- Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
- / ISBN・EAN: 9784594088033
作品紹介・あらすじ
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感想・レビュー・書評
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大戦中に迫害を受けるユダヤ人の悲哀 ゲシュタポとレジスタンス 紙一重の駆け引が痺れる #狼たちの城
■あらすじ
第二次大戦中、ユダヤ人である古書店主の主人公に、ポーランドへの移送通知が届く。不安に思った彼は、自身の安全と家族を守るために、レジスタンスに所属するかつての恋人に協力を求めた。
一方、ドイツ秘密警察が駐留している城では、人気女優の殺害事件が発生する。しかし事件を捜査するはずだった特別捜査官は、現場への移動中にレジスタンスに襲われてしまう。
レジスタンスは主人公の彼に、特別捜査官に成りすますように告げるのだった。
■レビュー
第二次大戦中のドイツ舞台に繰り広げられる、歴史&冒険ミステリーです。
そのまま海外ドラマになっても良いくらい、展開がお見事で、シンプルに読んでいて面白い! ★5
これまで大戦中のスパイ小説や映画は、いくつか体験したことがありますが、他に負けないくらい素晴らしい作品でしたね。
話の筋としては大きく二つ、殺人事件の解決と秘密文書の入手。さらにユダヤ人とドイツ軍高官との入れ替わりのサスペンスが、さらに物語を盛り上げていきます。
始まりから終わりまで、次にどう話が転がるか全く分からない、ひりつく場面が目白押しです!
とにかく特にレジスタンスたちの命を張った、ギリギリのやり取りがスゴイんです。
ばれちゃう? うまくいくの? どこにいったの? そんなの無理だろ! え、さらに裏切者がいるの?! なーんて驚きと感情が、次々押し寄せてきます。
そしてやはり本書を読む中で一番強烈なのは、戦争がもたらす罪の描写。
ユダヤ人の迫害…いかに教育が重要であるか。
権力者にとって都合の良い情報や知識を与えることで、群衆は悪魔のごとく育ってしまう。彼らの財産、自由、生命すら奪うことが、むしろ「正義」とされている価値観がヒドイ。たった80年前に行われていた現実を目の当たりにし、強烈に胸を打たれました。
また権力を持つことの恐ろしさが切々と語られていきます。
権力者がただそこに存在しているだけで、恐怖を吹き込んでいくのです。
民衆は決して欲望や悪意でユダヤ人を迫害しているわけではない。自らの安全を担保するために、弱者や悪者と定義して叩くしかないのです。人間性を失っていく様子は、まさに戦争がもたらす不幸で見るに堪えませんでした。
■推しポイント
良い人間が戦わなければ、悪い人間が勝利する。
主人公が成長するきっかけとなった、女性レジスタンスが言ったセリフです。
当たり前のように聞こえるシンプルなセリフですが、はたして自らの生命を賭けることができるでしょうか。
遠い場所で繰り広げられる戦争、我々はぼんやりと他人ごとのようにテレビで見ています。自分自身が戦うということ、そのために行動することがいかに大事か。肝に銘じておかねばならないと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1942年3月のニュルンベルクで、ナチス高官の愛人が殺害された。
同じ時期にユダヤ人移送計画が進められていて、ユダヤ人である主人公イザークはそれを逃れるためにゲシュタポの身分証を手にするのだが、なんとゲシュタポに間違われたまま殺人事件の捜査をすることになるのだ。
万が一にも別人、しかもユダヤ人であると見破られるわけにはいかない。
彼はただの古書店主なのに、事件を解決することが出来るのか。
暗い歴史的背景は無視できないとしても、フィクションのスパイミステリとして楽しんだ。
敏腕捜査官に扮しているから、期待に満ちた目で見てくる部下の前で探偵小説の主人公のように振る舞ったり、本物の捜査官の昔の友人が現れたり。
怪しまれていないか、バレるんじゃないか、ドキドキする。
そして、うわー、この終わり方。その先を想像すると、どうなっちゃうんだと怖いもの見たさで落ち着かない。
続編があるらしいので、日本でも出版されますように。 -
アレックス・ベール『狼たちの城』扶桑社ミステリー。
第二次世界大戦末期のドイツを舞台にした冒険探偵ミステリー小説。
非常に面白い。古くはボブ・ラングレーの『北壁の死闘』、ジャック・ヒキンズの『鷲は舞い降りた』、近年ではハリー・ファージングの『汝、鉤十字を背負いて頂を奪え』など、意外にナチス物はハズレが無いように思う。
迫害される主人公のユダヤ人古書店主がナチスの親衛隊に扮して、ナチスの深部に潜入し、戦争の早期終結のために活躍するというストーリーで、さらにはこの主人公が探偵役まで果たすというのだから、たまらない。
第二次世界大戦の末期、ナチスによるユダヤ人迫害が続く中、ニュルンベルクのユダヤ人古書店主イザークと家族のもとに突然ポーランド移送の通達が届く。ただならぬ事態を予感したイザークはかつての恋人でドイツ人でレジスタンス活動に関わるクララを頼る。彼女はイザークの家族を安全な場所へ匿い、イザークのためにはゲシュタポの特別犯罪捜査官アドルフ・ヴァイスマン名義の偽の身分証を用意した。しかし、それはクララが所属するレジスタンスの命運を賭けた危険な計画だった。
何も知らないイザークは特別犯罪捜査官アドルフ・ヴァイスマンに間違えられ、ナチスが接収した城内で起きたドイツの大人気美人女優ロッテ・ラナー殺人事件の捜査に臨むことになるのだが……
イザークの運命や如何に……
帯にスティーヴン・ハンターの新刊『Basil's War』(原題)が2021年8月2日発売予定という物凄く楽しみなお知らせが!
