小さな犬

著者 :
  • 白泉社
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本棚登録 : 58
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本
  • / ISBN・EAN: 9784592761181

感想・レビュー・書評

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  •  私の中では、どの絵本にも必ず猫が描いてあることから(テーマが猫で無くても)、猫絵師と呼んでいた、猫好きの町田尚子さんが、デビュー絵本では、なんと犬が主人公である上に猫の絵が一切無いということで、これは読むしかないでしょと、借りてみました。

     ネットの一般情報として、本書はほのぼの系とのことですが、私の知る町田さんは、何気に笑いや不穏さを含んでいる場合もあるため、読む前から何となく身構えてしまうものもあるんですよね。

     例えば表紙の絵にしても、やわらかい青空の下でシロツメクサや蝶を優しく見つめる、なんとも愛らしい「小さな犬」の仕種に癒される、牧歌的で和やかな風景の中、臙脂色のワンピースを着て佇む女の子だけ、ちょっと浮いているかなーと。いや気のせいだな、きっと。


     物語は、小さな犬が誰かの泣き声を聞く場面から始まる。

    「ボクは小さな犬だけど、とっても耳がいいんだよ」

     小さな犬の言う通り、そこには泣いている女の子がいて、何故かと尋ねると、

    「わからないけど、なんだかとても悲しいの」

     それに対して、「ボクにできること、なにかあるかな?」と考える、小さな犬の優しさが、なんとも心強く感じられて、犬は人間に対して、真っ直ぐで忠実なイメージがあるから、それが投影されているのかもしれない。

     すると女の子は、おもむろにワンピースの第2ボタンの辺りを右手でつまんでみせて、どうやら、そこだけボタンが無いのが小さな犬にも分かったようだ。

    「それだったら、もう、だいじょうぶ。
    ボクは小さな犬だけど、とっても鼻がいいんだよ。
    ボクがすぐにみつけてあげる」

     その後、次のページで本当にすぐ発見した、小さな犬。これで女の子も悲しくないと思ったら、

    「ありがとう。でも、なんだかまだ悲しいの」

     おっと、それだけじゃ無かったのか。
    まあ、そういうこともあるよね。これに対して、小さな犬も特に気にすることなく、
    「ボクにできること、まだなにかあるかな?」と考えていたら、女の子の右膝の辺りに血が滲んでいることに気付き、

    「ひざのケガがいたくて泣いているの?」

    「さっき、いじめっこにおいかけられて、ころんだの。
    でも、もう、へいき」

    「そうか、わかったぞ。
    いたいから泣いているんじゃなくて、
    いじわるされたことが、悲しくて泣いているんだね?
    それだったら、もうだいじょうぶ。
    ボクは小さな犬だけど、とってもつよいんだよ。
    ボクがいじめっこを、こらしめてあげる」

     うん、それだね。さすがの名推理だなと、思わず感心してしまった私だが、その後の、女の子が後ろから何も言わずにそっと見守る中、小さな犬が男の子(いじめっこ?)を追いかけている絵が面白く感じられたのは、私だけだろうか。何となく絵の雰囲気がね。でもこれでやっと解決したか。

    「これでもう悲しくないでしょう?」

    「ありがとう。でも、なんだかまだ悲しいの」

     んっ? これは雲行きがあやしくなってきた気配なのか、それとも・・・いや、何を言っているんだ。それでも「ボクにできること、まだなにかあるかな?」と、小さな犬が考えているのに、私が信じないでどうする。きっと女の子には悲しいことが三つ、たまたま重なったんだよね。あるいは、絵本の面白さの一つである、繰り返しの妙なのかもしれないが。

    「そうか、わかったぞ。
    きっと、おなかがすいているんだよ。
    おなかがすくと悲しくなるって、聞いたことがあるもの。
    それだったら、もうだいじょうぶ。
    ボクは小さな犬だけど、とっても、ものしりなんだよ。
    ボクが、パン屋さんにつれていってあげる」

     見たところ、首輪は付けていないので、野生の犬なのであろうが、それにしても、あんた凄いね!! もう『小さな犬だけど』の逆接が効き過ぎて、寧ろ天才なのではと私には思えてきたよ。

     ただ、それに反して、パンを買う女の子の表情が未だに暗いままなのが気になるけれど(それでも犬の分も買ってあげる優しさが)、と思ったら、やはり女の子は悲しそうに泣き続け、しかし、それでも挫けずに小さな犬は健気に考え続ける。頑張れ!!

