文学は実学である

著者 :
  • みすず書房
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本棚登録 : 232
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622089452

作品紹介・あらすじ

ことばと世間、文学と出版、人間と社会に、休みなく目を凝らし耳を澄ませてきた現代詩作家による28年間のベスト・エッセイズ。「本について書く日本語の使い手の中で、間違いなく最高のひとり」(高橋源一郎)「同時代に荒川洋治という書き手をもつのは、この上なく幸せなことなのだ」(池内紀)など、高い評価と数々の受賞、そして熱心な読者の要望に応えて、未刊エッセイを含む全86編を瀟洒な造本で刊行する。

感想・レビュー・書評

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  • 骨のある本。ということは私にとっては難解、読むのに時間が掛かる本ということである。エッセイ風の身近に感じることはくだけて書いておられるのだが、いざ文学となれば力が入って硬く熱っぽく語られる。

    本の題にもなっている「文学は実学である」では、文学は、経済学、法律学、医学、工学などと同じように「実学」なのである。社会生活に実際に役立つものである。特に社会問題が、もっぱら人間の精神に起因する現在、文学は読む人の現実を、生活を一変させるもので、文学は現実的なもの、強力な「実学
    の世界であると。

    どうです、この肩に力が入った言い回し。私は今や、文学の文と学は離れたものとなり、学問と言った時点で乖離しているような気がしています。

    気軽に、そしてゆたかに生きるための一つのヒントぐらいの働きで、「本」や「読書」ましてや「文学」なんて、所詮受け手の私たち自身のこころもちが大事なんではと思いますな。



  • みすず書房 荒川洋治 「 文学は実学である 」

    タイトルから受ける印象と異なり、軽い感じで読めるエッセイ選集


    あとがき「エッセイは虚構ではない。事実を大切にする〜でもわずかな余地がある。そこに楽しさと夢がひろがる」は なるほどと思う。エッセイの面白さは エピソードそのものより「わずかな余地」の言葉選びなのかもしれない




    表題「文学は実学である」は名文
    *この世をふかく、ゆたかに生きたい。そんな望みをもつ人になりかわって〜才覚に恵まれた人が鮮やかな文や鋭いことばを駆使して、ほんとうの現実を開示してみせる。それが文学のはたらきである

    *こうした作品を知ることと、知らないことでは人生がまるきりちがったものになる〜読む人の現実を、生活を一変させるのだ


    「五十歳を過ぎた。することはした。あとはできることをしたい」
    「自分というものをもって生きることよりも、それをもたないで、生きることのほうに しあわせがある」
    あたりは共感する


    「陽気な文章」
    どういう立場に立てばいいのか。何を書き、何をはぶいたら一般性のある話になるのか〜いろんな角度から自分の文章を見直す。単調にならないようにする


    「会わないこと」
    会わない状態のなかで、耐えているということは、相手もこちらも〜生きていることのしるしなのだ









  • 1992年から2020年までに発表されたエッセイより86篇が掲載されている。(背表紙より)
    新聞に紹介されていたので読んでみた。
    読了するのに約4か月くらいかかった。
    荒川洋治さんの他の作品は読んだことがない。
    このエッセイを読むと、荒川さんが短文、散文にとてもこだわっていることがよくわかる。詩人だから当たり前か。
    秀逸な短文がたくさん紹介されている。
    日本語を駆使して、短くてもよく伝わるような言葉で書かなければならない。
    ダイソー文学シリーズの紹介で掲載されていた、登場人物の紹介文とコラムはとても面白かった。

  • 人の物語と自分の物語が触れるとき感動する。著者はただ地名からさえも感動を拾おうとしている。
    経済や医学、科学、法律学が怪しげなものになってきた世の中だからこそ、文学の立ち位置が見えてくるはず。

  • 文章が簡潔で読みやすく、美しい。
    山谷の銀行の様子の表現に、街の雰囲気と優しさが見えた。

  • 荒川さんの文は優しい。1997年から2019年までの雑誌、新聞のこのエッセイ集は何度でも読みたい。

  • 86のエッセイ。
    書評あり、雑記のようなもの、文章について、文学について、詩歌について。
    何気にない日常を綴ったものには、温かさとユーモア。
    作品や文学についてのものには、精緻な分析とシビアな批評。

  • 選書企画2020 「図書館に置いて欲しい本 書いて!貼って!」 で選書した図書
    【配架場所】 図・2F開架 
    【請求記号】 914.6||AR
    【OPACへのリンク】
    https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/volume/450844

  • 《以下、長談義の心得をまとめてみよう。
     ①話すこと聞くこと以外は何もしない。時計も見ない。自然な流れにまかせるのが一番。
     ②いまこの時間に、この日本で、だれ一人その話をしていないような話題をまじえるようにする。みんながするような話は、ありきたりで、先が見えて、つまらない。実に退屈なものである。
     ③本でもなんでもいいからときどき「物」を出し、さわったり、めくったりすると、たしかなものになって、話が締まる。
     ④二人で話すこと。三人もいると、だれかが気をつかう。三人は他人のはじまりなのである。
     ⑤終わったら熟睡。めざめたら静かに、お茶をのむ。胸にひめたものをそのままに、新たな一日へと飛び立つのである。
    「また話そう」
    「そうしましょう」》(p.14-15)

    《料理は風の便りでなくてはならない。》(p.34)

    《五〇歳を過ぎた。するべきことはした。あとはできることをしたい。それも、またぼくはこうするなと、あらかじめわかるものがいい。こんなふうな習慣がひとつあって、光っていれば、急に変なものがやってこない感じがするのだ。》(p.141)

  • タイトルに惹かれて読んでみたのだが、「文学は実学である」は短いけど勇気づけられる力強い文章だった。
    「それくらいの激しい力が文学にはある。読む人の現実を、生活を一変させるのだ。文学は現実的なもの、強力な『実』の世界なのだ。文学を『虚』学とみるところに、大きなあやまりがある。」
    文学に対するこの人の確信が、この人の書く文章の世界をくまなく照らし、平明で芯の通ったものにしている。時には自分の書評に対する反論にまた反論したりしているけれど、ねちねちせずすぱっと切って捨てるような明快さがあって嫌な感じがしなかった。
    「すきまのある家」と「場所の歳月」が良かった。私は瀬戸内寂聴読んだことがないけれど、ここで書かれているような「実りのない文章」で終わる作品は好きだ。読者へ向かって話してくれていた著者がふとそっぽを向いて、人と向き合っているという意識が抜けて心をどこか遠くへ向けるような瞬間。こちらは置いていかれるように思いながら、無防備なその横顔に見入るという感じ。むしろそういうところでこそ著者が確かに私の向かいに座っているような感覚がするのは不思議なものだ。

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著者プロフィール

荒川洋治
一九四九 (昭和二四) 年、福井県生まれ。現代詩作家。早稲田大学第一文学部文芸科を卒業。七五年の詩集『水駅』でH氏賞を受賞。『渡世』で高見順賞、『空中の茱萸』で読売文学賞、『心理』で萩原朔太郎賞、『北山十八間戸』で鮎川信夫賞、評論集『文芸時評という感想』で小林秀雄賞、『過去をもつ人』で毎日出版文化賞書評賞を受賞。エッセイ集に『文学は実学である』など。二〇〇五年、新潮創刊一〇〇周年記念『名短篇』の編集長をつとめた。一七年より、川端康成文学賞選考委員。一九年、恩賜賞・日本芸術院賞を受賞。日本芸術院会員。

「2023年 『文庫の読書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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