- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622076070
作品紹介・あらすじ
『ゴッドファーザー』等を手がけた稀代の映像・音響編集者ウォルター・マーチとブッカー賞作家が語らい、名画を演出した編集の意匠を説き明かす。忘れ難いシーンの制作秘話、聴覚的「空間」の作り方、天才O・ウェルズのビジョンを再現する『黒い罠』修正の逸話…。
感想・レビュー・書評
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むちゃくちゃおもしろかった!
映画関連本の最高傑作と言っていいんじゃないかな。
すべてのページ、すべての話題が驚きと深遠さに満ちいていると言っても過言ではないと思う。
対談本って、読んでみると期待外れなことが多いのだけれど、インタビューする方もされる方も超一流だと、こんなにも深くおもしろくなるんだなぁ、とビックリです。
本書の内容にはいろいろ驚かされたけれど、いちばん衝撃だったのは、編集時には、セリフも含めてすべてのサウンドを消して、サイレント映画として編集するということ。
最初はええ?!と思ったけれど、もし、自分が映像の編集とサウンドの仕上げを任されるとしたら、と考えてみると、そのやり方は非常に理に適っているようにも思えます。あくまでも想像でしかないですが。
以前読んだ脚本関連の本に、ヒッチコックもディズニーもストーリーを全部固めた後、最後の最後にセリフを考えたと書いてあったけれど、そういう意味ではセリフの細かい言い回しや表現は、映画にとってはBGMや効果音に比べれば、それほど決定的なものではないのかもしれないなぁと思いました。
考えに考え抜かれたあとにくる、偶然のような出来事や、作り手のインスピレーションのようなものが驚くような効果を上げる、ということについては何度も何度も主題をかえては繰り返し語られています。
でもこれは、クリエイティブな仕事かどうかに関係なく、多くの人がなんとなく理解している人生の不思議でおもしろい部分の一つなんじゃないかなぁと思う。
そして、それらを補足するエピソードがびっくりするほど広く深い知識にもとづいていて、とにかく素晴らしかったです。
コッポラやジョージ・ルーカス、オーソン・ウェルズといった天才たちのエピソードもとてもおもしろかった。
ある意味で対等な「仕事仲間」ならでは、な視点のものばかりで、その関連の映画をもう一度見直したくなるような興味深さ。
俳優から見た監督像はよく公開前などに耳にしますが、この本ほど作品の方向性や内容にかかわるようなディープな話はあまり表に出ないので、とても新鮮でした。
訳者あとがきも良かった!
私がこの本に対して感じたことが全部凝縮されて書かれてあって、全面的に同意しかありません。
特に、「本書でふたりが繰り広げる会話には、深遠な知性と親しみやすい ”変わり者” の人間性が存分に発揮されている」というあたり、「さすが翻訳者、うまいこと言う!」と深くうなずきました。 -
「イギリス人の患者」の作家が「イングリッシュ・ペイシェント」の編集者であるウォルター・マーチと対談する。知らなかったがマーチは業界にこの人ありという名編集者、名音響担当者だそうだ。話題になっているイングリッシュ・ペイシェント、ゴッドファーザー、地獄の黙示録などの名作を忘れ果てていてさえ、面白かった!これは映画についての名著!映画は監督と俳優のものだと思ってしまうが、編集者が一カット、一コマ単位でメッセージを伝え印象を最適化しようと真剣勝負しており、音響担当が音と音楽で感情を揺さぶるのだ。映画本としても優れているが、二人の会話は分野は違えど芸術の創造という点でシンクロしていく。映画が「芸術」という意識ではないのだが、彼が手がける名作レベルになると、確かにアートだ。
マーチは「今は編集者のカンと経験でやっていることが、いずれはデジタル化・機械化して、『昔はなんてアナログだったんだ』ということになるのでは」とコメントしている。本当にそうなんだろうか。時代を見守りたい。 -
貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784622076070 -
TLでアニメ編集の話題になっている時に、書店でみつけたので、興味を持って手に取った。『地獄の黙示録』『イングリッシュ・ペイシェント』を担当した映画編集者ウォルター・マーチと、作家マイケル・オンダーチェの対話。
編集のテクニカルな話かと思いきや、むしろ、そこを入り口に見えてくる「映画のフォルムの獲得の仕方」をめぐる内容だった。サウンドデザインも手がけているウォルター・マーチなので、音響周りの話題も多い。
最終部分では、2人のキャラクターを画面内にどう配置するか(ステージングするか)がドラマを語ることにつながるという話題が出てくるが、これはしばしば話題になる「上手/下手」問題とリンクしていて興味深い(でも、マーチは上手/下手で分けてはいない)。
あともう一つ面白かったのが、'80年代のディズニーの硬直状態を示すエピソード。
「彼の口にした言葉は、単なる突発的なコメントも含めて、すべてが神のように扱われていたんだ。(略)ウォルトがある実写映画の試写を見ながら、「いまのショットのFストップの値は?」と質問した。(略・Fストップとはカメラの絞り値)。スタッフのひとりが、いまのショットの値は5.6だったと答えると、ウォルトは「いいね。フォーカスは効いているが、効きすぎでもない。ちょうどいい値だ」と感想を言った。それを誰かが覚えていた。ずっと後になって、この値は勅令と化してしまったんだ。つまりディズニー社の実写映画の屋外ショットはすべてFストップ5.6でなければならない、それがディズニーの被写界深度であると決まってしまったんだ。」 -
小説『イギリス人の患者』などで知られる作家マイケル・オーチェンダと、同小説を原作にした映画【イングリッシュ・ペイシェント】などで編集を務めたウォルター・マーチの対談集。映画製作におけるウォルター・マーチの働きに感銘を受けたマイケル・オーチェンダが、その方法論について5度渡って対談したものをまとめている。
映画を鑑賞する際には決して気付かない編集の仕事、その重要性について知ることができたのは大変興味深かった。映画の製作は大きく分けて脚本・撮影・編集に分けられるが、脚本・撮影に比べて、編集は脚光を浴びることが少ない。それは、「観客が編集を意識してしまう」ような類の作品は明らかに失敗だからであり、観客がいかに違和感なくストーリーに没頭できるか、それは映画が映画として成立するための前提条件だからだ。
しかし、そんな当たり前と思われる「一つのストーリーに仕上げること」がいかに困難を伴う作業であるか、この本ではまざまざと見せつけられる。観客の思考の流れをシーンごとに考察し、どのショットをどれぐらいの長さで採用するかを決める。この配置如何でストーリーの本質は大きく変わってしまう。また、音響のスペシャリストであるマーチは、一つ一つの音の流れで観客の視点がどこに向かうかを考察して、ベストの音響を映画に挿入していく。時には監督も意図しないショットを採用することもあるが、全体を俯瞰して見れば、マーチの選択は監督の無意識の部分を表層化するほど作品をブラッシュアップすることにつながっている。その編集の過程は非常に繊細かつエキサイティングであり、映画に携わるものとしても大変興味深い。
「映画の制作とは、可能な限り興味深いやり方で、こういったあらゆる要素をオーケストラのように編成することだよ」(337ページ)
というように、マーチに限らず脚本・撮影・編集の段階に関わる大勢の人間の知恵の結集によって、一つの映画が成立しているということが良く分かる。
ヒッチコックとコッポラの比較や、ジョージ・ルーカスとの絡み、さらには【ゴッド・ファーザー】の制作秘話なども読んでいて大変面白かった。 -
映画を編集から語った良書。ありそうであまりない本が、最高の人選で作られている。ゴッドファーザーも地獄の黙示録もイングリッシュ•ペイシェントも長い映画だけど、もう一度別の視点で見直したいと思わせる。映画のタネ明かしのようで気持ちいい。
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