豪腕 使い捨てされる15億ドルの商品

  • ハーパーコリンズ・ ジャパン
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784596551184

感想・レビュー・書評

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  • 松坂やダルビッシュなどお馴染みのMLB投手についても言及されたピッチャーの肘を中心とした故障に関する諸問題.MLBをはじめ,プロ野球は如何に好投手でも,ひじの故障のうわさがたてば市場価値を下げてしまうと言ったシビアな世界です.10代にしてトミージョンを受けざるを得ないアメリカの子供もいるそうで,如何に障害を避けつつ,良いスポーツ選手とするか,についてはアメリカも途上であることが理解されます.

    多くのスポーツ好きが知るべき内容と思いますが,訳文が直訳っぽくて,これなら原文の方が読みやすそうと思えるのが残念なでした.

  • 肘の故障につながりやすいのは、投げすぎが原因だとか、いや速球だフォークだといろいろ言われてきたが、つまるところピッチングという、その他の人体の動きに匹敵するものがないと評されるほどの、爆発的な運動エネルギーの蓄積と解放に、そもそも根本があるという事実。
    しかもその動作を、先発投手ならその日のうちにあと99回は繰り返さねばならならず、少しでも長持ちさせたいなら一定のリズムと回転と時間のうちに終えねばならぬという、ほとんど無理ゲーの正確さと繊細さ。
    マウンドの状態、暑い日寒い日など一つの試合には無数の変数があるにもかかわらず、だ。

    しばしば断裂し再建手術が必要なUCLを守る前腕筋が注目を集め、筋肉の状態をモニターすることで、故障前にある程度の予測や診断が付くようになると期待されている。
    同じ球数を投げてもある投手は健康なのに、別の投手は故障してしまう原因の解明にも道を開くものだ。
    しかしそれでもどう鍛えるかはやはり重要で、バウアーの実験はとても参考になる。
    どんな環境でも思いどおり球を操れるようになるには、日々のトレーニングに無数の変数を盛り込むこと、毎回球の重さを変え、足の疲れを変えて投げ込むことで、体に微妙なズレの解消法を覚えさせる。

  • 米スポーツキャスターによる、野球の投手が受ける肘の手術(トミー・ジョン手術)について書かれた本。キャスターらしく、多くの関係者に取材し、肘に問題を抱えるまでの経緯や不安、手術を受けるかどうかの決断、リハビリから復帰までの苦悩をドキュメント的に記している。わかりやすく、読みやすい。肘の問題は投手の宿命のようだが、今後研究が進み、どこまで改善されていくのかを見守りたい。
    「毎シーズン、投手の半分以上が故障者リストに載り、その期間は平均2か月。今日の大リーグでは投手の1/4の肘にトミー・ジョン手術によるジッパーのような傷跡がついている」p10
    「カーブは単純な速球より腕にかかる負担が小さい」p48
    「1976年4月16日、トミー・ジョンは大リーグのマウンドに戻ってきた。その後、彼が先発機会を逃すことはなかった。手術から復帰後、計382度の先発マウンドに上がった。31歳以上でUCL再建手術を受けた投手のうち、彼に次ぐ投手の2倍以上になる」p74
    「投手の球数は減っているのに腕を痛める投手は増えている」p131
    「(トミー・ジョン手術)1985年には手術を受けた選手は50人もいなかった。以来、世界各地でさまざまな年齢にわたり1万人くらいの選手がこの手術を受けてきた」p183
    「科学を総動員し、球数を制限して、赤ん坊のように大切に腕を扱っているが、その結果はどうか。肘の故障はこれまでより増えているではないか」p254

  • メジャーリーグでは毎年多くの投手が肘の手術で戦列を離れている。ウエストブルック、ストラスバーグ、ハービーといった超一流投手が内側則副靭帯(UCL)再生手術、いわゆるトミー・ジョン手術を受けている。日本人投手でも、大塚、田澤、和田、松坂、藤川、ダルビッシュが相次いで肘の手術のために離脱した。田中も手術は選択しなかったが一時期肘を痛めて離脱した。この本は、メジャーリーグにおけるこのような肘故障禍に関する人間ドラマである。多くのアメリカのノンフィクションがそうであるに、この本も個々の人間の人生に焦点を当てつつ、そこから全体の枠組みとそこに対する批判を重ね合わせている。

