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- / ISBN・EAN: 9784592761181
感想・レビュー・書評
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私の中では、どの絵本にも必ず猫が描いてあることから(テーマが猫で無くても)、猫絵師と呼んでいた、猫好きの町田尚子さんが、デビュー絵本では、なんと犬が主人公である上に猫の絵が一切無いということで、これは読むしかないでしょと、借りてみました。
ネットの一般情報として、本書はほのぼの系とのことですが、私の知る町田さんは、何気に笑いや不穏さを含んでいる場合もあるため、読む前から何となく身構えてしまうものもあるんですよね。
例えば表紙の絵にしても、やわらかい青空の下でシロツメクサや蝶を優しく見つめる、なんとも愛らしい「小さな犬」の仕種に癒される、牧歌的で和やかな風景の中、臙脂色のワンピースを着て佇む女の子だけ、ちょっと浮いているかなーと。いや気のせいだな、きっと。
物語は、小さな犬が誰かの泣き声を聞く場面から始まる。
「ボクは小さな犬だけど、とっても耳がいいんだよ」
小さな犬の言う通り、そこには泣いている女の子がいて、何故かと尋ねると、
「わからないけど、なんだかとても悲しいの」
それに対して、「ボクにできること、なにかあるかな?」と考える、小さな犬の優しさが、なんとも心強く感じられて、犬は人間に対して、真っ直ぐで忠実なイメージがあるから、それが投影されているのかもしれない。
すると女の子は、おもむろにワンピースの第2ボタンの辺りを右手でつまんでみせて、どうやら、そこだけボタンが無いのが小さな犬にも分かったようだ。
「それだったら、もう、だいじょうぶ。
ボクは小さな犬だけど、とっても鼻がいいんだよ。
ボクがすぐにみつけてあげる」
その後、次のページで本当にすぐ発見した、小さな犬。これで女の子も悲しくないと思ったら、
「ありがとう。でも、なんだかまだ悲しいの」
おっと、それだけじゃ無かったのか。
まあ、そういうこともあるよね。これに対して、小さな犬も特に気にすることなく、
「ボクにできること、まだなにかあるかな?」と考えていたら、女の子の右膝の辺りに血が滲んでいることに気付き、
「ひざのケガがいたくて泣いているの?」
「さっき、いじめっこにおいかけられて、ころんだの。
でも、もう、へいき」
「そうか、わかったぞ。
いたいから泣いているんじゃなくて、
いじわるされたことが、悲しくて泣いているんだね?
それだったら、もうだいじょうぶ。
ボクは小さな犬だけど、とってもつよいんだよ。
ボクがいじめっこを、こらしめてあげる」
うん、それだね。さすがの名推理だなと、思わず感心してしまった私だが、その後の、女の子が後ろから何も言わずにそっと見守る中、小さな犬が男の子(いじめっこ?)を追いかけている絵が面白く感じられたのは、私だけだろうか。何となく絵の雰囲気がね。でもこれでやっと解決したか。
「これでもう悲しくないでしょう?」
「ありがとう。でも、なんだかまだ悲しいの」
んっ? これは雲行きがあやしくなってきた気配なのか、それとも・・・いや、何を言っているんだ。それでも「ボクにできること、まだなにかあるかな?」と、小さな犬が考えているのに、私が信じないでどうする。きっと女の子には悲しいことが三つ、たまたま重なったんだよね。あるいは、絵本の面白さの一つである、繰り返しの妙なのかもしれないが。
「そうか、わかったぞ。
きっと、おなかがすいているんだよ。
おなかがすくと悲しくなるって、聞いたことがあるもの。
それだったら、もうだいじょうぶ。
ボクは小さな犬だけど、とっても、ものしりなんだよ。
ボクが、パン屋さんにつれていってあげる」
見たところ、首輪は付けていないので、野生の犬なのであろうが、それにしても、あんた凄いね!! もう『小さな犬だけど』の逆接が効き過ぎて、寧ろ天才なのではと私には思えてきたよ。
ただ、それに反して、パンを買う女の子の表情が未だに暗いままなのが気になるけれど(それでも犬の分も買ってあげる優しさが)、と思ったら、やはり女の子は悲しそうに泣き続け、しかし、それでも挫けずに小さな犬は健気に考え続ける。頑張れ!!
