日本の進む道 成長とは何だったのか

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620327723

感想・レビュー・書評

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  • 藻谷浩介さんは、「経済成長」ありきの社会設計に疑問を呈する人。
    私も同じ考えで、成熟社会の維持継続を目指す政策に切り替えるべきだと思っている。

    「成長とは何だったのか」の藻谷さんの意見を聞きたかったのだが、話題が発散しすぎてよく分からなかった。

    本書は藻谷浩介さんが持論を語り、養老孟司さんに問いかけるというパターンで進む。
    藻谷さんの主張が養老さんに軽くいなされる場面がしばしばあって面白い。

    何故か、養老さんの振りで、南海トラフ巨大地震や富士山噴火の話題になる。
    コロナで今の社会の仕組みの不備が表面化しても、一部の軌道修正がなされただけで一気に改変する動きはない。
    もっと壊滅的な危機に遭遇しないと、根本的な考え方は変わらないというのが養老さんの意見。
    例えば、首都直下型地震で東京や神奈川が致命的なダメージを受けて初めて方針転換できるのだろうと。

    養老さんの「本気で考えるためには、本気で困らなければ無理ですよ」という達観した意見はその通りだと思った。
    環境問題にしろSDGsにしろ、自分の生活に影響が薄いうちは誰も真面目に考えない。

    教育論でも養老さんは面白いことを言う。
    東大医学部には医学を学ぶモチベーションがなくても、偏差値が高かったからという理由だけで入学してくる人がいっぱいいるのだそうだ。
    ○○大学○○学部卒という肩書だけが欲しい人にはすぐに辞めて貰い、勉強したい人だけが残るのがいい。
    なので、「大学に合格したら、すぐに卒業証書を与えよ!」と。


    私は「経済成長」は、目先の利益だけを計算して、後々の維持や保守のコストは無視した都合のいい考えだと思う。
    現在、日本は人口がどんどん減り、8軒に1軒が空家だというのに、近所でもマンションがバンバン建つ。
    とりあえず売れる時に造ってしまえば儲かるからだ。後先のことは考えていない。
    我が家もマンションだが、2度目の大規模修繕が近く、建築物は年月が経つと傷むことを実感している。

    東京に住んでいると、高層ビルの老朽化が心配事の一つ。
    コンクリートの中の鉄筋もさびるが、水の配管などが先にダメになる。
    赤坂プリンスホテルは38年で取り壊されたが、ホテル中に張り巡らされた排気管の老朽化を直すより壊す方が安かったからだという。
    もっと古い京王プラザホテルは大金をかけて修復工事をやったそうだ。
    新宿の高層ビル群は40~50年になるので大丈夫なのかなと見るたびに思う。
    築30年程の都庁も雨漏りしてるし、新宿駅も大雨が降ると雨漏りで水浸しになっている。

    30年後に悲惨な状態になりそうなのがタワーマンションらしい。
    高額な修繕費用がかかることが分かっているのに修繕積立費は低く抑えている。
    つまり、ほとんどのタワマンは補修費が全く足りていない。
    30年後には住民も高齢になり、修繕や取り壊しにお金を出す人はいないだろうと言われている。

    他にも高速道路や橋など、バブルの時期に作られたものが作りっぱなしのまま多数存在している。
    養老さんが言うとおり、「大地震が来て壊滅的な状況にならないと何も変わらない」のでしょう。

    「日本の進む道」は、悲しい結論になってしまった(-_-;

  •  養老孟司と藻谷浩介の対談本であるが、二人とも大勢に流される人ではないためにとてもいい対談となっている。毎年のように「景気対策」という名目で借金を重ねて大型予算を組んでいるが、予算を増やし続けているのに国内消費が減っている。また、現在の日本では半分以上の人が働いていない人である。このような社会であるにもかかわらず、経済成長を目指して、リフレ経済学者やMMT(現代貨幣理論)を主張して、湯水のように税金をばら撒けという無責任な主張が罷り通っている。
     
     そもそも、半分以上働いていない社会において、働いている人に「もっと働け」というモチベーションは湧いてこない。またむやみに経済成長すれば地球環境の崩壊を早める。経済成長すれば解決する問題はかなりあるのであろうが、だからといってできない経済成長のために巨額の財政支出を繰り返すことはもうやめよう。って思いました。

  • 養老さんと藻谷さんの興味深い対話の本。
    直近のテーマなどが取り扱われているが広い視野で語られておりおもしろい。興味深い内容であることに変わりはないが、藻谷さんの主張割合が多く、養老さんの意見は?と勘繰ってしまう

    メモ
    ・見てわからないことは測ってもわからない。測ってわかることは見たらわかる
    ・火山灰は小さいガラスのかけら

  • 説明して分かってもらいたい藻谷浩介と、聞かれれば自分の考えを話すことはできるけど自分からはあまり能動的に発信しない養老孟司の対談本。2038年の南海トラフ巨大地震の話、循環再生で自足する話、教育の話。どれも単独で完結する話ではなくて、互いに関連している。その根っこには日本人の特性みたいなものがあって、理論と実践、中枢と現場の間にはいつまで経ってもチグハグさが残っている。日本は一度ご破産にしないと変われない国だから、南海トラフ地震に来てもらって、ご破産にするしかない、という養老孟司がたどり着いた説は少し逆説的だけど、きっとそうなのだろう。自分で対応するしかないと考えよ、ということなんだろうな。とても勉強になる。
    この本の中に引用された本で、いくつか読みたくなるものがあったのも楽しみだ。

  • 自然と付き合うとは!?

