回復まで【新装版】

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622088806

作品紹介・あらすじ

66歳の1年間(1978-79)は、サートンにはつらい年だった。パートナーとの別離、小説『総決算の時』への悪意ある酷評、乳がんの手術、ふっきれない鬱状態。しかし、「惜しみなく与える」友人たちがいて、小さな命にみちた静謐な自然があり、読書と、そして愛読者たちの手紙に支えられて、彼女は「あるがままの自分」を受け入れることを学ぶ。そして孤独を深めながら、ゆっくりと回復していく。

『独り居の日記』『海辺の家』につづくこの3冊目の日記は、著者みずからが生前、邦訳を希望した一冊だ。

感想・レビュー・書評

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  • 作家・恋人・女という多面的なアイデンティティの多くをひどく傷つけられ、どん底に落ちたサートンの「この人生の意味と、持続していることの感覚を」回復させられるようにもがく日々の記録。

    最初は「愛や作品に結晶した、あらゆる心の戦いや苦痛には価値があるという信念」を失ったとはっきり書いていて、それ自体が私にとってもショッキングではあった。「独り居の日記」でその信念に触れて、命綱を見つけたような気分だったから。
    それを回復させるとかできるなどとはけっして書かないのが、傷の深さを物語る。「回復させられるかどうか、やってみる」から始まり、その後も何度も、できるだろうか?私はどうなるのか?と自問している。
    そして乳がんの手術を契機に現れる、ゆっくりとした回復への苦難の道のり。孤独と交流とのバランス、痛みや辛い体験と向き合うこと、自分だけではなく、大切な人の老いを見つめること。ぽつりぽつりと染み出すように、冷静な視点で苦しみから搾り取られた思索が生み出されていく。
    精神の再生を不死鳥のイメージで何度も描写しているけれど、終盤の柔らかく温かい精神の高揚を読むにつけ本当に灰の中から甦る美しい炎のような何かを見せてもらっているという気持ちになる。

    孤独には孤独でない時間、つまり他者との交わり、それに伴う痛みも喜びもまるごと必要なのだ、ということが繰り返し強調されていて耳が痛い。
    独りで本を読んでいればいいってものではないと、分かっているけど…。

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著者プロフィール

(May Sarton)
1912-1995。ベルギーに生まれる。4歳のとき父母とともにアメリカに亡命、マサチューセッツ州ケンブリッジで成人する。一時劇団を主宰するが、最初の詩集(1937)の出版以降、著述に専念。小説家・詩人・エッセイスト。日記、自伝的エッセイも多い。邦訳書『独り居の日記』(1991)『ミセス・スティーヴンズは人魚の歌を聞く』(1993)『今かくあれども』(1995)『夢見つつ深く植えよ』(1996)『猫の紳士の物語』(1996)『私は不死鳥を見た』(1998)『総決算のとき』(1998)『海辺の家』(1999)『一日一日が旅だから』(2001)『回復まで』(2002)『82歳の日記』(2004)『70歳の日記』(2016)『74歳の日記』(2019、いずれもみすず書房)。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

「2023年 『終盤戦 79歳の日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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