ヤングケアラー 介護する子どもたち

  • 毎日新聞出版
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感想 : 32
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620327150

作品紹介・あらすじ

全国に3万人以上いるといわれている「ヤングケアラー」。
毎日新聞の報道により明らかになった経緯とその実態、最新情報を本書で描く。

感想・レビュー・書評

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  • 少し前から気になっていた言葉「ヤングケアラー」。
    テレビなどでも取り上げられるようになってきたので、気づいたらチェックするようにしてきた。
    その「ヤングケアラー」が世間に認知されるようになったきっかけをつくった報道のドキュメント。
    新聞社の取材班が執筆しているので、調査データなどをベースに説得力があり、読みものとしても読みやすく仕上がっている。
    これまでに「存在」はしているけど「認知」はされていなかった弱者を「発見」して、社会を動かしていく。記者冥利につきるだろうそのエキサイティングな熱量を、共に感じられる本だ。
    「ヤングケアラー」の問題は、本人にその自覚がない、家族の問題を他人に知られたくない、などの理由から発覚しづらく、周りの人が気づいても、それを支援に結びつける難しさがつきまとう。
    だがまずは、その言葉を世に広めるという大きな一歩に貢献した取材班に敬意を表したい。

  • 『ヤングケアラー 介護する子どもたち』(毎日新聞出版) - 著者:毎日新聞取材班 - 毎日新聞取材班による前書き | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
    https://allreviews.jp/review/5717

    第25回新聞労連ジャーナリズム大賞・優秀賞の毎日新聞連載を書籍化 『ヤングケアラー 介護する子どもたち』11月27日発売!|株式会社毎日新聞社のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000256.000032749.html

    “ヤングケアラー” 知ってほしい介護する子どものこと | NHK
    https://www.nhk.or.jp/shutoken/yc/

    ヤングケアラー 介護する子どもたち | 毎日新聞出版
    https://mainichibooks.com/books/essay/post-533.html

  • たぶん、本書で取り上げられている、毎日新聞が最初に取り組んだ「幼き介護」の記事は、リアルタイムでネット上で読んでいると思う。ちょうど児相で働き始めた頃で、児相的視点でいえばネグレクト、もしくは心理的虐待だな、と思っていた記憶がある。もちろん、その捉え方は、児相がケースとして介入するための端緒でしかない。必ずしも全てのケースが、一般的に皆がイメージする「虐待」にあたるわけではない。法律に基づいて動く以上、則った法的根拠を示すために、法律で定められた枠組みに当てはまることを明示する必要がある。児相で介入する枠組みで考えたら「ネグレクト」か「心理的虐待」になるという話だ。そのように、介入のための根拠でしかない場合もあるが、当然、本当にいわゆる虐待である場合もある。
    そうして介入できた家庭は支援につなげることができるが、あまりに要因が複合的すぎて、うまくハマる制度やサービスがないこともよくある。
    本書の中でも度々、ヘルパーさんがこっそり作ってくれた、とか、たまたま気にかけてくれた人がいて、とか、既存の制度とは外れたところでサポートされた事実が挙げられている。そもそもヤングケアラーという存在が認識されだしたのもごく最近なのだから、いわゆる制度なんてものはあるわけがないのが現実だ。ないところで、現場が苦肉の策として、半ばうっかりミスを装うように、ほんの少し子を手助けしたりすることも、ごく一部である程度だ。だけれども、子どもの立場でありながら、大人と同等の介護やケアを担わされている若年者が相当数いることが、データとしても明らかになったわけで、これはそのきっかけを作った毎日新聞の記事が果たした役割は大きい。
    当事者たちは、自分がヤングケアラーにあたるとは思わず、そもそもそんな名前も知らず、助けを求めていい立場であるなどとも夢にも思わず、ただひたすらその日その日をこなすことに精一杯だったのだ。それを国が把握して、どうにかしなければと動き出したらしいことに、ひとまずほっと胸をなでおろしたのは私だけではあるまい。
    再三本書内でも言われているように、現状では、そんな状況の子どもがたくさんいるんだよということを社会が知ることが、まずは取り組むべき課題なのだろう。当事者たちが自分はそれにあたるんだと理解して、話を聞こうとする大人たちがいる、そこからスタートしなければならない。先の長い話だ。
    以前、何かのレポートだったか講演だったか、当事者が「周囲の大人は自分の状況に気づいていたけど、『家族のために頑張っていてえらいね』と言われて、ああ頑張らなければいけないんだ、こうやって頑張っていないと認められないんだと思った」というのを聞いたことがある。おそらく周囲の大人は、誉めてあげようという前向きな気持ちなのだろうが、「頑張っている偉い子」という周囲の視線が、時にその子どもを追い込むこともあるのだ。
    未熟で多感で知識も経験もない、孤独なケアに追い込まれている若年者たちにいかに支援を届けるか。そのニーズも背景も、複合的で一筋縄ではいかない。知恵の絞りどころだろう。
    こども家庭庁なる新省庁が発足するという。名ばかりにならず、実効性のある働きを是が非でもしてもらいたいものだ。
    私は地域・行政・医療それぞれの立場で仕事の経験があるが、それぞれにできること、難しいこと、そこでの業務がそのようになってしまう理由がそれなりにある。だから本書に出てくる、行政や福祉の専門職が、無責任にも思える発言をするわけもそれなりにわかる。でも、だから問題なのだ。無責任に見える発言をしてしまうことに、現行の制度で一定の合理性があるということなのだから。
    さて、そんな私にも、なにか出来ることがあるだろうか。

