人生と運命 3

  • みすず書房
4.13
  • (6)
  • (7)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 99
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622076582

作品紹介・あらすじ

1942年11月、スターリングラードのドイツ第六軍を包囲する赤軍の大攻勢は、百時間で決着した。戦争の帰趨を決する戦闘が終わった。反ファシズムの希望、世界の目をくぎ付けにした都市は廃墟になった。その瞬間からスターリンは、ユダヤ人殲滅の剣をヒトラーからもぎとり、やがて国内のユダヤ人にふり降ろす。戦後の自由な暮らしを夢みて戦った国民に、一国社会主義の独裁者はたがをはめ直した。物理学者ヴィクトルは、核反応を数学的に説明する論文を観念論的と批判される。彼は懺悔をしなかった。失職して逮捕される不安に怯えながら、良心を守ったことで心は澄んでいた。ところが突然、スターリンからヴィクトルに電話がかかってくる。状況は一変し、彼は称賛に包まれるが、原子爆弾開発への協力をもはや拒否できない。困難の中で守った自由を、栄誉の後で失う人もいれば、幸せな記憶ゆえに苦難に耐える人もいる。栄光、孤独、絶望と貧窮、ラーゲリと処刑。いかなる運命が待っているにせよ、ひとは人間として生き、人間として死ぬ。この小説は、個人が全体主義の圧力に耐えるのがどれほど困難だったかを描いている。奇跡のように生きのびた本が今、日本の読者を待つ。全三部完結。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 第3巻
    この巻はヴィクトルの心境の変化と、クルイモフの苦悩がメインだと思う。
    1930~50年代のソ連といえば、非常に生きにくい時代であったことは間違いない。
    常に密告の恐怖におびえていなければならず、一方で正義感から密告に走る人間もいる。ヴィクトルが周りから距離を置かれるシーンは、深刻さに違いはあれどその感覚を経験したことがある人は多いと思う。かくいう私もお酒の場で失敗してしゃべらなくてもよいようなことをしゃべってしまった翌日に、他人との関係がぎくしゃくしてしまい、自分はいつも通りふるまうが、他人の愛想笑いが気になり日中仕事に身も入らずそのことばかりを考えていたことがある。恥ずかしい話だが。
    そんな感じで周りから斥けられているヴィクトルがスターリンからの電話によって急に周りからちやほやされ、ぎくしゃくしているときはそれでも良心は問題なかったが、ちやほやされてその心の強さを失ってしまい、自分の信念とは異なる告発書に署名してしまうシーンは恐ろしいほどのリアリズムで、そのあとのマリアからの電話で衝撃を受けるシーンは読んでいる私もつらくなった。
    クルイモフは正義感から密告に走るタイプの人間だが、国家の敵として逮捕され、自分が密告した証拠を突き付けられ、自身の正義感が揺らいでしまう。
    なんという残酷なシーンかと思うが、最後別れた妻の差し入れを受け取って感謝のあまり涙を流すと考えると、現実よりは優しいのかもしれない。

    とても読み応えのある、素晴らしい本だが前提知識が必要なことだけが残念で他人には勧められない。よって星4とした。

    なお、この本前日譚があるらしく、なんと同じくらいの分量だという。
    翻訳はされていないようで非常に残念ではあるが、巻末の解説に役者があらすじを書いてくれているので、それは是非読むことをお勧めする。

  • 全体主義国家ソヴィエトの人びとがお互いを密告し合い、人間不信に陥るさまが痛々しい。このような国には絶対に住みたくない。今まで散々非難された者がスターリンからの電話一本で立場は急転し、その後は称賛されるようになる。日本の官僚の実態もこのようなものかもしれないと思ってしまいました。ショスタコーヴィチが誤りを認めて懺悔の手紙を書いていると、作品中に出てくるのだが、本当のことだったのであろうか。

  • おすすめ資料 第158回 (2012.10.5)
     
    20世紀ロシアの作家で、ワシーリー・グロスマンをご存知でしょうか。

    グロスマンはウクライナのユダヤ人家庭に生まれた作家であり、従軍記者でもあります。
    本書は第二次世界大戦時のスターリングラード攻防戦を舞台にした歴史小説です。

    一度はKGBによって原稿を没収されましたが...数十年の時を経て、ついに今年日本でも刊行されました。
    全三部作とボリュームたっぷりですが、ぜひ挑戦してみてくださいね。

  • 2015/4/27購入
    2020/3/15読了

  • これに限らず現代社会に生きる以上、人生は大なり小なり己が生まれた国家に翻弄されずにはおられないわけで。けど、たとえ翻弄されたとしても、人としての尊厳を見失わなずに生きていく姿勢を保つことが最良ではなかろうかと。ただ、それを貫くことの難しさをも指摘している…と思うのです。

  • 人生と運命1にレビューを載せています。

  • ぎくしゃくした翻訳本はつまらない。不毛地帯の勝ち。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

(Василий Гроссман)
1905-1964。ウクライナ・ベルディーチェフのユダヤ人家庭に生まれる。モスクワ大学で化学を専攻。炭鉱で化学技師として働いたのち、小説を発表。独ソ戦中は従軍記者として前線から兵士に肉薄した記事を書いて全土に名を馳せる。43年、生まれ故郷の町で起きた独軍占領下のユダヤ人大虐殺により母を失う。44年、トレブリンカ絶滅収容所を取材、ホロコーストの実態を世界で最初に報道する。次第にナチとソ連の全体主義体制が本質において大差ないとの認識に達し、50年代後半から大作『人生と運命』を執筆、60年に完成。「雪どけ」期に刊行をめざすが、KGBの家宅捜索を受けて原稿は没収、「今後2-300年、発表は不可」と宣告される。「外国でもよいから出版してほしい」と遺言し、死去。80年、友人が秘匿していた原稿の写しがマイクロフィルムに収められて国外に持ち出され、スイスで出版された(仏訳83年、英訳86年、ソ連国内では88年)。

「2022年 『人生と運命 3【新装版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ワシーリー・グロスマンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×