だが、どんなに一生懸命考えても・・・。
「ボクにできること、もうなにもないみたい。
ボクは、ただの小さな犬だから……」
そうか・・・。でも、これだけ何度も女の子の為にできることをしたんだから、堂々と胸張っていいと思うし、それに、もうただの小さな犬とは思えないから、そんなに悲しそうな顔しないでよ。
しかし、物語はこれでは終わらなかったのです。
本書で小さな犬が教えてくれた、とても大切なこと、それは女の子をどこまでも信じ抜く、その献身的な姿であり、特に最後の場面のスローモーションのように描かれた、犬ならではの行動によって、初めて女の子の表情が劇的に変化した、その町田さんの絵の確かな説得力には、もしかしたら犬がいなければ、女の子はいつまでも悲しいままだったのかもしれない、そんな思いに至ることで、初めて犬の絶対的存在価値を見出せたような、感慨深い気持ちを抱くことができました。
それは本書の見返しにある、ちょっとした仕掛けにも表れているようで、犬で始まり、シロツメクサで終わる、そんなメッセージには、まるで犬が幸運を運んでくるような素敵な印象を抱かせて、犬が好きな方には間違いなく、おすすめできる絵本だと思います。 -
町田尚子 著「小さな犬」、2007.6発行。とてもやさしい小さな犬と女の子のほのぼのあたたかい物語(絵本)です。
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2014.5月 市立図書館
とても丁寧な絵とお話。 -
自分にできることを頑張って相手のために尽くしたら…最後には。
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どこかのカフェで読んだ絵本。
犬の健気な感じがいい感じ。
ほんわかした気持ちになる。
町田尚子さんのデビューは「犬」なのですね。面白いです。
優しいお話だなと思いました。
これだけやっても女の子がまだ悲しそうな顔...
町田尚子さんのデビューは「犬」なのですね。面白いです。
優しいお話だなと思いました。
これだけやっても女の子がまだ悲しそうな顔をしていると。もしかして、「君(犬)とずっと一緒にいたいよ」と女の子が望んでいるのでは?なーんて。
話変わりますが、春に絵本「はるねこ」を読みました。その後にたださんのレビュー。なるほどーと気付かされ、自分の読みの浅さに登録とレビューができずにおります^^;
コメントありがとうございます(^^)
そうなんですよ。
久しぶりに町田さんの絵本を読もうと思って、市の図書館の...
コメントありがとうございます(^^)
そうなんですよ。
久しぶりに町田さんの絵本を読もうと思って、市の図書館の予約サイトで検索していたら、デビュー作が犬だったことに驚いて、気になって借りてみたら、思いの外、良かったです。機会がありましたら是非。
それから、女の子が悲しみから立ち直れない理由について、なおなおさんのそれは、強ち間違っていないかもと思いました。
今になって私が思ったのは、もっと深いものがあったのかなと感じまして、何か理屈では無い感覚的なものとして、いつまでも消えないような、そんな辛さをも癒してしまう、小さな犬の素晴らしさは、そのまま犬の素晴らしさに感じられました。
四季ねこシリーズは、絵を描く人が変わるだけで、あれだけ雰囲気が変わるのが凄いですよね。物語をそれぞれに書き分ける、かんのさんも凄いのでしょうが。「なつねこ」も楽しみです。
なおなおさんの「はるねこ」のレビュー読んでみたいです。
レビューに正解など無いと思いますし、私も自分のそれが正解だとは思っていません。
ただ、なおなおさんがどう感じられたのかが知りたくて。
それに、私の場合は好き勝手に書いているだけなので、もしかしたら、絵本のそれで随分ややこしいこと書いてるなと、キョトンとされる方もいるかもなんて思ったり(^^;)
時折、これはお勧めしたいと思ったものや、小さいお子さんに向けたもの等は、書き方を変えたりしてますがね。あと、個人的に好きが前に出過ぎるものもそうです。