    著者の視点は、アメリカのユース野球の実情にもフォーカスを当てている。PG社が主催する大会は青田買いの場になっており、若いうちにそこで無理をしてしまうことが問題を起こしているのではと示唆する。トミー・ジョン手術の若年齢化や増加に対してもデータと情報を示し、警鐘を鳴らしている。同じように、日本の高校野球の現状も取材し、済美高校の安樂投手や横浜高校時代の松坂にも言及されている。ただ、単純に善悪を決めず、様々な声を拾うことに重きを置いているように感じる。
    トミー・ジョン手術が生まれるときの瞬間をトミー・ジョンその人やフランク・ジョーブ博士に取材して描いているが、その筆致もその場にいたかのようなものになっている。

    プロスポーツのコンテンツとしての価値が上がるにしたがって、投手の肘はますますより貴重なものとなっている。手術をしても再生させようとするし、肘の故障を避けるために様々なことをトライしようとする。先発投手が100球を目途に交代するようになったことも今では当たり前のように受け入れている。球数もリアルタイムに表示されるようにもなった。それでも、肘の故障は直らない。1試合の球数も、登板間隔も実証的な結論が出ているわけではない。


    この本で取り上げられたジョン・レスターは、2016年カブスに復帰し、19勝5敗の成績を残し、100勝を超えた素晴らしいレギュラーシーズンにおいて貢献108年ぶりとワールドシリーズ制覇に貢献した。ダルビッシュ有も2016年のうちに復活してきた。トミー・ジョン手術には成功の歴史がたくさん含まれる。

    一方で、この本で取材を受けてその心の葛藤を描かれたトッド・コフィ―はおそらくは熱望していたメジャーに復帰することは難しいだろう(※)。ダニエル・ハドソンはリリーフとして何とか復帰することができた。和田、松坂、藤川はうまくいかなかったパターンだろう(いずれも日本球界に復帰することになったが)。

    きちんとした取材と、取材対象に対する敬意と愛情に満ちたノンフィクション。『マネーボール』や『コンカッション』などアメリカの優れたスポーツノンフィクションはとても素敵だ。トミー・ジョン手術の功罪や、投手の肘を守りつつそこから最大のチームへの貢献を引き出すための方法はいまだ確立されていない。


    解説の斎藤隆さんは肘に靭帯がない状態で投げ続けていたという。おそらくはすでに若いころからなかったのではないかという。それでもメジャーに来てから他の筋力を鍛えることで球速が上がり159キロのボールを投げられるようになったという。不思議なこともあるものだ。



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    (※)トッド・コフィ―が2017年8月15日に引退を表明した。
    https://twitter.com/JeffPassan/status/897164239714091008/

    この本を読んでいるとこうした引退のひとつひとつの裏に長きにわたるあがきと大いなる葛藤とがあることがわかる。
    なお、この引退表明(上記のリンク)はトッドからこの本の著者ジェフ・パッサンにTwitterへの投稿を依頼したものである。

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    『コンカッション』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4094062807

  • 華やかな豪腕の影に、累々と築かれるトミージョン手術の失敗例。日本の旧態然とした育成法、管理法への考察もあり。

  • ブクログのプレゼントで当選しました。
    プロ野球の投手はなぜ故障するのか。連投、球数、投げ込み、球速が上がったことによる肘の負担の増加。 毎日のように有望選手が故障していながらも、メジャーリーグは故障原因を研究しようとせず、投手を次々と使い捨てにしている現状に警鐘を鳴らす。 アメリカ人の著者が遥々日本まで取材に訪れ、高校野球の連投は虐待ではないのか? 高校時代の投げ込みが投手の将来を奪っているのではないかと疑問を呈する。
    野球ファンでありながら大リーグ、高校野球には疎いので、知らない情報ばかりで面白かった。
    トミージョン手術を受けたダルビッシュに言及されている箇所も多く、改めて大リーグでも注目されている選手なんだなと感じた。

  • 伝説のマー君VSハンカチ王子の24イニングの甲子園決勝戦は美しき決闘か、それとも虐待か?将来のプロでの収益最大化を企図して投げ込みを制限するのは自己への最適投資か、それともチームを顧みない我儘か?-非常に考えさせられる本。ダルビッシュを筆頭に才能がある投手の腕が次々と壊れていき、故障知らずのジョン・レスターが「無事之名馬」とばかりにカブスとの超高額の契約をモノにする。一律の解はなく、「運」と片づけたくなるところを、「じゃあ治す」「じゃあ予防する」という方向で努力する人たちの姿が美しく映る。いち時代の見事なスナップショット。10年後に「ああ、昔はこんな怪我が多かったんだ」と思えるくらいの進歩を期待したい。

  • 次の野球界を担う子どもたちの腕が危ない。

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