- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622049395
作品紹介・あらすじ
本書刊行の翌年にロサンゼルス暴動が起こるが、そうした現実をも予見しつつ、キングはあくまでも非暴力を、国際平和への不可欠の要件として力説した。四半世紀をへて、白人警官による黒人青年暴行が無罪の評決をみ、同地で、アメリカ史上最悪の暴動が起こっている。キング師の肉声は、今日いっそう重い課題をつきつける。
感想・レビュー・書評
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なは
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キング牧師について述べていた
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日本語版初版1965年、復刊1993年、再復刊新装版2000年。どれにも訳者古川博巳氏のコメントがのっている。まず、みすず書房さんほんとにありがとうという気持ち。この本にめぐりあって感謝です。
肌の色による人種差別という認識が、日本の中では薄いと思われます。単一民族国家であるわが国においては、数百年前の歴史から紐解いても、人間の階層に基づく差別はあっても、肌の色により人を差別するという社会がまずない。どう考えても、黒人だからという差別感が生まれない。なぜに、今までの歴史の中で奴隷制度、それも黒人が奴隷にならなければならなかったのか、そして、なぜに白人からの差別を受けねばならなかったのかが正直わからないんです。今もって実は私にはわからない、理解できないんです。
という感情があったのは事実。だが正直今の自分の世界には関係ないといえばそうである。そんなときにみすず書房さんのサイトでお知り合いになった(^^ いい機会だ。読んでみよう。紹介されていたのは、この後の著『良心のトランペット』。キング氏の名前を見た瞬間にあ!という感じでひろいあげてしまった。この本の前に絶対的に読まなきゃ!と思ったのがこの『黒人は・・』である。
1963年という数字もまたわたしにとっても重要。なにせ生まれ年だから。自分が知らない時代に知らない国で人間同士の別な戦いが、こういった形であっていようとはだれも思っていないであろうし、現にこの時代の日本は高度成長期真っ只中。翌年には東京オリンピックが開催されたそんな時代である。この地球という星の中で、人間という生き物が主動物として生きているこの星で、なにがそんな風にさせたのかが知りたかった。
1963年、奴隷解放100周年。そしてバーミングハム闘争、モントゴメリーのバス・ボイコット、非暴力、その100周年からすでに45年、しかしながらいまだもって黒人への風当たりはキング氏らが重ねてきた年月よりもまだ浅いとはいえ、やはりまだ差別意識は残っているであろうし、いまだにテレビでも白人による暴力沙汰が起きている事実があるということが痛ましいと感じる。
キング氏の名前はよく私たちも聞くことが多い。人種差別撤廃に大きく貢献した人であること。だが、それ以上も知ることはないし、だれも知ろうとはしていない。もっともっと多くの黒人の中の歴史と、彼が出てくるまでの様々な人たちの苦悩とそして犠牲、そういったものをもって知ってみたい思いでこの本を手にした。
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冒頭からなんだか空気が乱れる。今までの自分自身とその家族の苦悩。黒人社会で生きねばならぬという現実。白人からの根拠なき迫害、殺戮。なにが人間をそんなにさせているのか神のみぞ知るのか?と日本人の私でさえ思う、沢山の、それはそれは沢山の人たちの犠牲があり、苦悩があり、そして恨みもすべての白人や白人社会へ向けられたものは憎悪以外はなにもないのではないかとおもっていた。だが、キング氏らが様々な勇気ある同胞とともに開拓していったのは、非暴力で戦うという強い信念、そしてその実行力。何度も何度も沢山の黒人がその都度逮捕され、キング氏自身も逮捕され、そのたびに彼の釈放を支えてきた多くの人々。勇敢にも非暴力のデモで命を落としてしまった人も多くいたというが、それでも彼らは、この"今"しかないという信念ひとつで、革命を成し遂げた。そのなにものにも絶対的に負けないという姿勢、信念は最終的には39歳で凶弾で倒れてしまうまで続く。
著書の中で、白人の中にも黒人と同様に、底辺であえいでいる人たちがいることをキング氏は知ることとなるが、それからの彼の動き方がすごい。
どんな環境、どんな仕打ちにもめげず、常に気高い志とそれを実行する。この強さは誰にもマネはできないであろうと感じた。
『黒人はなぜ待てないのか』
この題名にはかなりのインパクトがある。まず、この主旨はなんだろうかと。なにが待てないといってるのかがまずわからなかった。キング氏の黒人の地位の回復、社会生活の回復にむけて奔走しているころ、多くの白人の権力者、有識者(牧師ら)は、彼に忠告をする。
なぜまだ待てないのか。なぜもっと情勢がよくなるまでいられないのか、と。だが奴隷解放から100年たってもこの現状は変わらないという事実と、奴隷時代の黒人の人間として見られなかったその長い長い年月を考えると、彼らにとっては、この"今"しかないというのがこの題名に隠された真意かと。100年はほんとに長いですよね。なぜに黒人が奴隷となりつづけてきたのか、どうして人間としての尊厳を奪われなければならなかったのか、神が与えたそれが試練というのか、ならばなぜそれが黒人だったのか。
キング氏が白人の暴力に対して、"非暴力"を黒人への布教活動のモットーにしたことはすごいことだと感じます。これがのちのち、大きな白人の心を動かすことになることをその当時読み取っていたのであろうか。
黒人開放運動にはキング氏のほか有名なのは、マルコム・X(マルカムともいう)であろが、彼との接点はあまりないようだ。映画にもなったマルコムとの思想観念はキング氏とは大きな違いがあるように思える。ちなみに、マルコムの話は一切でてきません。
キング氏の著書はまだ沢山あるようですが、『良心のトランペット』も読むともっと黒人開放に命を削りこんで打ち込んだキング氏のことももっと深められるとおもわれる・・という訳者のコメントがありました。他国の歴史、それも人間という生き物の歴史は一筋縄ではとてもいかないということを感じ取りました。人種差別に対しては、まだまだ自身が理解できていない部分もあるので、機会あればもっと深い本を探すことにしようと思う。
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分類=民族。00年4月(97年3月初出)。