ほど前に転入してきた渡辺和也がいつものように机の上につっぷしている。美咲は和也に「ねえ、持ってきた?」と声をかけるが、和也はぴくりとも動かない。和也は遅刻常習犯、気に食わないことがあるとすぐキレる。クラスの誰からも無視されているような存在だ。
美咲はクラスの委員長であり、卒業祝賀会の委員もつとめている。卒業祝賀会は生徒が主催して親を招待するのがならわしで、スライドショーと親への感謝の手紙贈呈は祝賀会の中でもいちばん盛り上がるのだ。和也はそのスライドショーに使う幼少期の写真を、何度いっても持ってこない。しかも、やさしく声をかけたきょうも、また無視だ。「感動を呼ぶ祝賀会を完璧にしあげなければ」ということを正義と思う美咲には、和也の態度は許しがたい。そして理解できない。わたしは「真のリーダー」として、学年主任の前田先生からも認められているのだ。和也にはぜったいに写真を持ってきてもらわねば──。
同じ祝賀会委員のひとり、本間哲太は、学校で見せない和也の顔を知っていた。和也の父親とふたりの生活は、食事もろくに食べられない暮らしなのだということを──。
写真を持ってこない和也を「甘やかしてはいけない」と思う美咲。一方、哲太は「事情があるはずだ。俺は和也のことをもっと知りたい」という。
そんなとき、和也が児童相談所に保護されたという。そして、祝賀会委員たちはしだいに和也の置かれている状況を知ることになり、それぞれが迷いながら自分のあり方も見つめ直す。
「正しいけれど、何かが違う」「正しいけれど正しくない」そういったことが世の中にはいくつも岩のようにごろごろと転がっている。答えは見つかるのか、見つからないのかわからない。でも、正しいか否かを考えることを放棄したくはない──そう考える中学三年生の姿を、貧困家庭に生きる子どもたちの姿を描いたデビュー作『15歳、ぬけがら』で各方面から高い評価を受けた栗沢まりが描く。

感想・レビュー・書評

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  • 地域の伝統の『卒業祝賀会』は、生徒たちの小さな頃と現在の写真をスライドショーにして流し、親への感謝の手紙を贈呈する。

    実行委員の一人である美咲は、クラスで写真を提出しない三学期に入ってからの転校生・和也にイライラしている。
    クラス委員としても先生の信頼篤い美咲は、“きちんと”していないことが許せないのだ。

    哲太も和也のことが気になっていた。
    両親が経営する『スーパーほんま』に弁当をもらいにくる年下の少年だと思っていた和也がまさか自分と同い年だとは思ってもいなかったのだ。

    〇正しいことは何だろう、人それぞれに事情があることに思いいたり、また誰も切りすてない選択は何だろうと、ガチガチだった子が自分で考えることで成長していく
    親と意見が違うこともあるし、それが普通だよと言ってくれる同級生
    〇メインは二人なのだけど、登場人物それぞれがいろんな考えを交わしあうのが良いなと思いました
    〇和也の物語は和也の世界だけだったのだけど、環境で少し変わり、最後に友だちになる細い道筋が見えてよかった

  • 表紙の絵に惹かれて読んだんだけど…なんとももどかしい気持ちで、これ児童書?って感じだった。
    いろんな子どもがいて、いろんな親がいて、いろんな家庭がある。そこはよくある話なんだけど、最後はきれいにまとまって終わるってわけじゃないんだなぁ…。希望もみえる終わり方だったけども。
    親への感謝の手紙と子どものころの写真を載せたスライドショー、伝統を変えるのは難しいし自分だったら適当にやって流すんだろうな。安易に触れてはいけない世界はあると思うし、きっと避けて生きていく。でもそれを子どものうちに学んでいくのかぁとなんとも言えない気持ちになった。

