全体主義の時代経験 (藤田省三著作集 6)

著者 :
  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622031062

作品紹介・あらすじ

著者は、『精神史的考察』以後の80年代、人類史的問題群と20世紀における「受難」経験と現代日本社会論とを貫通する立体的構造を明らかにすることを、残された時間でなされねばならぬ思考課題と考えた。本書には、その探求の過程を示す諸篇が収録されている。高度成長、バブル崩壊後の変質あるいは変貌という以上の「断絶」を生じた日本社会を、人類史と20世紀史への深い洞察のまなざしで見据える。「断絶の場所こそわが棲み家」とする著者最後のメッセージ。

感想・レビュー・書評

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  • ここに収められている主要記事が書かれた「その後」をどう捉えればよいか。

  • 積ん読のままにしておいた本を少しずつ読んでいるが、購入してからしばらくの「積ん読」状態が続いた本などは、今になって読んでみると、「どうしてこの本を購入したのだろう?」と不思議に思えることがある。たぶん、同著者による他の著作を読んで、その関連で購入したのだろうと思われるが、購入した当時の興味関心が時間の経過とともに薄れていると、その著作から受ける感興も色あせた感じがする。

  • 20世紀を3つの「全体主義」、戦争における全体主義、政治における全体主義、安楽、市場経済への全体主義から捉える。

    戦争における全体主義とは、全員が戦争に動員され、銃後も巻き込まれてしまう体制のことであり、政治における全体主義とは、強制収容などに典型ないわゆる「全体主義」のことだ。著者はアーレントを引きながら、イデオロギーの時代とアーレントは言ったけど、これはむしろイデオロギーが終焉し、形骸化し、綱領化した時代と見るべきなのではないかと提言している。

    問題は3つ目の安楽への全体主義だ。安楽への全体主義とは、単に安楽を求め、不快を避けるのではなく、不快や苦痛を根こそぎ、この世界から消し去ろうとする全体主義だと位置づけられる。欲求とその充足、欲求とその充足という限りない「欠乏―満足」の円環が、休む間もなく追い求められる「能動的ニヒリズム」が特徴で、これは物との多様な関わりや、苦難と持続的に関わって、それを乗り越えていくという「喜び」をなくしてしまう。そうした欲求とその満足が、まさに一括して与えられてしまうことから、著者はこれをも全体主義と呼び、全体主義=(物理)暴力的という図式にとらわれてはならないと警鐘を鳴らす。

    この一見非暴力的に見える部分も含め「全体主義」という知見が著者のオリジナルであり、興味深いところではあるけれど、ハンナ・アーレントの議論と重なるところもある。アーレントは仕事の「労働化」を懸念していた。仕事の労働化とは、世界をつくる、世界の中の物としての永続物をつくる仕事=制作が、欲求―充足、生産―消費のサイクルを満たすための労働というアクティビティに変化したと指摘している。これは著者の言う「安楽への全体主義」を指摘していると見ることも可能だと思う。

    また、著者は安楽への全体主義=不快をもたらすものを根こそぎ排除しようとする全体主義と考えているが、その後の情報社会においては、根こそぎ排除するのではなく、そもそもアーキテクチャーの次元で「不快なものに出会わない」「出会えない」ように、コントロールしてしまう、事前フィルタリング的技術が発達してきたことも周知の事実。何が安楽であり、何が不快かは人によって異なる。だからこそ、一括での安楽追求には限界もあったのだが、そこをテクノロジーで個別の嗜好に合わせて、一括して安楽を提供する動きに変わってきたと見ることも可能なんじゃないだろうか。

    では、そのような安楽への全体主義に対する著者の処方箋とは? パーソナルリレーションが喪われ、単なる自己運動と貸した世界は社会を失い、個人をますます、個人的利己主義に走らせる。自分の限界を知る機会=自己批判の契機が失われるため、倫理が削られていってしまう。

    これに対し、著者は「生活を注意深くすること」が重要だと述べている。

    「エンサイクロペディック・マインド、百科全書派的態度。生活を注意不覚生きていくということの中に、自己批判の具体的材料はいっぱいある。大雑把に総論的に自己批判するよりも個別的に自己批判を積み重ねなくてはいけない。すべての問題についてそれをやる」(p.132)
     

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