  • 「あのショッキングな"ディズニーランドの日"を境に純一はヘルパーやケアマネジャーからキミコの介護について相談されるようになった」

    彼女とのデートが台無しになった中1の彼の転機。
    福祉に携わってきた中でおそらく同じ状況になったらそうしてしまったんかなと思います。
    それと同時に反省というか背筋が寒気なるというか「1人の人生を決めてしまう」ようなことをしてしまうことがあり得たんじゃないか。
    それも「無意識に」と思うとやってないのに怖くなります。

    この本はヤングケアラーの取材記録です。
    この本を読んで大人がどう考えるか。
    幼い子供でも家族がいたら介助者として巻き込んでしまうのがこれまでの福祉の考え方やったんやないか。
    介護保険が始まって20数年経ちました。
    それでも介護の中心は家族なんやと思います。
    単身高齢者が増える中で1人でも家族(キーパーソン)がいたら支援の負担を減らすために家族を巻き込んでいくんやないか。

    「えらい子」で済ますのではなくちゃんと社会に意識されない「透明な存在」の背景に向き合わないといけないと思います。
    この常識を変えていく必要があるんやと思います。
    僕が一時ロースクールに行って弁護士目指したのは役所ではアウトリーチ(届かない人に情報を届ける)ができないと思ったからなんです。
    今はだいぶ外に出かける公務員が増えたのですが絶対数が足りないです。
    「親孝行やねえ」
    「えらいねえ」
    で終わらせないでこんな子がいてるよって町内会でも情報共有して民生委員さんに届けてほしいです

    一気に読み切りました。
    読み終わるまでに何回かハンカチが必要になってσ^_^;
    毎日新聞取材班さんの報道に対するすごい熱量を感じました。
    これは良い本です。
    職場でも読むように勧めます。

  • 新聞連載をまとめただけじゃなかった。取材の経過をドキュメンタリーのような雰囲気でまとめてあって、新聞社の記者が社会問題にどう取り組んでいくのか、その様子も見えて、とても興味深い。
    もちろん、ヤングケアラーの問題は深刻で、彼らが勉強の機会が奪われている現状は、大人として「何か対応せねば」と思わせられるが、いかに「社会全般の問題」として認知を拡めていくかを考えたときに、本書が取り組んだ「知らない人たちへの説明」は、とても意義深いと思う。

  • ニュース源が主にラジオである私がヤングケアラーという単語を耳にし始めたのはここ1年くらいだったと思う。確か荻上チキさんの番組で取り上げられていたのを聞いて、そんな問題があったのかと衝撃を受けたのだが、この本ではヤングケアラーという語が含有する多岐にわたる若年者によるケアの実態(いわゆる老人の介護だけでなく、精神疾患や事故後の障害を抱える親のケア、きょうだいケア等々)を知ることに加え、毎日新聞社の取り組みやその根底にあった記者さん達の熱い思い、他方面での取材を重ねるうちに別の問題を発見するコツコツの努力の過程を知れて面白かった。