  • “正しい”学年委員長の美咲は2週間後の卒業祝賀会にむけて完璧な準備をすすめてきたが、1月中旬に転校してきて協力してくれない和也が許せない

    同じクラスで実行委員の哲太は和也に声をかけたことがあり、学校ではうかがえない和也の生活を知っていた

    和也が幼いころの写真を持ってこないのはなぜか
    親への感謝の手紙を書かないのはなぜか

      「おれは、和也のこと、ちゃんと知りたいと思ってる」

    《自分たちの「卒業」、そして「明日」をさがす15歳たちの物語》──帯の紹介文

      正しいってなんだろう。
      「わたしたちは、なにをだいじにすればいいのかな?」

    第57回(2016年)講談社児童文学新人賞で佳作入選、貧困家庭に生きる子どもたちを描いた『15歳、ぬけがら』で鮮烈デビューした著者の単行本第2作

    YAで定評のあるポプラ社teens' best selectionsレーベルから、2022年3月刊

    章と章のあいだにはさまれたグレーのページに記された独白が衝撃的

      みんな、粉々にくだけて、なくなっちまえ。

  • 中学卒業式の二日前に行なわれる「祝賀会」。
    保護者、来賓参加の毎年感動溢れる会という。
    生徒で実行委員会を立ち上げ、計画から当日司会進行までを行う。
    中3という難しい年頃と、家庭環境が複雑に絡み合う。
    学生たちの心の葛藤が手に取るように分かり親目線で応援した。

  • 貧困家庭のクラスメイトとの関わりを通して、揺れる15歳達を書いた物語。
    感じたことを2つ挙げると、①15歳は、良い意味でも悪い意味でもまだ変われるということ。大人になると考え方を大きく揺らがせるような出来事が少なくなったり、たとえあったとしても自分の生きてきた世界の範囲で物事を見てしまう(美咲の母親のように)②貧困などの問題は、テレビの世界ではなく身近にあるということを考えさせてくれる。

  • 栗沢まりさんは子供の貧困を題材にした小説を書かれる人ということかな。卒業を控えた中学三年生の終わりにやってきた転校生渡辺和也のことを同級生は良く知らない。クラス委員美咲と幼なじみ哲太の視点から交互に和也のことを書きだす。

  • 子供の頃、私も『正しいは正義』だと思っていました。
    だから、美咲の葛藤はよく分かったし、だからこそ読んでいて苦しくもなりました。

    人の気持ちを考えること、思いやること、そして対極になることもあるやらなければならないこと。

    考えさせられ涙が出ました。

    この子たちに素敵な未来が待っていますように。

    息子たちにも読んでほしい本です。

  • 黒いページに白抜き文字で彼の心境が描かれていて、辛い。

  • 児童書なのに、考えさせられる内容の本でした。
    委員長の美咲は、卒業の祝賀会の準備に非協力的な渡辺和也(渡和)のことが許せない。
    けれども、だんだん渡和の事情を知っていくにつれ、今まで正しいと思っていたことに疑いをもつようになった。

    美咲の生真面目さ、家庭に事情がある和也、その和也を心配する哲太、登場人物がわかりやすく描かれている。
    前田先生がひどく悪いものとして描かれていて、救いがない感じ。
    児童書にありがちなハッピーエンドではなかったけれども、読後感は悪くない。

  •  伝統的な行事「卒業祝賀会」の実行委員長を務める美咲は、憧れの前田先生からの期待を裏切らないよう、みんなを引っ張っていくのに必死だ。
     3学期になって転入してきた和也は、祝賀会のスライドショーに必要な写真を、いつまでたっても持ってこない。真面目な美咲には、許せない行為だ。
     同じく実行委員の哲太は、和也が写真を持ってこない理由に気づくが、それを美咲たちに伝えられないでいる。

     

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著者プロフィール

作家。都留文科大学卒業。公立中学校で国語教諭として勤務後、塾講師、学習支援塾スタディアドバイザーなどを経験。2016年、『15歳、ぬけがら』で、第57回講談社児童文学新人賞佳作入選。

「2017年 『YA! アンソロジー ひとりぼっちの教室』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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