定価1,320円
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ユダヤ人がゲシュタポ捜査官として大活躍??『狼たちの城』 - 扶桑社ミステリー通信
http://www.fusosha.co.jp/mysteryblog/2021/06/post-376.html
狼たちの城 アレックス・ベール(著/文) - 扶桑社 | 版元ドットコム
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784594088033-
書評七福神の六月度ベスト! - 翻訳ミステリー大賞シンジケート(2021.7.15)
https://honyakumystery.jp/1...書評七福神の六月度ベスト! - 翻訳ミステリー大賞シンジケート(2021.7.15)
https://honyakumystery.jp/17788
歴史パズルの最終解決は? 野崎六助氏が選ぶ3冊: 日本経済新聞(2021年6月10日 有料会員限定)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD018CA0R00C21A6000000/2022/07/06
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ユダヤ人の古本屋主人が家族を守るために、かつての恋人を頼る。恋人は家族を助ける代わりに主人公にゲシュタポ(ナチスの秘密警察)に変装し、彼らの住居で発生した殺人事件を捜査しつつ、本来の目的である秘密文書を見つけろという要求をしている。というのが物語のあらすじ。このあらすじだけで勝ったようなものでしょう。ここまで盛り込まれた展開も珍しい。正体がバレたら=死という極限状態の中で読書で仕入れた昔のミステリー(ホームズなど)を駆使しつつ奮闘するさまは身震いもの。密室殺人の謎も見事に絡ませながらエンタメ度抜群の秀作。
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優先度の高いナチスもの。第二次大戦中のニュルンベルグが舞台です。ナチスの迫害を逃れようとしたユダヤ人の古書店主イザークは、ナチス親衛隊の将校にして腕利き捜査官のヴァイスマンになりすまして、難事件の捜査を指揮する羽目に。そんなに上手く行くものかと思いましたが……最後は何だか「続編」がありそうな終わり方でした。と思ったらあるみたい(未訳だけど)
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1942年ニュルンベルク。ユダヤ人イザークは家族6人全員が収容所に送られる直前。レジスタンスと関係のある元彼女のクララに何とか出来ないかと頼むと・・・ナチス親衛隊中佐の家で著名な女優が殺害された。守衛がいて、人の出入りは厳密にチェックされていた。事件解決のためにベルリンから敏腕捜査官のアドルフ・ヴァイスマンが送られてきた。クララがイザークのために用意してくれたのはヴァイスマンのパスポートだった。イザークはヴァイスマンになりすまして事件を解決しなくてはならなくなった。
めっちゃくちゃ面白かった。ユダヤ人がどういう目に会うのかの臨場感、事件解決のプレッシャーが凄い。私は必ずしも主人公に自分を投影して読まないのだけれど、本作はなぜかイザーク=ジブンで読んでしまった。 -
ちょっと昔の新人賞候補作みたいだった。
(受賞はしてないけど、後日ひっそり販売されてるようなやつ)
ご都合主義と紙一重の強引な展開とか、自分の意思と関係なく巻き込まれたはずなのに、突然万能キャラへ変貌する主人公とかが、それっぽい。
どことなく懐かしかった(笑)
訳者あとがきにあるように「密室ものにて、スパイ小説、冒険小説」の要素がこれでもかと散りばめられているけど、盛り込みすぎて、どれも中途半端。
そのせいか、ラストが近づくにつれて、いろんな要素が駆け足で解決していく。
最初は期待に胸が膨らんでいたけど、中盤あたりからどんどん展開が雑になっていくにつれ、読むテンションがどんどん下がっていった。
前半の期待値は星4つ。
けど最終的にはギリギリ星3つ、というところ。
ドイツを舞台にしたものでいうと、深緑野分の『ベルリンは晴れているか』が好きな人なら気にいるかもしれない。