    読み始めてすぐに「隣のトトロのさつきちゃんもヤングケアラーだったのか?」と思ったのだが、それは私だけではなかったようで、本の中でもその議論が取り上げられている。彼女を見て「けなげ」「しっかりしたお姉ちゃん」という誉める対象として見る風潮は今も昔もあると思いつつ、それを見守る地域コミュニティの有無に時代の変遷による違いがあるという指摘にうなづいた。思えば、昔から介護も育児も看病も存在し、常にそれを担う人が家庭内にいたり、おしん的な奉公人がそれを担わされたりしてきたわけだ。だが、現代でこれが孤独な介護、老老介護、孤育て、ヤングケアラー問題となっているのは、もちろん長寿化によるものもあるのだろうが、個々のケアラーの孤独化が深刻になっているからなのだろう。

  • ヤングケアラーについての実態調査と実際にヤングケアラーからのインタビュー。経験談がとても良かった。1クラスに1人いる、とは。そこまで多いと思っていなかった。どのような基準でヤングケアラーなのか、家の手伝いや世話との違い、その見極めが難しいと感じた。学業や自分のしたいことを犠牲にしてまで家のことをしていること?大人でも家事と育児に振り回されて自分のしたいことなんてなかなか出来ないのが実際だと思うが、そことの違いは?大人と子ども?まだまだこれから周知されていく部分も多いのだろう。

  • コロナ禍において、これまで問題でありながら、世間では知られてない問題が明らかになった部分がある。コロナ禍という災害は弱い部分を鮮明にする。「ヤングケアラー」という言葉は知っていたが、実態について具体的に理解ができる本である。新聞記者が書いただけに読ませる文章であるし、コロナのニュースが主になるなかで、この問題を1面で報じ続けた毎日新聞もさすがだと思うが、この報道を契機に世論が動き、政策化していく流れは、メディアの力を見せてもらった感じがある。これからさらに調査が進み、また具体的な支援策が進んでいくことを期待し、状況を見守りたいと思う。

  • ヤングケアラーという言葉が知られるようになったのは本当に最近の事だった。ヤングケアラーという言葉自体が知られていなかった頃から、政府の支援につながるまでの経緯が、当事者への取材を挟みながら描かれている。毎日新聞の記者達の熱意によりヤングケアラーの実態が表に出てきたという事が伝わってくる。
    当事者のインタビューには心苦しくなるものが多く、虐待だと思われるようなケースもあった。虐待でなくとも毒親に近いのかもしれない。子供らしく子供時代を送れていないのだから、今後もそれが尾を引き、生きづらさになって欲しくないと切に思ったし、ヤングケアラーとして子供時代を過ごし大人になった人は、ケアから離れてもそれを引きずっていないか心配だ。
    そして、ヤングケアラーが誕生してしまう背景も切なかった。子供の純粋さと優しさ、親や家族を大切にするという心と、さらに圧倒的に知識がない、社会を知らない子供だからこそヤングケアラーとなってしまう。しっかりした子、偉い子だけで済ませてはいけない。
    しかしヤングケアラーといえどそれを決して否定していないケース(ケアを通して得たものがある、ケアは日常になっている)もあると知り、ヤングケアラー自体の線引きだったり、支援の介入が必要なのかどうかもそれぞれだと分かり、難しい問題だと感じた。
    いずれにしても、この本によりヤングケアラーと言うものが広まり、支援を必要としている子供、若者に手が差し伸べられることを祈りたい。

  • 後半の、ヘルパーがヤングケアラーの子どもたちの洗濯物だけ洗わなかったというエピソードから、ケアする人へのサポートが無いことのみならず、介護業界そのものも役所的になっている現状がよく分かる。

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著者プロフィール

2018年夏、毎日新聞東京本社編集編成局社会部の遊軍担当だった奥山はるな、堀智行、デスクを担当した篠原成行の3人を中心に構成。メンバーは、いずれも外国人や子ども、教育を取り巻く問題に関心があり、それぞれ取材を続けてきた。本書のベースとなり、毎日新聞の紙面で掲載しているキャンペーン報道「にほんでいきる」は、取材班が執筆した。

「2020年 『にほんでいきる 外国からきた子どもたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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