    自然と付き合うとはどういうことを忘れてはいけないですね。コントロールできないもの。努力しても報われない。そんな相手に無理をしてはいけない。
    全体を見て適当なところで収める知恵、という表現が個人的にすごくよかったです。完璧やより成長する、という常に上を目指すのではなく、どこかで、これで十分、というところを見極めて、心を落ち着けるタイミングが欲しいですね。これが高原社会なのかな

    あと自然農法の話が出てきたのも個人的には嬉しかったです。何かをしないといけない、という固定観念からの解放としての自然農、というのもありますね。放ったらかしでよい、というのは語弊があって、環境をどう整えるかが大事だと思っているのですが、環境を整えるだけで、それ以上はやらなくても良い。この線引きがとても大事だと思っていて、俺がやった、ではなく、最終的には相手が勝手にやった、という理解することで、循環の精神が育つと私は思っています。

    持続的な社会って環境の話もあるけど、人間としての持続的はこの循環精神だと私は思っています

    さて、循環精神を育てる場所としての自然農を続けていこう

    (私は政府批判とか、何でお前はやらないのか、みたいな相手を見下す話があまり好きじゃないので、言いたいことはわかるけど、なんかモヤモヤが残る本でもありました。これがコントロール思考への違和感なのかな)

  • 世界から見た日本、日本人の変わったところを客観視して具体的に伝えてくれる。
    しかも包み隠さず率直に。
    とても考えさせる問いでした。

    2038年に大震災が来るとなん度も紹介されていましたが、来ることがわかっているのに備えないのはおかしい。まさにその通り。
    東日本大震災を間近で経験したわたしは、あのような経験は2度としたくないと思いますが災害大国日本に住んでいる限りは対策しないといけないと感じます。

    もう一つ感じたのは日本人の同調主義です。
    皆と同じでなければダメとか、あいつは考え方が皆と違うからおかしいとか、そんなくだらない考えは排除したいと感じた。
    子どもを育てる環境から改善していきたいと思いました。
    皆で考えようは考えているうちに入らない。
    考えるのは1人でいい。
    議論は皆でするもの。

    自分の考えがいかに日本人的だったかを思い知らされる本でした。

  • <読書中>


    書評より
    第1章 経済と政治の戦い
    成長とは何だったのか/経済成長という強迫観念/盧溝橋事件/お金と権力/誰が政治を動かすのか/経世済民/意味と解釈/外に出る脳/違和感の正体/自民党は日本そのもの/他人を働かせる/固定された階級/見てわからないことは

    第2章 大地震に備える
    必ず起こる/リニア中央新幹線/何が起こるのか/噴火の可能性/生き残ったほうが大変/ライフライン/横浜の問題/復興資金/田舎で暮らす/人口減少への覚悟/日本への移民問題/島根の人口密度/次は東海道/原発の憂鬱

    第3章 循環再生で自足する地域
    新しい資本主義/お金に変わった人間関係/「自足できない」は本当か/政治の出番/封建的なるもの/変化を阻むもの/変化の予感/人格分裂/農薬と発達障害/完全な自然農法/自然に対するには

    第4章 教育問題の奥へ
    明治から続く問題/文化は「接合」できるか/和は乱れたまま/日本とロシア/大地震の後に/英語教育/個性の教育/親と先生が変わると/教育の何が変わったか/旧統一教会/あなたが行けばいいのに/「みんなで考える」がわからない/みんなで考える/若者を自殺させる社会/日本人は生きていない/身体について考える/のんきに生きる

    第5章 日本人の生き方
    瓦礫はどこへ/山を削る/地主の声/踏み込んで考えてみる/戦争の形/大切なのは災害後/なぜそう思うのか/事実に興味を持たない人/アリを極める/現場を見ること/理屈と膏薬/空気は切れない/常識を磨く/混んでいる銭湯

  • 藻谷氏のデータに基づいた話に、養老氏がうなずきつつも、ところどころワンポイントで口をはさむような印象だったか。養老氏は、日本は大地震で御破算になった方がいいんじゃないか、という。でもそれってさぁ。内田氏が別の本で、維新とかグローバリスト系の人たちの目論見って、加速主義で破滅まで行こうとしている、みたいな話に近いものがあると思った。養老氏は話が面白いから、維新ほどに拒否感は感じていなかったんだけど、そういうところは、なんとも?なところ。

     あと印象に残っているのは、補助金だ、生活支援だといって、お金を刷ってお金をばらまいても、収支でみると市中に出回っているお金はずっと少ないという。みんな貯金にまわしたり、あるいは海外に流出しているということだろうねぇ、という意見はあぁそうなんだ、と考えさせられる。なかなか単純じゃないね。

  • どういう経緯で、この二人が対談したのか、出版というのは面白いモノだ。
    第1章 経済と政治の戦い
    第2章 大地震に備える
    第3章 循環再生で自足する地域
    第4章 教育問題の奥へ
    第5章 日本人の生き方
    という章立てで、語りあっているのですが、藻谷さんが養老孟司さんに問いかけるというパターンが多かった。
    まぁとにかく、養老さんのうっちゃり方に彼なりの筋が一本通っていて、
    納得させられてしまいます。
    ヒトはヒト、自分が好きなように生きていくのがいいとこれからの人生の道筋がしっかり決まりました(笑)。

  • 東2法経図・6F開架:304A/Y84n//K

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著者プロフィール

養老 孟司(ようろう・たけし):1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士(解剖学)。『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。『バカの壁』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。同書は450万部を超えるベストセラー。対談、共著、講演録を含め、著書は200冊近い。近著に『養老先生、病院へ行く』『養老先生、再び病院へ行く』(中川恵一共著、エクスナレッジ)『〈自分〉を知りたい君たちへ 読書の壁』(毎日新聞出版)、『ものがわかるということ』(祥伝社)など。

「2023年 『ヒトの幸福とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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