資本主義だけ残った――世界を制するシステムの未来

制作 : 梶谷 懐 
  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622090038

感想・レビュー・書評

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  • 中国を政治的資本主義と説明してこの部分がメインとして長く書かれている。植民地から共産主義から資本主義となっていった第三国が説明されているが、日本についての記述は驚くほど少ない。
     また、対処法としては、1 中間層の金融資産と住宅資産を優遇税措置をして、富裕層の相続税の増税、2公教育の予算の増額、3軽い市民税を導入して移民への反対を抑える、4政治献金を制限すること
     と、とても分かりやすい対策である。
     教養として読むには面白いが、卒論として使えるかどうかは不明である。

  • 中国が共産主義国家なのか社会主義国家なのか資本主義国家なのか。よく考えてみたら、中国がどう、と言う前に、それぞれの定義も曖昧なままこれまで過ごしてきていた。
    それぞれの定義をある程度分かったとして、中国はどうなのか、と思ったとき、多分10年前ならまだ、それを西欧と比較して、どう、と分析したものは、そう多くなかったのではないか。
    中国の存在感の増大を多くの人が感じているのだろうか。

    現在の社会をどう捉えるか、示唆に富んだ良著。
    もう一度読んでみたいと思う。

  • 《もっと余暇が必要だなどと語る人びとはわかっていないのだ。この世界の社会という社会が権力を賛美するようつくられていて、商業化された世界では成功と権力をあらわすのはお金だけで、お金とは労働、資産の保有、とりわけ腐敗によって獲得されるということを。腐敗がグローバル化された資本主義と切り離せない理由はここにもある。》(p.221)

    《今日、この二つのタイプの資本主義、すなわちリベラル能力資本主義と政治的資本主義が、たがいに競り合っているかに見える。この二つのモデルをそれぞれ牽引するのは、アメリカと中国だ。中国は政治的、そしていくらか経済的な資本主義モデルをお膳立てして、これを「輸出」したがっているが、それとは別に、政治的資本主義そのものが、アジアのみならず世界中の政治的エリート層を惹きつける特徴を持っている。このシステムは彼らに対し、より大きな自主性をあたえてくれるからだ。一方、リベラル資本主義にもよく知られた利点がたくさんある。なかでも重要なのは、民主主義ならびに法の支配はそもそもそれ自体に価値があり、どちらもおそらく技術革新を奨励し社会的移動性をもたらすことで経済の迅速な発展を促し、よって万人におおむね平等の機会をあたえるはずだと信じられていることだ。この暗黙の価値観の要となる部分を裏切ること、すなわち固定化された上位層の出現や、エリートとそれ以外との凌強化に向かう傾向こそ、リベラル資本主義の長期的な存続を何より深刻に脅かすものである。この脅威は、このシステム自体の存続と、このモデルが世界に発する魅力のどちらもを危うくする。》(p.12-13)

    《かくて福祉大国は二種類の逆選択にさらされ、それらはたがいを強化し合っている。国内では、貧乏人と金持ちの二極化が民間による社会サービスの提供を促し、政府の提供するサービスからの金持ちの撤退を招いている。そうなると、保険料が手の届かないほど高くなりかねない人だけがこのシステムに残り、彼らの多くもこのシステムから抜け出しかねない。また国際的には、スキルの低い移民を呼び込むことで逆選択が働き、それが自国民の離脱を招いている。》(p.64)

    《下からのぼってきた新参者にも扉が開かれていることは、最上位層を次の二点で強化する。まず下位層のうち最高の人間を取り込めるし、さらに、上にのぼる道は完全に閉ざされているわけではないとのメッセージにもなるからだ。》(p.73)

    《共産主義とは、後進の被植民地国が封建制を廃止し、経済的政治的独立を回復し、固有の資本主義を築くことを可能にする社会システムであると私は主張する。あるいは別の言い方をすれば、それは発展の遅れた被植民地社会で用いられる、封建制から資本主義への移行システムだったのだ。》(p.90)

    《多くの社会が、控えめな腐敗からかなりの腐敗までと共存し、ときに繁栄してきたし、こうした腐敗は社会全体に浸透し、多くの人の暮らしを、いっさい「腐敗のない」システムにいるよりも快適なものにしてきた。それどころか、たがいに便宜をはかるシステムのもとで動くのに慣れた多くの人びとは、それまでとまったく異なる「クリーン」な制度に適応するのにかえって苦労する。》(p.140)

    《政治的資本主義が輸出される可能性は限られるが、しれは1〔政治を経済と切り離すことができるか〕と2〔狭いビジネス上の利害だけでなく国益に沿った決断を行える腐敗のわりと少ない中央集権の「支柱」を維持できるか〕、つまり政治を経済と切り離し、腐敗のわりと少ない政権を維持できそうな国がほとんど見当たらないからだ。言い換えると、このシステムを輸出したりコピーしたりはできても、たいていの場合、経済的な成功は望めないかもしれない。このことは結局のところ、このシステムのグローバルな魅力を蝕むことになるだろう。》(p.150)

    《経済的な意味では、市民権とは、市民権レントをもたらす特定の法的または政治的特徴を共有する人間集団によって行使される共同独占である。》(p.156)

    《問題なのは、金持ちの(というより誰のも)行動を正しい道に導いてくれる二つの「手すり」のかわりに、今や「手すり」がひとつしかないことだ——それはすなわち法律である。道徳は内から取り出され、すっかり外に追いやられた。道徳は私たち自身から広く社会にアウトソーシングされている。》(p.213-214)

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著者プロフィール

ルクセンブルク所得研究センター上級研究員、ニューヨーク市立大学大学院センター客員大学院教授。ベオグラード大学で博士号を取得後、世界銀行調査部の主任エコノミストを20年間務める。2003-05年にはカーネギー国際平和基金のシニア・アソシエイト。所得分配について、またグローバリゼーションの効果についての方法論的研究、実証的研究を、Economic Journal, Review of Economics and Statisticsなどに多数発表。邦訳書『大不平等』(2017)『不平等について』(2012、以上みすず書房)。

「2021年 『資本主義だけ残った』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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