     だが、どんなに一生懸命考えても・・・。

    「ボクにできること、もうなにもないみたい。
    ボクは、ただの小さな犬だから……」

     そうか・・・。でも、これだけ何度も女の子の為にできることをしたんだから、堂々と胸張っていいと思うし、それに、もうただの小さな犬とは思えないから、そんなに悲しそうな顔しないでよ。

     しかし、物語はこれでは終わらなかったのです。


     本書で小さな犬が教えてくれた、とても大切なこと、それは女の子をどこまでも信じ抜く、その献身的な姿であり、特に最後の場面のスローモーションのように描かれた、犬ならではの行動によって、初めて女の子の表情が劇的に変化した、その町田さんの絵の確かな説得力には、もしかしたら犬がいなければ、女の子はいつまでも悲しいままだったのかもしれない、そんな思いに至ることで、初めて犬の絶対的存在価値を見出せたような、感慨深い気持ちを抱くことができました。

     それは本書の見返しにある、ちょっとした仕掛けにも表れているようで、犬で始まり、シロツメクサで終わる、そんなメッセージには、まるで犬が幸運を運んでくるような素敵な印象を抱かせて、犬が好きな方には間違いなく、おすすめできる絵本だと思います。

    • なおなおさん
      こんにちは。
      町田尚子さんのデビューは「犬」なのですね。面白いです。
      優しいお話だなと思いました。
      これだけやっても女の子がまだ悲しそうな顔...
      こんにちは。
      町田尚子さんのデビューは「犬」なのですね。面白いです。
      優しいお話だなと思いました。
      これだけやっても女の子がまだ悲しそうな顔をしていると。もしかして、「君(犬)とずっと一緒にいたいよ」と女の子が望んでいるのでは?なーんて。
      話変わりますが、春に絵本「はるねこ」を読みました。その後にたださんのレビュー。なるほどーと気付かされ、自分の読みの浅さに登録とレビューができずにおります^^;
      2024/05/14
    • たださん
      なおなおさん、こんばんは。
      コメントありがとうございます(^^)

      そうなんですよ。
      久しぶりに町田さんの絵本を読もうと思って、市の図書館の...
      なおなおさん、こんばんは。
      コメントありがとうございます(^^)

      そうなんですよ。
      久しぶりに町田さんの絵本を読もうと思って、市の図書館の予約サイトで検索していたら、デビュー作が犬だったことに驚いて、気になって借りてみたら、思いの外、良かったです。機会がありましたら是非。

      それから、女の子が悲しみから立ち直れない理由について、なおなおさんのそれは、強ち間違っていないかもと思いました。
      今になって私が思ったのは、もっと深いものがあったのかなと感じまして、何か理屈では無い感覚的なものとして、いつまでも消えないような、そんな辛さをも癒してしまう、小さな犬の素晴らしさは、そのまま犬の素晴らしさに感じられました。

      四季ねこシリーズは、絵を描く人が変わるだけで、あれだけ雰囲気が変わるのが凄いですよね。物語をそれぞれに書き分ける、かんのさんも凄いのでしょうが。「なつねこ」も楽しみです。

      なおなおさんの「はるねこ」のレビュー読んでみたいです。
      レビューに正解など無いと思いますし、私も自分のそれが正解だとは思っていません。
      ただ、なおなおさんがどう感じられたのかが知りたくて。

      それに、私の場合は好き勝手に書いているだけなので、もしかしたら、絵本のそれで随分ややこしいこと書いてるなと、キョトンとされる方もいるかもなんて思ったり(^^;)
      時折、これはお勧めしたいと思ったものや、小さいお子さんに向けたもの等は、書き方を変えたりしてますがね。あと、個人的に好きが前に出過ぎるものもそうです。
      2024/05/14
  • 町田尚子 著「小さな犬」、2007.6発行。とてもやさしい小さな犬と女の子のほのぼのあたたかい物語(絵本)です。

  • 2014.5月 市立図書館

    とても丁寧な絵とお話。

  • 自分にできることを頑張って相手のために尽くしたら…最後には。

  • どこかのカフェで読んだ絵本。

    犬の健気な感じがいい感じ。

    ほんわかした気持ちになる。

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著者プロフィール

1968年東京都生まれ。画家、絵本作家。武蔵野美術大学短期大学部卒業。絵本作品に『ネコヅメのよる』(岩崎書店) 『ねことねこ』(こぐま社)『ねこはるすばん』(ほるぷ出版) 『なまえのないねこ』(竹下文子・文/小峰書店)など。画集に『隙あらば猫』(青幻舎)がある。

「2023年 『ひげよ、さらば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

町田尚子の作品

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